地元に愛され63年。みんなの“お茶の間”のような銭湯


フロントにはシャンプー・リンスなどのほか、銭湯グッズも並ぶ

大田区・鵜の木の住宅街に、ひときわやわらかな灯をともす銭湯がある。
それが第二栗の湯。創業から63年目を迎えた2025年8月、約40年ぶりのリニューアル工事を終えて営業を再開した。

リニューアルと聞くと“すっかり新しくなった”という印象を受けるかもしれない。だが第二栗の湯のあたたかさは、工事前と少しも変わっていない。昔のままの雰囲気やいいところを残しつつ、設備は最新に。常連さんに愛され続ける雰囲気をできる限り変えないことにこだわった。

取材の日も、受付の奥から「こんにちは! いらっしゃい」と明るい声。一歩足を踏み入れた瞬間、まるで“実家に帰ってきたような”安心感に包まれる。


お話好きでニコニコ笑顔が印象的な初代ご主人と2代目の女将さん

19代続く江戸っ子の夢を叶えた場所


男湯浴室からのぞむ脱衣場の赤富士

「すごく楽しかったから、やりたかったんですよ。お風呂屋を」

そう笑うのは、初代ご主人。19代続く目黒区の農家に生まれ、兄が桜新町で開業した銭湯を手伝い始めたことをきっかけに、自らも“湯の道”に進む決意をしたという。
この地に決めたきっかけは偶然から。石けん卸会社の知人に風呂屋をやりたいと話したところ、「鵜の木にいい場所があるよ」と紹介されたのがここだった。

創業当初は木造の銭湯で、建物ごと買い取り営業を始め53年前には鉄筋に建て替える大規模リニューアルを行った。「第二栗の湯」の由来は、苗字の「栗山」と、兄に続いて2軒目ということで「第二」とつけたそう。

その後、1989(昭和64・平成元)年の修繕を経て、今回2025(令和7)年のリニューアル──時代が移ろうなかでも変わることなく、訪れる人々の身も心もあたためてきた。

「とにかく夢中で働いて、気づいたらこんなに年月が経ってたね」とご主人は笑う。現在は、娘さんである2代目の女将さん夫婦と共に、家族で協力しながら銭湯を営む。


鵜の木駅から徒歩5分。屋根と看板の配置が印象的

やわらかな井戸水100%。力仕事の記憶がよみがえる


男女共に超音波座風呂、ラジウム風呂・電気風呂、変わり湯が並ぶ

「昔は薪で沸かしてたのよ。父が空き家や建築現場を回って廃材をもらい、自分で切って運んでね」と女将さん。

そんな思い出話には、銭湯の仕事が重労働だった時代の力強さがある。今も第二栗の湯の湯船を満たすのは、地下10mから汲み上げる井戸水だ。「きれいないい水が湧くことに本当に感謝してるんですよ」とご主人。

掘りすぎると“黒湯”が湧く土地柄だが、昔は「お湯が黒いのはちょっと……」と敬遠されていたため、透明な井戸水を使ってきたという。やわらかく肌なじみのよい湯ざわりが評判で、ラジウム石を使用した風呂も人気。


お湯は40〜41℃と入りやすい温度

毎日が「変わり湯」──いろんなお湯を楽しんでほしい


男湯の変わり湯。写真は草津湯の日

第二栗の湯のもう一つの名物が「変わり湯」。草津温泉の湯を再現した「草津湯」をはじめ、漢方湯や薬湯など、バラエティ豊かなお湯を日替わりで提供している。

「最初は草津湯だけだったけど、常連さんが“他の湯にも入りたいな”って言うから、いろいろ試してみたの。カレンダーはあえて作らないの。選り好みせず、いろんなお湯を楽しんでほしいから」

女将さんがそう語る通り、その日のお湯はX(旧Twitter)で発表される。人気の草津湯は主に土日だが、「気まぐれだから、その日になってのお楽しみ」とにっこり。

冬には体を芯から温める漢方湯や、腰痛に効く湯も登場する。
「お客さんは正直なのよ。いい湯は“今日の湯、最高!”ってすぐに声かけてくれるの」
そんなやりとりも、この銭湯の魅力の一つだ。


