2021/10/26

トピック

企画・構成=目崎敬三(銭湯ライター)
対談場所:ひだまりの泉 萩の湯(台東区根岸)

「せんべろ」をご存じですか? 「千円でべろべろ」の略で、お酒を安く気軽に飲むスタイルのこと。イラストレーターのラジカル鈴木さんとメソポ田宮文明さんが提案するのは、銭湯料金480円に、湯上がりのお酒を加えて千円以内に収める「せんべろ銭湯」のすすめです。実は東京都内にも安くておいしいお酒を出す銭湯が数多くあるんです。今回はこのお二人が湯上がりの「最高の一杯」をご案内します。

※文中に登場する価格は対談時のものです。なお、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策などに伴い、営業時間やメニューなどが通常と異なっていたり、アルコール類の販売が中止されている場合があります。ご利用の際は、あらかじめご確認ください。

メソポ田宮文明さん(左)、ラジカル鈴木さん


熱烈銭湯ファンによる「せんべろ銭湯」のすすめ(PART1)はこちら

 

PART2. メソポ田宮文明さんおすすめのせんべろ銭湯

資格を持った店長の注ぐビールは泡にまでこだわりが

メソポ それでは今度は私が東京の東側で「せんべろ」ができるおすすめ銭湯を6軒紹介します。

ラジカル 僕は東方面はあんまり詳しくないので、どんな銭湯が出てくるか楽しみです。

メソポ まずは日暮里 斉藤湯(荒川区東日暮里)さん。こちらのおすすめは生ビール(中生=440円)です。店長のBOB(ボブ)さんが直にサーバーから注いでくれます。BOBさんは生ビールのプロフェッショナルを育成する「樽生アサヒクオリティセミナー」を修了されていて、泡の量の具合とか素晴らしいんですよ。

ラジカル 資格を持った方が、泡にまでこだわってビールを注いでくれるとは素晴らしい〜。ビールは泡が大事ですから。でも、どうして店長さんをBOBさんっていうんですか?

メソポ それは……BOBさんが前職時代にタイへ行く機会が多く、その時に現地の人から呼ばれていた愛称が「BOB」だったそうです。オーナーの親戚で、とても気さくな楽しい方なんです。

ラジカル 生ビールにおつまみは付きますか?

メソポ 無料のミニ柿ピーが付いてきます。

ラジカル やった! それ大事(笑)。

日暮里 斉藤湯(荒川区東日暮里)

 

メソポ 次は殿上湯(北区西ヶ原)さん。こちらは2020年、ロビー脇に立ち飲みのバーカウンターを、若旦那さんがDIYで作りました。

ラジカル 立ち飲みは銭湯で珍しいですね〜!

メソポ いい雰囲気ですよ。地下130mから汲み上げた天然水で若旦那さんまたは若女将さんが作ってくれる、レモンサワー(400円)とハイボール(450円)がおいしくて。汗をかいた体にツイ〜〜としみ込んでいきます。銀座の高いお店で飲んでいるような錯覚をしてしまいます。

ラジカル いまは炭酸水を作れる装置がありますから、地下水と組み合わせてお酒を出すというのは、ナイスアイデアです!

メソポ 奥様はツイッターで情報発信もされています。遠くの方もぜひ足を運んでいただきたいですね。

殿上湯(北区西ヶ原)

 

三軒目は前回の対談で殿堂入りさせていただいたタカラ湯(足立区千住元町)さんです。

ラジカル おおっ。“キング・オブ・縁側” のタカラ湯さんは、せんべろも充実しているんですか?

メソポ はい。まずはロビーにおいてある冷蔵ケースの大きさに驚かされます。そして、中に入れてあるドリンクの種類が豊富なんです。

ラジカル どんな銘柄があるんですか?

メソポ 私が行ったときは「オオサカハイボール」という、関西独自のミックスジュースのような飲料で割った缶入りアルコールが置いてありました。チューハイ、サワー系は180円、ビールは260円というお値段も素晴らしかったですね。そしておつまみはうまい棒10円、でん六豆50円などがあります。「利益よりもサービスの一環として提供してます」とご主人がおっしゃっていました。

ラジカル さすが、昭和の良きレトロの香りがします。これからは”キング・オブ・せんべろ”の銭湯としても注目ですね。

タカラ湯(足立区千住元町)

 

「萩の湯」ご主人のおすすめは「せんべろを超える飲み放題」

メソポ 四軒目はタカラ湯さんとは逆に現代的な、黄金湯(墨田区太平)さんを紹介します。クラフトビールを出してくれるのですが、オリジナルの「黄金湯ビール」(生=600円)が人気です。期間限定ビール(生=600円)やハイボール(450円)などもあります。

ラジカル 名前がいい! 黄金湯だから黄金ビールなんでしょうが、ビールの黄金色の輝きにもかけて、ナイスなネーミングだなあ。

メソポ もちろん味も最高ですよ。こちらは若い人たちをターゲットにした銭湯で、内装なども他にはない作りになっています。DJブースのあるロビーカウンターでビールを飲むと、ちょっとしたクラブの雰囲気ですよ。

ラジカル おじさんが行くクラブではなく、若い人が集まるクラブのほうですよね(笑)。僕も先日行ってみましたが、ここも立ち飲みスペースがありますよね、あそこで飲みたいなあ。

黄金湯(墨田区太平)(Photograph credit : Yurika Kono)

 

メソポ 五軒目は改栄湯(台東区三ノ輪)さん。2020年の11月にリニューアルされたばかりなんですが、コンセプトが”下町のラグジュアリー銭湯”で、とても清潔できれいです。軟水を使ったお風呂は、熱湯浴槽はしっかりと熱くて、水風呂も広く、サウナ、炭酸泉もあります。

ラジカル 軟水いいなあ〜。お肌がツルツルになりますね。で、湯上がりの一杯はどうなんですか?

