近年、着実に若者ファンを増やし続けるサウナ。漫画「サ道」(タナカカツキ原作)のドラマ編では、主人公がサウナの温冷交代浴の後、「ととのったー!」と、万華鏡のごとく輝く光を背景に、天国を浮遊するかのような恍惚感が見事に映像化されました。本当にサウナでそんな衝撃的な体験ができるのかと興味を持ち、実際にサウナに足を運び、その魅力にはまった人も少なくないはず。

そんなサウナー(サウナ愛好家)たちには、こんなにいいものはない、サウナを利用しないなんて考えられない、毎日行きたい、という人も多いようですが、実際に東京都内の銭湯でも、新型コロナウイルスの感染が拡大する前はサウナの利用者が急増していると、複数の銭湯経営者から耳にしました。

個人的なことをいえば、筆者は肩こりや慢性疲労の解消が永遠のテーマで、10代の頃から銭湯はもちろんのこと各種サウナ、水風呂を見様見真似で活用し、サウナはそれなりによいものだとも思ってきました。当時「ととのう」という言葉こそなかったものの、要するに「ととのいたい」と思っていたことには違いありません。しかし最も自分の体に効くと感じ、すっかりクセになっているのは銭湯のきりっとした“あつ湯”でした。個人的には「あつ湯」と帰り道の心地よい夜風だけでも十分な疲労回復効果と深い幸福感が得られていると感じているため、銭湯巡りの際も「たまたまサウナがあり、その時必要と感じれば入る」という程度で、特にサウナや水風呂の有無に執着していません。

要するにサウナーの「ととのう」は未知の世界で、自己流のサウナ入浴法では特別な快感を覚えたことはありませんでした。他の銭湯ユーザーにも聞いてみると、意外にも「ととのう未体験」「試したがいまいちしっくりこない」「そもそも水風呂もサウナも苦手」といった声が少なくありません。一体この温度差は何なのでしょうか。

そこで、今回は「ととのう」について改めて調査し、専門家による医学的な考察をご紹介することにしました。

まずはじめに、そもそも「ととのう」とはどういう状態をさすのでしょうか。未体験の方のために、サウナーや東京都浴場組合公認の銭湯ライター、編集部スタッフ等に語ってもらいました。

・血流が体全体をめぐるのを脳でも感じて視界が揺れ始めて多幸感に襲われる状態
・体がふわふわと少し浮かんでいるように軽くなり、どこか飛んでいけそうな感覚。まるで一皮むけたような、生まれ変わったかのような感覚。感覚が研ぎ澄まされ、聴覚もクリアになり、ととのっているときは水の音がすごくきれいに聞こえる。どこかにトリップしたかのような感覚。恍惚感。
・気分スッキリ、雑念消滅、悩み迷いのループが終わる、リセット、頭が真っ白、涅槃
・昇天
・冷えた体の外側と、内部の温かさが渾然一体、汗がすっと引く感じ。気持ちいい
・体が一気に軽くなり、皮膚がなくなった気分。同時に心臓の鼓動を強く感じる
・聴覚に変化。すべての音が等価で聞こえるようになる
・体が内側から温かくなり、体がリラックスする。脳はクリアで体は軽い
・血管が開き、全身の血流が良くなる。脳内に快楽物質が出ている感じ

以上から「とても気持ちいいもの」であるのは伝わってきますが、人それぞれに表現が微妙に違います。

ちなみに、一般的にサウナで「ととのう」には、「サウナ(温)→水風呂(冷)→外気浴(休憩)」の温冷交代浴の3ステップを最低3セット行うことが重要だとされています。このように休憩をはさみながら体を温めたり、冷やしたりを繰り返すことで「ととのう」ことができるというのです。

西東京市・ゆパウザひばりのサウナと水風呂

しかし、100℃近いサウナ室で体を温めた直後に、20℃以下(ときには10℃以下)の水風呂に入るというのは、血流や血圧、自律神経を強烈に刺激し、大きな負担を与える過激な入浴法です。特に高齢者や高血圧や糖尿病の方、心臓などに持病のある方は、命に関わる危険な行為ともいえるため、現時点では「ととのう」ことを万人にはおすすめできません。人気急上昇中のサウナの温冷交代浴で大きな事故が起こっていないことは幸いですが、これから挑戦してみようという方も無理のない範囲で試してください。

さて、それではサウナーたちが「ととのう」時、体の中では一体どんなことが起こっているのでしょうか?

