前回、「全身シャワー」という特別仕様の装置で温冷交代浴の実験を行った研究結果を紹介しました。体の上下左右からお湯が噴射するこの「全身シャワー」は今のところ広く普及はしていないようですが、その一方で浴びるお湯の質を変えるシャワーヘッドはすごい勢いで進化しているようです。進化のポイントは「ファインバブル」。ファインバブルは直径100μm(マイクロメートル)未満の泡のことで、1μm(0.001mm)以上100μm未満のものを「マイクロバブル」、1μm未満のものを「ウルトラファインバブル」といいます。この「ウルトラファインバブル」(以下、UFB)を出すシャワーヘッドが一部の銭湯に導入され、好評を博しているといわれています。

ファインバブル学会連合のサイトより

 

昨今、技術力の低下が何かと話題になる日本ですが、ファインバブル技術は「世界をリードする日本発の革新的な技術」(岐阜大学・久保和弘教授)として注目されているのです。ファインバブルのサイズの定義も、2017年に国際標準規格第1号として発表されました。この技術にはどんな恩恵があるのでしょうか。

一般社団法人ファインバブル産業会の登録商品である「リファファインバブルピュア」のメーカー(MTGプロフェッショナル)のパンフレットには、UFBとマイクロバブルの2つの泡で肌本来の美しさを引き出す、と謳われています。私たちが普段目にする通常の泡よりずっと小さいUFBやマイクロバブルは、特異的な洗浄メカニズムを持つのだそうです。UFBが「毛穴の奥まで入り込んで汚れを取り除き、マイクロバブルが毛穴につまった大きな汚れを浮かせて取り除く」と説明されています。

リファファインバブルピュア(MTGプロフェッショナル提供)

 

さらに「シャワーヘッドを浴槽に入れると、なめらかな肌ざわりのシルキーバスに。2つの泡が肌をやわらかく包みこみ、心も身体も温まります」「シャワーのお湯が角層すみずみまで浸透し、うるおいのあるしっとりとした肌へと導きます」と。すごいじゃないですか。でも本当なのでしょうか?

その説明をする前に、ファインバブルがシャワー以外にもいろいろ活用されているエピソードを。「某マヨネーズ会社はファインバブルを利用してふっくらとして口どけのいい食感や酸味を和らげる効果などを生み出している」「某かまぼこ製造会社はすり身工程にUFBを利用してうま味を保つとともに、無菌状態を保つことを実現」「広島のカキの養殖場でファインバブルを用いたところ、顕著な成長促進が認められ、養殖場の環境改善にも活用されている」などが紹介されています(日本家政学会誌71-2)。

話をファインバブルの入浴に戻しましょう。この分野でもいろいろな実験や研究が行われていますが、ご紹介するのは「マイクロバブルバス入浴の角層水分量・保湿への影響」と「UFBを含むシャワーの角層水分量・保湿への影響」という2つの研究です。前者は2022年、後者は2023年で、いずれも「日本健康開発雑誌」で発表されたものです(一般社団法人日本健康開発財団とリンナイ株式会社の共同研究で、研究主任は東京都市大学の早坂信哉教授)。

2022年の研究は、健康な成人女性15人を対象に、前腕を40℃で3分間、水道水浴とマイクロバブル浴を行い、出浴30分後までの皮膚角層水分量を計測するとともに、主観的な皮膚の保湿感を調べました。その結果、角層水分量はマイクロバブル浴のほうが「有意に多かった」としています。また主観的な保湿感評価は、水道水浴では出浴5分後、マイクロバブル浴では出浴15分後まで「有意にスコアが高かった」ため、「マイクロバブル浴は入浴後の乾燥肌が気になる者にとって効果的な入浴法の選択肢になりうる」と結論付けています。

2023年の研究は、健康な成人女性16名を対象に、水道水シャワーとUFBのみのシャワーの比較を行いました(40℃20秒、前腕の部分浴を行い出浴30分後まで経時的に角質の水分量を測定)。結果は、「前後比較では水道水シャワーの角層水分量はシャワー後に有意に増加したが、30分後にもとに戻り有意差は得られなかった。一方UFBのみのシャワーは、すべての測定時点で(角層水分量が)有意に増加した」ため、「UFBシャワーは角層水分量を増加させ、シャワー後も保湿効果が高く、シャワー入浴後の乾燥肌が気になる者にとって効果的な選択肢になりうる」としています。

この2つの研究結果から、「シャワーのお湯が角層すみずみまで浸透し、うるおいのあるしっとりとした肌へと導きます」というコピーは誇張された表現ではないことが明らかになりました。UFBは水との親和性が低く、水中に浮遊して油分を除去したり、皮膚に取りついた汚れなどの物質を剥離させたりする効果・作用が確認されています(ファインバブル学会連合編「ファインバブル入門」)。ファインバブルの可能性については、今後のさらなる研究が楽しみといえるでしょう。

ところで、令和5年下半期第170回芥川賞を受賞した「東京都同情塔」(九段理恵)の一節。建物の名前を「東京同情塔」にするか「東京都同情塔」にするか、「都」があるかないかは重大な問題で、その重大さの「たとえ」として女性建築家の牧名沙羅がこんなことを言います。

「たとえるなら普通のシャワーヘッドで体を洗うのか、ウルトラファインバブル搭載のシャワーヘッドで体を洗うのかというくらいの問題よ。鈍感な人間は0.3ミリの泡が0.000001ミリになろうと気にも留めないかもしれない。でもウルトラファインバブルのシャワーを一年間使い続ければ、確実に皮膚の衛生状態は向上する」

見かけだけでは本質はわからないという、同作のテーマの一つを比喩表現した一節ですが、発展途上の日本発技術が意外なところで称賛されているという感じです。この沙羅の発言に対して、男友達の拓人がこう言います。

「一概に向上するとは言えないと思うな。毛穴の洗いすぎは皮膚が本来持っているバリア機能を壊すから」と僕はスキンケアに一家言ある人間としての意見を言い添える。

皮膚のバリア機能は、水分と油分のバランスが保たれた状態で働きます。そして空気の乾燥や紫外線ダメージなどの刺激が加わることによって機能は低下します。人間が対象ではありませんが、「犬アトピー性皮膚炎に対するUFBの効果検証」という研究結果が2023年3月12日に発表されました(第26回日本獣医皮膚科学会学術大会・伊從慶太獣医師)。これによると、アトピー性皮膚炎の症状のある犬17例に対し、低刺激シャンプーとファインバブルシャワーの2つの洗浄群に分けて症状改善の程度を比較した結果、「ファインバブル発生機能を搭載したシャワーを用いた洗浄では痒みや肌荒れを抑えながら、皮膚のバリア機能を壊すことなくアトピー性皮膚炎の症状を改善した」ことが明らかになったのです。バリア機能はUFBでは壊れないようです。

それだけではありません。目視できるかできないかくらいの小さな気泡が、脱ステロイドの福音となるのかもしれません。今後のさらなる臨床研究がまたれます。


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