「昔はね、3階でサウナやってたの。『羽田サウナ』って言って、酵素風呂とかもね、やってて。テレビにも出たことあるんですよ。30年くらい前にやめちゃったけど」と話すのは、大田区にある宝湯のご主人。
世の中には時代を先取るってことがありますね。一周回って新しいという言葉もありますが、でも既に一周してるわけで、時代のほうが遅いってことになります。
これって、商売的な先見の明もあるんでしょうが、単純に好奇心から来ることもあるようで、前向きなことですごくよいと思います。
宝湯は東京の玄関口羽田空港に程近い大田区大鳥居にある。遠方の方は「何の鳥居?」って思うでしょ? 穴守稲荷です。由緒あるお稲荷さん。鳥居自体は現存してませんが。
羽田は、元は漁師町。そんな土地に根差した銭湯ゆえか「新しいお客さんを集めようとは思ってなくて、地元のお客さんに通ってもらえればいいかなって思ってるんですよ。取材とかも断ってるし」とご主人。
現にお客さんは地元の方が中心。宝湯を楽しみに通っている。
高齢の方には、銭湯は人と触れ合う貴重な場にもなる。定期的に通っていた方が見えなくなれば、皆が心配して様子を見に行ったり、現代の井戸端会議、情報交換の場に銭湯は役立つ。
「新しいお客さん? 若い人が増えてますね。20代から30代くらいかなあ? それとこの辺りは銭湯少ないから、他のお湯屋さんが休みだとこっちに回ってくるみたい。あと、羽田が近いから空港関係の人とかね、結構来ます」
そういう方々の寮が近所にあるらしい。航空業界、責任も重いし大変なお仕事ですから、広い湯船に手足を伸ばしてリラックスしてほしいです。宝湯で緊張を緩めてお仕事頑張っていただきたい。アテンションプリーズ。
お客さん、少しずつでも世代交代のように繋がって行っているのもいいね。既に家風呂が当たり前の世代に、銭湯の魅力を知ってくれたというのは希望につながる。
話を戻して、新しいものは新しいものの中にあるとは限らない。
宝湯は、今でこそ貫禄のある建物になったが、約50年前に宮造りが当たり前の銭湯の中で、鉄筋のマンション型銭湯を建て、2階にはスナック等のテナント、3階に酵素風呂やサウナを造り、今の総合レジャー施設の体を成していた。銭湯が日常の一コマの時代に既にレジャー化を先取りしていた。これらは今の銭湯の生き残り策に通ずるものがある。
残念ながら建物老朽化などのため、今は1階の銭湯の営業一本に絞っているが、新しいものへの好奇心はそのまま。取り入れるフットワークの軽さは健在。
「うち、電子決済できます」
新しい=施設が斬新とは限らない。こういったより細やかな所にも新しい物を取り入れている。QR、クレジット、交通系IC等カウンターにスマホかざして、そのままのれんをくぐっていくのはこれからの銭湯の形に違いない。銭湯の「銭」の字の由来を語る時代がそのうち来るのだろうか?
ご主人は、元はコンピュータ会社でSE(サービスエンジニア)として働いていた技術屋さん。パソコンやオーディオも自分で組み立てるほどの器用さをお持ちだ。そんな個性が宝湯に映されている。
宝湯は決して新しい建物ではないが、古さを感じさせない。
なぜだろう?
「これは昭和47年に張った床で、定期的に削ってはワックス掛けて、もちろん毎日掃除してます」
そう、「新しい」を持続するための努力。ここが気付きにくいかも知れないが、宝湯が輝きを失わない肝なのだと思う。がわだけ取り繕うのではなく、中からも「新しい」を維持し続ける。
今は娘さんが銭湯を手伝い、お孫さんがカウンターで接客することもあるという。
「お話好きな子で最近は孫と話すのを楽しみに通う常連さんもいるんです」
お孫さんの話をするご主人の目は優しい。
いろいろ宝湯を楽しくするアイデアもお持ちのようだが、それは建て替えた後かな、とご主人。
新しい物好きのスピリッツは次世代に受け継がれ、今は「レトロ」で「新しい」を隠しているが、青虫が蝶になるようにいつか銭湯好きをワクワクさせる宝湯に変わって行く気がする。
(写真・文: 三遊亭ときん)
【DATA】
宝湯(大田区|大鳥居駅)
●銭湯お遍路番号:大田区 15番
●住所:大田区東糀谷3−4−8(銭湯マップはこちら)
●TEL:03-3743-2027
●営業時間:15時30分〜23時30分(日曜・祝日は15時から営業)
●定休日:月曜、木曜
●交通:京浜急行線「大鳥居」駅下車、徒歩2分
●ホームページ:https://ota1010.com/explore/宝湯/
X(旧Twitter):@FfXabN4XdcEvvM2
※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

















