昨年4月から毎月掲載してきました「銭湯からはじまるしあわせ」も、今回で一応一区切りとなります。この連載は2018年に行なわれた調査・研究「銭湯利用と健康指標との関連」(以下、研究と表記します)の論文をベースにした解説記事ですが、おかげさまで他のWEBメディアにも取り上げられました。また、この研究をベースとした動画も「ゆっポくんチャンネル」で発信され、多くの方にご覧いただきました。

【第1弾】銭湯に行くと幸福になれる?!早坂信哉教授が銭湯でリアルタイム自律神経測定!
https://youtu.be/Qa6qO11xhMI

【第2弾】銭湯に行くと幸福になれる?!早坂信哉教授が徹底解説!!
https://youtu.be/5B9c8oelwhQ

【第3弾】銭湯に行くと幸福になれる?!銭湯を愛する女性編《前編》
https://youtu.be/vl8IUzjQOnQ

【第3弾】銭湯に行くと幸福になれる?!銭湯を愛する女性編《後編》
https://youtu.be/ScrO3omW8vY

そこで今回は、このシリーズの総括をしてみたいと思います。
まず、最も話題性の高かった研究結果は、「銭湯に頻繁に通う人ほど幸福度が高い」ということでした。さらに調査データを分析していくと、次のような傾向が明らかとなったのです。

まず男女別です。「非常にしあわせ」と答えた割合は男性で、習慣的銭湯利用者と非利用者の差は34ポイントもありました。一方「非常にしあわせ」の女性の割合は、習慣的銭湯利用者と非利用者の差は26ポイントほどでした。つまり銭湯利用者は男性のほうが「しあわせ感」が高かったということです。ただし、「週1回以上銭湯に通う習慣的な銭湯利用者は対象者が必ずしも多かったわけではなく、また男女におけるしあわせの価値観は多様でさまざまな説もありますから、このデータから断定的な結論を出すのは難しい」というのが、この研究の責任者・早坂信哉教授(東京都市大学)の評価です。

ところが、性別ではなく世代別にしあわせ度の比較をしてみると、興味深い差があることが分かりました。主観的幸福感が「非常にしあわせ」と感じている習慣的銭湯利用者では、20~30代(92.3%)・40~50代(75.0%)・60代以上(44.4%)で、20~30代の割合が高かったのです。特に注目すべきは、20~30代の「非常にしあわせ」は習慣的銭湯利用者のほうが非利用者より60ポイントも高いことです。40~50代をしのぐ高さですが、習慣的な銭湯利用者としあわせ感の関係はこの働き盛り世代に特徴的なことといえるでしょう。「銭湯は高齢者のための施設というイメージから変貌し、最近は若い人もよく利用するようになったと銭湯経営者から耳にしますが、仕事で疲れた働き盛り世代が銭湯でリフレッシュし、疲れを取る場所として活用されてきている一端が、こうした調査結果に表れてきているのかもしれません」と早坂教授は評価しています。

銭湯としあわせ感の関係の地域差について、調査データはこの点でも興味深いものを示唆しており、銭湯としあわせ感の関係性は関西圏で顕著でした。「非常にしあわせ」は首都圏で34ポイント、その他地域で15ポイント、習慣的利用者のほうが非利用者より割合が高いのに比べ、対象者の数は少ないとはいえ、関西圏ではなんと全員が「非常にしあわせ」と答えていたのです。

さらに銭湯入浴の頻度と笑う頻度との関係(シリーズ③シリーズ④)、および主観的健康感との関係についても見てきました(シリーズ⑤シリーズ⑥)。その結果、よく銭湯を利用する人ほど、しあわせ感の象徴的な要素でもある「笑い」が生活の中で多い傾向のあること、自分は健康であると感じる傾向が高いことなどが分かりました。

以上の内容は、4月末に刊行予定の『銭湯検定公式テキストⅡ・心と体に効く究極の入浴医学』(Amazonで発売)にさらに詳しく紹介されています。

ところで、この調査ではもう一つ興味深いことが分かりました。シリーズの7回目で詳しく解説しましたが、銭湯に頻繁に通う人ほどストレスを非常に強く感じている、ということです。「毎日~週1回以上」銭湯を利用する人の23.3%がストレスを「非常に強く感じる」と答えていたのです。銭湯に全く「行かない」人のそれは15.6%、「数カ月に1回以上」通う人の場合は12.6%、「最近行ってない」人では20.3%でしたから、傾向として銭湯によく通う人ほどストレスを感じている、ということになります。これについて早坂教授はこう評価されました。

「どう解釈するかは、なかなか悩ましいところです。この調査の別の質問では、銭湯入浴の頻度が高い人はアクティブな傾向があって、他者との交流が積極的なタイプが多い、ということが分かっていますから、(銭湯という場の問題ではなく、日常生活の様々な場面での)他者との関係性の中で生まれてくるのではないか、と考えることができます」

このシリーズの8回目で少し触れましたが、実はこの調査では、銭湯利用者に「銭湯へ行く楽しみ」と「銭湯に期待すること」についても質問しています。前者については、「体をきれいにする」以外に、「施設の機能面」(広い湯船、ジャグジー・打たせ湯、サウナ、炭酸泉、薬湯、など)が楽しめると答えた人が55.1%、「気分転換」(リラックス、一人でゆっくり浸かる、旅行に行った気分になる、など)と答えた人が28.6%(複数回答可)でした。

一方、後者の「銭湯に期待すること」では、同じく複数回答可という条件で68.6%の人が「健康維持増進」を選びました。その内容としては「リラックス・疲労回復」「健康増進・老化防止・体調改善」「ヒートショックプロテイン効果」などです。「健康維持増進」の次に多かったのは「美容」で、13.0%でした。

やはり銭湯に対する楽しみや期待では、健康に関連する事柄が多いようです。このシリーズの後半、8回目から11回目にかけては、冷え性、肩こり、疲労感など具体的な症状を上げて、銭湯がその解消に役立ったか否かについての調査結果を解説しました。この調査を通して、しあわせ感と健康が密接に関係していること、そしてしあわせと健康を実現する「場」として銭湯が非常に大きなウエイトを占めていることが分かりました。こうした期待に応えるべく、今後も業界全体が連携を強めてクオリティを上げていきたいと思います。

シリーズ「銭湯からはじまるしあわせ」の記事一覧はこちらからご覧になれます。


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