2021/03/31

銭湯BOOKS

銭湯を写真に記録するのは難しい。

長時間営業する銭湯の浴室や脱衣場を撮影できるのは、開店前のわずかな時間だけ。写真集『東京銭湯 SENTO IN TOKYO』の著者である今田耕太郎氏は、その短い時間に脱衣場から浴室まで撮影する。臨場感がある写真を撮ろうと、時にはカメラを抱えて裸で湯船につかる。またある時は、夕闇に染まり始めた銭湯前の路上に佇み、客がのれんをくぐるタイミングをひたすら待つ。そんなふうにして今田氏は15年間にわたり銭湯を撮影してきた。

紹介されているのは31軒の東京銭湯。昭和を感じさせるレトロ銭湯もあれば、近年リニューアルしたばかりの銭湯まで、一つとして同じものがない銭湯のさまざまな表情が興味深い。

玄関の明かりに照らされる家族連れ、ひょうたん型の湯船、浴室を彩る錦帯橋のタイル絵など、よくある銭湯の風景にも思えるが、二度と見ることができないものも含まれている。写真におさめられた後に廃業してしまい、建物自体存在しないからだ。今は存在しない銭湯の現役時代の姿を目にすると、懐かしさとともに寂しさがこみ上げる。

さて、銭湯は建物や設備について語られることが多いが、この写真集では屈託のない笑顔を見せる経営者や入浴客の姿が多く登場する。今田氏は建築写真家だが、建物自体の記録にとどまらず、経営者やそこに通う人たちも写真に収めることによって、温かみのある銭湯が表現されている。

銭湯を中心に人の営みも切り取る撮影手法は、初の銭湯撮影の際、女将さんがおにぎりとけんちん汁を出してくれ、若き日の今田氏が感激したという、巻末に掲載されているエピソードと無縁ではないだろう。建物だけでなく、銭湯を取り巻く人間模様に興味を抱いたことが、銭湯の撮影に長年取り組む原動力となったように思える。建物と人、どちらが欠けても成り立たないのが、今田氏が表現する銭湯の魅力である。

銭湯を撮影した日々は、駆け出しの若者が独立して建築写真家として一本立ちするまでの年月にそのまま重なる。銭湯に向き合うあまり、今は銭湯が経営するアパートに事務所を構えるようになったという著者の青春記ともいえる写真集だ。

帝国湯(荒川区)

 

小平浴場(小平市)

 

掲載銭湯一覧
①帝国湯(荒川区) ②佐原浴泉(足立区) ③六龍鉱泉(台東区) ④日の出湯(葛飾区) ⑤タカラ湯(足立区) ⑥曙湯(台東区) ⑦富来浴場(荒川区) ⑧曙湯(足立区) ⑨千代の湯(葛飾区)  ⑩曳舟湯(墨田区) ⑪梅の湯(荒川区) ⑫三筋湯(台東区) ⑬常盤湯(江東区) ⑭第二和泉湯(江東区) ⑮稲荷湯(北区) ⑯えびす湯(北区) ⑰亀の湯(北区) ⑱たつの湯(練馬区) ⑲三原台富士の湯(練馬区) ⑳小平浴場(小平市) ㉑花の湯(板橋区) ㉒天徳湯(杉並区) ㉓弁天湯(杉並区) ㉔宇田川湯(世田谷区) ㉕大黒湯(目黒区) ㉖山の湯(豊島区) ㉗松本湯(中野区)  ㉘万年湯(新宿区) ㉙松の湯(新宿区) ㉚栄湯(新宿区) ㉛第二日の出湯(大田区)


【DATA】
写真集『東京銭湯 SENTO IN TOKYO』
著者:今田耕太郎(フォトグラファー)
寄稿:グレッグ・ドボルザーク(早稲田大学教授)
判型:260×260mm
頁数:108頁(オールカラー)
発行:2021年3月31日
全テキスト和英併記
定価:6050円(税込)
発行:株式会社ネクト編集事務所
販売公式サイト:https://shop.nect-tokyosento.site
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【著者プロフィール】
今田耕太郎(いまだこうたろう)
1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月より銭湯PR誌『1010』の表紙写真を担当。2015年4月からは東京都浴場組合公式ホームページ「東京銭湯」においてトップページの写真を担当。同ホームページでは、エッセイ「レンズ越しの銭湯」も好評連載中。

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