浴場に掲示してあるこのポスター、その人の主観的な健康感について、毎日~週1回以上銭湯に行くコアなユーザーと全く銭湯に行かない人とを比較したものです。ご覧のように、自分の健康状態が「よい」と感じている人はコアなユーザーの30.0%に対して、行ったことがない人はたった19.1%。約11ポイントもの差がついていることが分かりました。数か月に1回以上銭湯に行く人はどうかというと、表1が示すように「よい」が18.4%で全く行かない人と割合上はほぼ同じくらい。また、最近銭湯に行っていない人は10.5%で、行ったことがない人の約半分の割合です。いずれにしても、コアな銭湯ユーザーの「健康状態はよい」という自覚は、それ以外の人たちより断然強いものがあるということが分かりました。

表1 《 銭湯入浴頻度と主観的健康感(男女別)》

男女別に「健康状態がよい」を分析すると、興味深いことにコアなユーザーの男性は23.5%に対して女性は38.5%と開きのあることが分かりました。これに対して、銭湯に行ったことがない人では、「健康状態がよい」男性が23.3%に対して女性は14.8%しかいません。強引に類推すると、銭湯経験のない女性は、銭湯入浴を知ることによって主観的な健康感はグンと増す可能性があるのかもしれません。

表2 《 銭湯のコアユーザーと非銭湯利用者の年代別主観的健康感 》

■毎日~週1回の銭湯入浴(コアなユーザー)

■銭湯入浴の経験はない

年代別の主観的な健康感はどうでしょうか。表2によると、コアなユーザーの「よい」は30代と60代が5割、40代が4割、20代が33.3%、70代以上が14.3%、そして50代は0%でした。前回調べた「笑う頻度」の項目でも、50代は他の世代より銭湯効果?が薄かったのですが、今回も「自分の健康状態はよい」と感じる傾向は弱いことが分かりました。40代と50代の間に立ちはだかる銭湯効果の壁が浮き彫りになっているようです。ただ、銭湯非利用者層でも50代の主観的健康感「よい」は他の年代と比べて最も低くなっていますから、銭湯入浴との関連性はないような気もしますが。

 

表3 《 健康のために支出してもよい額と実際に支出した額 》

■支出してもよい額

■実際に支出した額

資料:厚生労働省政策統括官付政策評価官室委託「健康に関する調査」(2014年)

 

50代はともかくとして、70代の「よい」が60代の半分以下に下がる理由は分かるような気がします。高齢化が進むといわれて久しい日本ですが、自分は元気だと思っている高齢者でも70代にさしかかれば、なんらかの健康上の不安や不具合を持ってしまうもの。2014年に厚生労働省が行った委託調査によると(表3)、健康のために実際に支出した金額で月1万円以上と答えたのは20~39歳が5.8%、40~64歳が7.9%、65歳以上は16.6%(全年齢は9.8%)となっています。65歳以上と未満では月1万円以上を支出する人が倍以上になっているという現実があります。ちなみに、月間の健康のための支出が0円と答えたのは、20~39歳が36.0%、40~64歳が29.6%、65歳以上が17.3%でした(全年齢では27.9%)。

表4 《 地域別主観的な健康観 》

さて、表4が示すように地域別の主観的健康感では顕著な差が現れました。コアなユーザーで主観的健康感が「よい」と答えた人は首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)で50.0%に上ったのに対して、関西圏(大阪・京都・兵庫)は20.0%、その他の地域(首都圏と関西圏を除く)は15.4%でした。圧倒的に首都圏のコアなユーザーの主観的健康感は高かったのです。前回の「笑う頻度」の項では、「非常にしあわせ」な人で「ほぼ毎日笑う」割合は、関西圏50%に対して首都圏32%と大きな開きがありました。関西圏の人たちは「よく笑う」けれども、その資質が「自分は健康だと思う」に結び付かないところが興味深く思われます。

これが銭湯の非利用者となりますと、主観的健康感が「よい」割合は首都圏21.6%、関西圏19.0%、その他17.3%となっており、わずかながら首都圏の「自分は健康」意識が他を上回っていることが分かりました。これらの結果から、銭湯入浴が主観的健康感を育んでいるとする根拠はありませんが、銭湯入浴を頻繁に行っている首都圏の30、40代女性ほど「自分の健康状態はよい」と感じる傾向が強いことが明らかになったといえそうです。

ここまでは主観的健康感が「よい」グループについて、銭湯入浴頻度が高い層(コアなユーザー)と非銭湯利用者層との比較という観点で考察してきました。今回の調査では、主観的健康感については「よい」「まあよい」「あまりよくない」「よくない」の4つの選択肢から選んでもらっています。たとえば「よい」と「まあよい」の選択基準は個々人で異なります。同じように「あまりよくない」と「よくない」も客観的な基準はありません。はっきりしているのは「いい」と思うか思わないか、というふうにも考えられます。この観点から再度、調査結果を眺めてみましょう。

コアなユーザーでは、「よい」と「まあよい」の合計が73%、非利用者は74%、つまりほとんど差のないことが分かります。男女別では「よい」と「まあよい」のコアユーザーの男性が77%、非利用者の男性が73%、同じく女性では69%と74%。いずれも差はわずかで、主観的健康感に銭湯入浴の頻度や有無は一見、あまり影響していないと感じるかもしれません。しかしながら、今回の調査対象は約550サンプルでしたが、この10倍のサンプルで行った前出の厚生労働省委託調査の結果から見ると(表3)、コアなユーザーの銭湯入浴と主観的健康感のよさの関係が際立つことが分かります。

同調査によれば、自分が「非常に健康だと思う」が7.3%、「健康なほうだと思う」が66.4%、「あまり健康ではない」が21.7%、「健康ではない」が4.6%でした。表1の銭湯入浴頻度と主観的健康感(男女別)をもう一度ご覧ください。コアな銭湯利用者は調査対象全体の5.6%(銭湯利用者270名、銭湯非利用者257名、無回答者は除外)に過ぎませんが、その中の3割の主観的健康感が「よい」と答えました。とりわけ女性は4割弱が「よい」となったわけです。これは厚労省調査の割合の5倍以上を占めるわけですから、銭湯の頻繁な利用が、利用者の意識を「私はとても健康だ」と思わせる要素になっていることは明らかといえるでしょう。なぜ銭湯の頻繁な利用が主観的健康感を高めるのか、今後の専門的な考察が期待されます。(以下、次号


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