女湯の変わり湯。まだ新しいペンキ絵の富士を眺めてつかる

“みんなのお茶の間”のような居場所


常連さんたちが第二栗の湯を描いたという絵が休憩室のあちこちに

常連さんはもちろん、新潟や静岡などから東京に来るたびに立ち寄ってくれるという人も。また、初めて銭湯に入るというお客さんが、帰り際に「銭湯っていいね」と言ってくれたときも、すごくうれしい、と女将さん。掃除も受付も毎日のルーティン。でも、「同じ一日はないの」と語る。おしゃべり、笑い声、差し入れ──それぞれの人が日常のひとコマを持ち寄り、この場所を“みんなのお茶の間”にしている。


「鵜の木周辺は、作家やアーティストが多いのかも」と女将さん


懐かしさを残して、令和の空間へ


脱衣場には大きな赤富士と鶴で、縁起がいい

今回のリニューアルでは、設備を一新した。脱衣場はより広く、清潔に。椅子の配置を工夫し、今後は湯上がり用の扇風機も増やす予定だ。女湯には新たに化粧ブースを設け、より快適にくつろげるような空間になった。


男女共に真っ白な壁の清潔な脱衣場(写真は男湯)


カランにある椅子は座面が高めで座りやすい

浴室のカランは全て一新して、浴槽もきれいになった。一方で、浴槽側の壁面を飾る印象的なグリーンのタイルは、53年前のまま。今はもう同じようにタイルを貼れる人がいないという職人技だ。脱衣場の天井は塗り替えているが、改装前と同様に鶴が舞う。「空を見上げているような気持ちで、ゆっくりしてほしい」との思いが込められている。

そして今回新たに加わったのが、田中みずき絵師による富士山のペンキ絵だ。男湯・女湯それぞれに1枚ずつ。また、脱衣場には大きな赤富士(葛飾北斎の複製画)のパネルも。


海と富士の眺めが美しい

男女共に、浴室のペンキ絵の中には、ご夫婦が飼っている猫2匹(にゃん太、ぽぽちゃん)と犬1匹(らんちゃん。銭湯の犬らしく2025年11月26日に虹の橋を渡った)がさりげなく描かれている。
「気づいた人が“あっ、いた!”って笑ってくれるのがうれしいの」と女将さん。

サウナは全面ヒノキ張りにリニューアルされた遠赤外線タイプ。男女とも4人ほど入れるサイズ感だ。なんと無料で入れるというのもありがたい。

水風呂はないが、立ちシャワーは優しい雨のような水流か、滝のような水流に切り替えられる仕組みになっており、シャワーのみでも十分気持ちいい。

また、水風呂の代わりにと“ととのいスペース”を新設し、ゆったりくつろげるようになった。
「常連さんを“浦島太郎”にしないように、昔の雰囲気は残しつつ今の良さを取り入れたんです」


じんわりとした熱さのサウナは男湯が90℃、女湯が85℃ほど


昼間は窓からの光を浴びながらととのえる

ふとしたときに、帰りたくなる


隣にはコインランドリーを併設

取材を終えてゆっくりと湯につかり、外に出ると、夜の空気が心地よい。のんびりした住宅街に灯る看板を眺めながら思う。63年という時間の中で、この湯は何千、何万という人の心と体を温めてきたのだろう。

「毎日違うし、毎日楽しい。銭湯ってそういう場所なのよ」

第二栗の湯は、今日も湯けむりと共に穏やかな笑顔で迎えてくれる。それはきっと、これからも変わらない。あたたかな湯と人のぬくもりを、静かに受け継いでいく。

新しくなっても、懐かしい。

近所のこどもが「ただいま!」と扉を開ける。長年通っていた常連客が、引っ越してからもたまに入りに来てくれる。そのたびに「おかえり!」と優しく迎える。そんな瞬間がこの銭湯の“いのち”だと思う。

鵜の木の第二栗の湯、63年目の再出発。
湯気の向こうに、変わらない笑顔があった。

(写真・文:銭湯ライター 林田紗央莉


【DATA】
第二栗の湯(大田区|鵜の木駅)
●銭湯お遍路番号:大田区 23番
●住所:大田区鵜の木2−46−1(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3757-1450
●営業時間:14時〜24時
●定休日:金曜
●交通:東急多摩川線「鵜の木」駅下車、徒歩4分
●ホームページ:http://ota1010.com/explore/第二栗の湯/
X(旧Twitter):@daini_kurinoyu

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入り口では、味わい深い下駄箱が迎えてくれる