日本サウナ学会代表理事で医師の加藤容崇氏の著書『医者が教えるサウナの教科書』では、「ととのう」のメカニズムやサウナ利用のメリットについて、医学的に解説されています。ここでは「ととのう」とは「サウナ後の心身ともに非常に調子がいいと感じられる状態」で、著者本人は「独特の浮遊感と体の輪郭が曖昧になる感覚がある」「リラックスはしているけれど、眠いわけではなく、むしろ清明に意識は晴れています」と表現しています。つまり「ととのう」とは、「トリップ感だけをいうのではなく、サウナに入ることによって、心身が自動的にコンディショニングされ、その人本来の能力が復活する感覚をとらえた言葉だと思う」と書かれています。

同書によれば、サウナの基本作法「サウナ→水風呂→外気浴」により、体内では次のような変化が起こるとされています。

<血流>
サウナで皮膚表面の血流が増加(中心部の血流は減る)したあと、水風呂で血管収縮するため皮膚表面の血流が低下(中心部の血流は増える)、外気浴で平常に戻る
<心拍数>
サウナで上がり、水風呂で下がり、外気浴で平常に戻る
<血圧>
サウナで少し下がり、水風呂で急激に上がり、外気浴で平常に戻る
<自律神経>
サウナで交感神経が上がり、水風呂でも交感神経が上がり、外気浴で副交感神経が優位になる
<ホルモン>
サウナと水風呂でアドレナリン、ノルアドレナリン、エンドルフィンが分泌される。交感神経が下がるとともに止まるが、そのあとも体内に残る。(血中で半分に減るまでに2分)

このように短時間での目まぐるしい体内の変化を反復させる、いわば非日常的な刺激が心や体の「ととのう」感覚に貢献していることは想像に難しくありません。中でもサウナ、水風呂後の外気浴タイムに、血中には興奮状態のときに出るアドレナリンとノルアドレナリンが半分ほど残っている状態で、自律神経は副交感神経が優位のリラックス状態になる「稀有な状況」になることが「ととのう」に大きく寄与しているというのです。

これに加え興味深いのが、MEGを使用したサウナ前後の脳の活動の変化です。MEGとは脳内にわずかに発生する磁場の変化をとらえる機器で、これにより脳の働きが調べられます。加藤医師は20名を対象にMEGを用いてさまざまな変化があったことを報告しています。

①DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)の消費量が減る→脳疲労がとれる
②α(アルファ)波が正常化する→決断力と集中力が上がる
③右側頭頂葉の一部にβ(ベータ)波が増加する→アイディアが浮かびやすくなる
④δ(デルタ)波が低下する→覚醒度上がる
⑤頭頂連合野が活性化する→感覚が研ぎ澄まされる。(ゾーンに入る)
(『医者が教えるサウナの教科書』より抜粋)

DMNとは、意識的な活動をしていないにも関わらず働いてしまう複数の脳部位から構成される脳回路のことで、「自動車のアイドリング」に例えられることもあります。これが脳のエネルギー消費の70〜80%を占めるため「脳エネルギーの最大の浪費家」と呼ばれ、ここに脳の疲れの正体があるといわれています。つまりサウナ入浴によりDMNの消費量が減るということは、脳がしっかりと休まっている状態であり「瞑想に近い状態」ということなのだそうです。

瞑想については米国マサチューセッツ大学のマインドフルネス・センターなどでも多くの研究が行われています。学校や企業にプログラムを提供したり、医学上の問題を抱える患者による瞑想も実施されてきました。さらに研究が進み、今では日本でも不安やうつに対するケアや、ストレスの軽減、感情のコントロールなどを目的に、精神科領域や福祉の現場でも実践されるようになっています。それだけでなく、脳疲労をとるためにグーグルやアップルを代表とする大手企業や、世界で活躍するアスリートも瞑想を取り入れているといわれていて、瞑想はメンタルケアに有効であることが広く認められるようになりました。もし、サウナの利用で瞑想と同様の効果が得られるなら、そんなに素晴らしいことはありません。

狛江市・富の湯のサウナ

 

ただし、前述のとおり、すべての人にとって安全なサウナ活用法というのはわかっていません。実は、筆者も「ととのう」を体験しようと自己流を卒業し、試しに事前に調べた通りの時間配分できっちり3セット行いました。そして、1セット目でポカポカ、ふわふわ、トリップ感らしきものを感じることができました。なるほど、気持ちいい。もしかしたらこの後もっとすごいことが起こるのかもしれないと期待して2回、3回と続けましたが、軽いめまいがしたり、後頭部や首筋が痛くなったりもしました。幸い大事にはいたらなかっため、一応最後は水でしめたら、案の定手足が冷え切ってしまい「無理することないのに」と同行者に心配される始末。さらにその晩の睡眠は悲惨で、数時間おきに目が覚め、その後全く寝付けないという苦々しい体験となりました。

その後の取材で、実はサウナでつらい経験をされている方もそれなりに存在することを知りました。SNSなどでもサウナ交代浴中やその後に具合が悪くなったという投稿も散見されます。これはサウナや水風呂が悪いという話ではなく、あくまで使い方を誤ってはいけないということにほかなりません。すべての健康法にいえることですが、他者の情報を過信せず、自分の体調にあわせて実践することが最も大切だということです。

目的別にサウナの入り方を紹介している加藤医師も、著書の中で「自分にとって一番気持ちがいい入り方をするのがベスト」であることを強調していますが、サウナ室を出るタイミングは、時間よりも脈拍を基準にすることをすすめています。脈拍も個人差がありますが、安全なのは軽いエクササイズ(ジョギング)をしたときと同じくらいの脈拍を目安にし、逆にいうとその程度の負荷でとどめた方がよいのだそうです。つまり、筆者のサウナ浴失敗の原因は「時間で区切った」ことにありそうです。今後、さらなる医学的な研究によって基準がより明確になっていくことで、ますますサウナ健康法が発展していくように思われます。
(以下、次号)


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