今回紹介する銭湯は、昭和31(1956)年創業の江戸川区の鶴の湯。千鳥破風の屋根が特徴的な東京型銭湯の代表格である。

私が鶴の湯を初めて撮影したのは2010年の夏のこと。ほれぼれするような破風造りの鶴の湯を撮影できることに歓喜したことが思い出される。あれから15年。ご主人の中山光雄さんに会うのもそれ以来だが、当時のことを覚えていてくれた。

中山さんは、かつてはギタリストで、新宿のライブハウスを満員にしたこともあるバンドマンであった。その新宿のライブに来ていたのが鶴の湯の次女で、その後二人は結ばれる。バンドマンをやめて銭湯を継ぐという判断には紆余曲折があり、義母の支えが銭湯を営む上で必要な知識を身に付ける手助けになったという。

鶴の湯のように、寺社仏閣のような立派な佇まいを保っている銭湯は都内でも珍しい。特に鶴の湯ならではの特徴として強調しておきたいのが、露天風呂から眺める煙突である。銭湯にとって煙突は、お湯を沸かす時に必要な機能であるとともに、看板の役目も果たしており、煙突に屋号が書いてある銭湯も少なくない。さらに鶴の湯の煙突は、露天風呂につかりながらその姿を愛でる楽しみも兼ねている。無理やり写真に収めることは可能でも、実際に間近で見る迫力は、写真では表現しきれないほどの存在感がある。

そして、もう一つ忘れてはならないのが、田中みずきさんによる背景画だ。現在の絵は中山さんが葛飾北斎の富嶽三十六景の中から選んだ絵柄をもとに、2019年に描かれたものだが、毎年加筆されているのも興味深い。たとえば江戸川区の銭湯応援キャラクターの「お湯の富士」が増えていたりと、少しずつ変化を重ねている。全体的に繊細な画面構成は北斎の絵を忠実に再現しながら、細かい所に至るまで、田中さんの技術には目を見張るものがある。

なお、鶴の湯の屋号が女将さんの生家の鶴岡家に由来しており、女湯の背景画には鶴が描かれていることも忘れてはならない。

ところで、前回の撮影時は瓦葺きの屋根だったが、3年前に地震対策として全ての瓦を下ろしたという。

15年前に撮影した鶴の湯。重厚な瓦がのっている

 

中山さんに言われるまで気がつかなかったが、それでも鶴の湯が持つ堂々たる佇まいは全く損なわれていない。むしろ、今の時代に建築当時の状態を残していることで、その存在価値が増しているような気がする。15年を経て改めて撮影できる機会に恵まれたことは、このテーマを続けてきたご褒美ではないだろうか。これからも、時間が経過した痕跡を写真に残すためにも、銭湯を撮り続けたいと思う。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
鶴の湯(江戸川区|京成小岩駅)
●銭湯お遍路番号:江戸川区 25番
●住所:江戸川区北小岩7-4-16 (銭湯マップはこちら
●TEL:03-3658-5378
●営業時間:15時~23時(最終入店22時半)
●定休日:水曜
●交通:京成線「京成小岩」駅下車、徒歩5分
●ホームページ:https://www.oyunofuji1010.com/gallery/2118/


今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。
http://www.imadaphotoservice.com/

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帝国湯(荒川区)

 

小平浴場(小平市)(※廃業)