「その日の疲れはその日のうちに癒してほしい」というお客さんへの願いを胸に、銭湯を営むのが松本湯3代目ご主人の松本元伸さん。松本湯は昭和11(1936)年に創業し、平成元(1989)年に木造の銭湯からビル型銭湯に建て替えた。そして今年、令和3(2021)年に32年ぶりとなる大改修を行い、8月1日に装い新たにオープンした。

前の通りから続くアプローチには鳥居型の街灯が立ち並び、入り口には元伸さんのお母様の筆文字が元となった「松本湯」の看板が輝く。松本湯へ訪れる人はこのアプローチを通り抜けてお風呂に入り、そして帰路につく。長さでいえば十数mの長さだが、待ち合わせをしたり、湯上がりに一服したり、写真撮影したりと、それぞれが思い思いに過ごしている光景がいかにも松本湯らしい。

大改修とはいえ、以前の松本湯の面影が全てなくなったわけではない。以前は玄関で出迎えてくれた二羽の鳥のステンドグラスはロビー奥の畳のエリアへ移し、そこで過ごすひと時に彩りを添えている。浴室の壁を彩ったタイル絵も、新しい浴室のスクリーンに映し出されており、以前の松本湯を知る人は懐かしみ、これから松本湯を訪れる人の目には新鮮に映るはずである。

この度の大改修でご主人が特に力を入れたのがサウナであり、それに隣接した水風呂へのこだわりである。新しくなったサウナは明るく広々とし、足元を照らす間接照明が空間演出と利用者への配慮を兼ね添え、ご年配の方も安心してくつろげる。ご主人が、九州で26軒、関西で13軒の浴場施設を巡り、各浴場の人気の秘訣や利用者の導線などを参考にしたという。特に水風呂にはサウナ好きのご主人のこだわりが色濃く反映されていて、「水深150cm、水温16度」は新しい松本湯の特色の一つである。

松本湯の人気の秘訣をさらに付け加えると、ご主人が企画して改修前から行われていたサウナ関連のイベントだ。「アウフグース」や「屋上テントサウナ」がきっかけとなり、SNSなどで話題が広がり、今は遠くからも足を運ぶ利用者が増えている。私が銭湯の撮影を始めて間もないころは、銭湯で若者を見かける機会は少なく、webの銭湯マップも普及していなかったため、銭湯を見つけることは今ほど簡単ではなかった。

今の松本湯の人気を見ていると、「サウナのある銭湯」が今後の銭湯の歴史に大きなムーブメントとして刻まれる予感がしてくる。この流れは銭湯の魅力を伝える立場としてうれしいことであり、新たな層の銭湯ファンが増えるきっかけになっているといえる。

「黙浴」が定着しつつある昨今、銭湯でのマナーもリニューアルされつつあるが、それでもコロナに負けずにサウナで自分を癒してあげてほしい。そして、銭湯をこよなく愛す銭湯ファンは、これから増えるサウナーを、同じ空間を必要とする仲間として歓迎してほしい。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
松本湯(中野区|落合駅)
●銭湯お遍路番号:中野区 19番
●住所:中野区東中野5-29-12(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3371-8392
●営業時間:14~24時、日曜8~12時, 15~24時
●定休日:木曜/祝日の場合は翌日休
●交通:東京メトロ東西線「落合」駅下車、徒歩3分/JR総武線「東中野」駅下車、徒歩8分/西武新宿線「下落合」駅下車、徒歩8分
●ホームページ:http://www.matsumoto-yu.com/
Twitter:@matsumoto_1010

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今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。
http://www.imadaphotoservice.com/

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