メソポ 休息所にテーブル席があって、お酒を飲むことができます。私のおすすめはサントリーのプレミアムモルツの生(500円)。「ビールはキレ」派のラジカルさんすみません、私は「香りとコク」が好きなもので(笑)。

ラジカル よ〜く冷えていればかまいませんよ!

改栄湯(台東区三ノ輪)

 

メソポ 最後の一軒ですが、なんといってもここひだまりの泉 萩の湯(台東区根岸)さんです! せっかくですからご主人の長沼雄三さんをお呼びして、一杯飲みながら話を聞きましょう。

長沼 (ニコニコ笑いながら)田宮さん、いつもお世話になってます(注:メソポ田宮文明さんの連載漫画「銭湯戦士セイント☆セントー」は浴室限定で毎月更新されている)。

萩の湯オーナーの長沼雄三さん

 

メソポ 萩の湯さんは銭湯として都内最大級ですが、居酒屋のような立派なお休み処があって、飲食にも力を入れています。アルコール販売に関してはどのように考えていらっしゃいますか?

長沼 今年、クラフトビールを始めまして。一杯520円で、4種類あります。セレクトはメーカーさん(キリン)に任せています。

ラジカル 入浴料金480円と合わせて1000円。見事なせんべろになりますね。

長沼 今はコロナもあって、なかなかお酒の展開は難しいところもありますが、「おつまみがついた晩酌セット950円」のほかに「1時間半飲み放題の2000円の晩酌セット」というのも2020年の12月からやっています。どちらのコースもおかげさまで人気ですね。飲み放題だと、5、6杯飲む人もいらっしゃいます(笑)。

ラジカル 千円以内じゃすまなくなるその気持ち、と〜ってもわかります!

ひだまりの泉 萩の湯(台東区根岸)

 

メソポ 今、サウナがブームですが、サウナーはやっぱり湯上がりに飲む人が多いですか?

長沼 サウナを利用される方に限らず、昼間からいらっしゃる方は飲む人が多いですね。ウチは飲んでも問題のない、徒歩で来店する方が多いっていうのもあります。ところで、銭湯でいつも飲んでいるお二人に、「こうしたらどう?」というアドバイスをお聞きしたいのですが。

ラジカル 十分なメニューが揃っていますが、もっと欲をいえば、おつまみのバリエーションを増やしてほしいですね。もずく酢とか、それこそにんにくとか、健康にかかわるものがあると、人気が出るんじゃないでしょうか。

メソポ 今回のテーマは「せんべろ銭湯」ですが、酔いつぶれるような飲みかたでなく健全な”ちょっと飲み”ができる場所としての銭湯、清潔な飲み処、そういった点をもっとアピールしてはいかがでしょう?

長沼 なるほど。参考になります。 さて、どうですか、もう一杯お飲みになられては?

メソポ はい。見事な「せんべろ越え」になりました(笑)。

ラジカル お風呂のあとのおいしいビールに、東西の違いはありませんね。おかわりお願いしま〜す!

(了)


ラジカル鈴木(らじかる・すずき)

イラストレーター、文筆家。銭湯愛好家、にんにく愛食家。
年間300日銭湯に通う。2021年6月末現在、都内銭湯は、今は無き店舗も含め287軒訪湯。遅れて始めた銭湯お遍路帳は三冊目最後のページ。全国では350湯以上来湯。
2018年銭湯とプリンスを融合させた個展「LOVESEXY風呂」みどり湯(目黒区緑が丘) 押上温泉 大黒湯(墨田区横川)で開催。同年、gallery yururiにて関連トークイベントを開催。 散歩の達人、日刊ゲンダイ、日刊大衆、等で銭湯に関する執筆、絵付きの取材、放送出演も多数。 
名画座探訪
ラジカル鈴木 公式サイト

 

メソポ田宮文明(めそぽたみや・ぶんめい)

イラストレーターを中心とした自由業者。日本漫画家協会会員。
『銭湯もりあげた~い』隊員で公式キャラ『お湯わいてるぞう』作者。
銭湯好きが高じて、近年では薬師湯(墨田区向島)・ひだまりの泉 萩の湯(台東区根岸)・寿湯(台東区東上野)で3銭湯浴室限定漫画『銭湯戦士 セイント☆セントー』連載、2018年、台東区浴場組合タオルデザインを担当。
玉の湯(足立区綾瀬)のれん・浴室デコレーション、寺島浴場(墨田区東向島)Tシャツ・トートバッグのデザインなども手がける。
昭和レトロ系webサイト『ゴールデン横丁』で銭湯関連エッセイを連載中。