9月に引き続き、都内の浴場では11月にも2つのテーマで「アスリートの湯」を実施します。23日は昨年このコラム101回で紹介した「じゃばら湯」、16日は今回紹介する「マイトルビンの湯」です(※どちらも浴場によっては実施日が異なる場合があります)。マイトルビン? 聞きなれない言葉ですが、どんなものなのでしょうか。開発した株式会社マイトジェニックが3月に次のようなニュースリリースを出しました。
学習院大学発ベンチャーの株式会社マイトジェニック(本社:東京)は、都内銭湯「妙法湯」にて開催して大反響を呼んだ「マイトルビンの湯」を、豊島区・文京区の全銭湯を含む都内29か所の銭湯で同時開催することを発表しました。開催日は2025年4月13日・20日を予定しております。
本企画は、学習院大学(豊島区)・日本女子大学(文京区)の共同研究から生まれた新規成分「マイトルビン」を通じて、銭湯文化とサイエンスの融合を実現する試みです。長年のミトコンドリア研究から発見された同成分は、細胞内のエネルギー産生を担うミトコンドリアを活性化し、健康維持をサポートする可能性が期待されています。
当社は、大学の研究成果を地域社会に還元する取り組みの一環として、地域の銭湯とのコラボレーションを通じた「ミトコンドリアの健康を意識した新たな入浴習慣」の提案を進めています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000153551.html
マイトルビンを理解するためには、「ミトコンドリア」を知らなければならないようです。私たちの体を動かすエネルギーのほとんどは、細胞の中にある「ミトコンドリア」という小器官によって生み出されていますが、ミトコンドリアは、食事から得た糖や脂肪を酸素と反応させて、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー分子をつくる“発電所”のような存在なのです。脳や筋肉のようにエネルギーを多く消費する臓器では、ミトコンドリアの働きが生命活動の鍵を握るといわれています。
しかし、加齢やストレス、生活習慣の乱れなどにより、ミトコンドリアの機能は徐々に低下することが知られています。ミトコンドリアが劣化すると、エネルギー産生が減るだけでなく、老化や代謝低下、神経変性疾患などの要因にもつながるそうです。そこで近年注目されているのが、「ミトコンドリアを活性化させる」という研究分野。これは、ミトコンドリアの数を増やしたり、形や配置を整えたり、傷ついたミトコンドリアを修復・再生させることで、細胞全体の活力を保とうとする試みです。
マイトルビン(MitoRubin)は、そうした最先端の生命科学研究を背景に誕生した機能性素材。学習院大学の研究グループと、ベンチャー企業マイトジェニックが「MITOL(マイトル)」と呼ばれる酵素の働きに着目して開発を進めています。MITOLはミトコンドリアの膜上に存在し、ミトコンドリアの形態制御や品質維持に関わるたんぱく質を調整する酵素です。この酵素が活発に働くと、ミトコンドリアが健康な形を保ち、細胞全体のストレス耐性や代謝効率が高まると考えられています。
マイトルビンは、このMITOLを活性化させることを目的とした化合物として設計されたとされ、実際、同社はマイトルビンを“ミトコンドリアのエネルギー生産をサポートする新しい素材”と位置づけ、入浴剤やサプリメントなどへの応用を進めています。
入浴剤としてのマイトルビンの特徴は、「お湯につかるだけでミトコンドリアを元気にする」というコンセプトにあります。湯船の温熱効果によって血流が促され、体温が上がると、もともとミトコンドリアの代謝も活発になることが分かっていますが、そこにマイトルビンを加えることで、皮膚表面から成分が浸透し、局所的にミトコンドリアの活性化を促すという作用をメーカーは想定しているようです。
ミトコンドリアの活性化を促す「マイトルビンの湯」(写真提供:マイトジェニック)
これまでの銭湯イベント「マイトルビンの湯」では、実際に多くの利用者が「肌がすべすべする」「湯上がりがぽかぽか続いた」といった感想を寄せています。これらは入浴そのものによる温熱・保湿効果とも重なりますが、マイトルビン特有の作用が加わることで、より“疲労回復しやすい”“リラックスできる”感覚が得られると考えられています。香りや色調にも工夫が凝らされ、科学と癒しの融合を体験できるイベントとして人気を集めつつあります。
都内全体の銭湯で「マイトルビンの湯」を開催するのは、11月が初めての試み(写真提供:マイトジェニック)
もっとも、現段階ではマイトルビンのヒトにおける明確な臨床データは限られており、「ミトコンドリア活性化」の具体的な度合いや安全性については今後の研究に委ねられています。入浴剤として使う場合、皮膚から吸収される成分の量はごくわずかなため、どこまで生理学的に意味のある作用を及ぼすかは継続的に検証しているところですが、ミトコンドリアという生命の根幹に関わる器官に焦点を当て、入浴文化と結びつけた発想はユニークであり、健康志向の高まりと科学的関心の両面から注目を集めているといえるでしょう。
ミトコンドリアに関する詳しい情報は下記からご覧になれます。
「アスリートの湯」サイエンス連載 第1回 毎日の運動習慣がミトコンドリアをONにする?
「アスリートの湯」サイエンス連載 第2回 温かいお風呂は運動の相棒? —— “ミトコンドリア・リカバリー”の可能性
「マイトルビンの湯」は、単なる“変わり湯”の域を超えて、入浴を通じて自分の体の中で起きている生命現象に思いをめぐらせるきっかけを提供しているともいえます。湯に浸かりながら、「自分の細胞の中でも小さな発電所が動いている」と想像すること——その意識こそが、現代のウェルビーイングの一歩なのかもしれません。
11月16日(日)は「アスリートの湯」第3弾として、東京都内の銭湯では「マイトルビンの湯」を実施します。実施日が異なる場合があるので、ご利用の銭湯にご確認ください。




