「瓦は私が登って直すんです」と話すのは、今回撮影した「えびす湯」の3代目である若旦那の勇治さん。年に1、2回は足袋を履き、屋根に登って修理しているそうで「てっぺんまで登ると眺めがよくて、気持ちがいいです」と笑う。

立派な瓦屋根を持つえびす湯の創業は、昭和34(1959)年。大通りに面した路地の入り口からは、東京銭湯定番の立派な宮造り建築が見える。正面入り口がマンションで隠れている、ちょっと珍しい立地だ。ちなみに大通りを挟んだ向かいは、花見の名所・飛鳥山公園である。

さて、井戸水を薪で沸かすえびす湯を支えるのは、解体屋さんが持ち込んでくれる廃材。
「突然連絡が来るんですよ。電話があって10分後に到着なんてこともざらです」
廃材が出るときは連日届くため、運び込まれた材木を1.5mほどに切り分ける作業を週に1、2回こなす。重労働だが「これでも飲んで」と常連さんがくれる缶コーヒーが嬉しい、と若旦那は言う。

ちなみに屋根の瓦は、割れたら解体屋さんに頼んで持ってきてもらうそうで、えびす湯には薪も瓦も余ったものを無駄にしないサイクルができている。ちなみに冒頭に記した屋根の修理だが、どのように覚えたのか尋ねたところ「YouTubeで勉強した」と、驚きの答えが返ってきた。他にも銭湯で必要なメンテナンス技術は、YouTubeを参考にしているとのこと。YouTubeも銭湯の営みに貢献していると思うと、この場を借りてユーチューバーの皆さんに感謝したい。

創業から60年を経過したえびす湯に集うお客さんは、常連から一見さんまで幅広く、子どもも多い。中には体重計で飛び跳ねてしまうような子もいるが、建物も備品も年季の入った風呂屋だけに、壊されてはたまらない。そんな時、若旦那はいつも「うちを壊さないで飛鳥山を壊してこい!」と声をかける。すると一気に場が和み、その子どももおとなしくなるという。きかん坊の子どもも素直に大人のユーモアに耳を傾ける、そんな効用が銭湯にはあるようだ。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
えびす湯(北区|王子駅)
●銭湯お遍路番号:北区 34番
●住所:北区滝野川1-1-20
●TEL:03-3910-7392
●営業時間:15~24時
●定休日:月曜/祝日の場合は翌日休
●交通:京浜東北線「王子」駅下車、徒歩3分
●ホームページ:–
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imada

今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。

2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。

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