まるで熱いシャワーを浴びているような陽射しが降り注ぐ猛暑の午後に、十條湯の撮影を行った。

十条駅から商店街を進み、住宅が立ち並ぶ路地を抜けると、裏路地とは思えないほど頻繁に人が行き交い、地元住民の生活の息吹を肌で感じるところに十條湯がある。

駅前は再開発で高層ビルの建設が進み、街並みに変化が生まれつつあるが、個人商店が軒を連ねる商店街は街の歴史を物語る。ドローンから見た光景には、この街に存在し続ける銭湯のたくましさと郷愁が交差する。

十條湯の撮影を開始したのは、開店の2時間前である。開店準備と同時進行の撮影はいつも慌ただしく、営業中には味わえない緊張感が漂う。色鮮やかなタイル絵はペンキ絵とは違う趣で、浴室に安らぎを与えている。撮影の最中にご主人が入浴を始めるというハプニングが発生したが、そんな時に女将さんと顔を見合わせてほほえむことができるのも、銭湯の撮影ならではの瞬間である。そのお風呂上がりの直後に撮影したポートレートでは、ご主人のリラックスした表情が印象的だ。

さて、私の撮影では常に三脚を利用している。それはパンフォーカスという設定で撮影しているのと、被写体に対して水平垂直を維持してカメラを設置することに関係している。しかし、今回撮影した写真の中には、水面ギリギリで撮影した写真がある。それは手持ちで撮影して、後から建築写真として仕上げた写真である。セオリー通りの建築写真の中に、そんな遊びのカットも加えると、写真全体にリズムが生まれて臨場感が湧いてくる。

さらに私の銭湯の写真に欠かせないのは、ご主人や女将さんのポートレートである。撮影を恥ずかしがることが多いご主人や女将さんのポートレートは、撮影をお願いするタイミングと、撮影するまでのコミュニケーションがとても大切だ。

薄暮の時間帯の銭湯は、一日の中で最も銭湯らしい、ドラマチックで風情のある光景を見せてくれる。人物の動きや光の具合により何十回もシャッターを切ることもある。写り込む人物は小さいが、顔の向きや歩き方、話している会話の内容を想像して、銭湯とかかわりが生まれる瞬間をひたすら待ちながら撮影をしている。

銭湯を長年撮影していると、撮影の目的が年を重ねる毎にシンプルになり、撮影をさせてもらえるだけで喜びを感じる。今の目的は、私が銭湯で感じた喜びと感動を写真に残すことであり、それが見た人に伝わることを願いながら撮影を続けている。一軒でも多く営業を続けて、大勢の人に銭湯を営む人の優しさに触れてもらいたい。

今回撮影させてもらった十條湯は、昭和24(1949)年創業で、現在のご主人は2代目に当たる。1985年から営まれてきた喫茶店は、銭湯継業の専門集団”ゆとなみ社”の経営支援を受け、2021年に「喫茶深海」としてリニューアルオープンした。銭湯と喫茶店という、他にはない個性的な組み合わせが人気で、今は喫茶店目当てのお客さんも少なくない。十條湯は笑顔がすてきなご家族とスタッフで営まれており、撮影の合い間の少ない時間ではあったが、この銭湯の魅力を再確認できたような気がする。

情け容赦なく照りつける暑さに耐え抜いた日没後には、人の優しさに触れるのも夏の銭湯の楽しみ方かも知れない。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
十條湯(北区|十条駅)
●銭湯お遍路番号:北区 15番
●住所:北区十条仲原1-14-21(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3900-4600
●営業時間:15時~23時、日曜は8時~12時も営業
●定休日:金曜
●交通:埼京線「十条」駅下車、徒歩5分
●ホームページ:-
●Twitter: @jujoyu_1010

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今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。
http://www.imadaphotoservice.com/

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