高齢化が進む日本の社会で、結構重いテーマの「認知症」。都内の銭湯で配布している広報誌「1010」の第55号(平成14年4月発行)に「2週間でボケが改善!医者が見つけた銭湯の強力水流活用法」という記事が掲載されて以来20余年、お風呂と脳の老化防止の研究は水面下で着々と進んでいるようです。今回はそんなテーマで、気になる研究をいくつかご紹介します。

最初は「週7回以上入浴する人は認知症リスクが低い」という研究報告。今年(2025年)5月に発行の『日本温泉気候物理医学会雑誌』に掲載されています。それによると、日本で行われている高齢者の大規模追跡調査プロジェクト(JAGES)で、毎日お風呂に入っている人は週2回以下の人と比べて認知症の発症リスクが有意に低い、という結果が出ました。この研究の背景には、フィンランドなどで「サウナ入浴」の頻度が高いと高血圧や認知症リスクの低下などが報告されてきたのに対し、日本では浴槽に入る入浴習慣が心血管疾患や抑うつリスクの低下との関連があるという報告はあったものの、認知症との関連は十分に明らかではなかったという事情があります。そこでこの研究では、日本在住の高齢者を対象として、「浴槽入浴頻度」と「認知症を発症するリスク」との関連を大規模データで調べました。

対象者は65歳以上で、要介護認定を受けていない高齢者。夏と冬、それぞれについて、「週あたりの入浴(浴槽の湯につかる)回数」を質問し、週0~6回の浴槽入浴の「低頻度群」と週7回以上の「高頻度群」に分けて調査しました。追跡期間は9年間で、対象は約8317名(夏・冬両方含む)です。追跡期間中、17.2%に当たる1430名が認知症と判定されました。そして、夏は高頻度群が低頻度群より26%発症リスクが低く、冬も同じく19%で有意にリスクが低下していることが分かりました。つまり、浴槽浴を毎日続ける人の4~5人に1人はボケないということ。「季節(夏・冬)による差はあるものの、両季でリスク低下が認められており、通年での入浴習慣の維持が重要であることが示唆される」と結論付けられたのです。
日本の地域在住高齢者における浴槽入浴頻度と認知症発症の関連:JAGESコホートデータによる9年間追跡研究

 

もちろん「お風呂に入るだけで絶対に認知症にならない」という話ではありませんが、日常の生活習慣としての入浴が脳の健康維持に一役買っている可能性が示唆されています。では、この日本の研究への刺激となったフィンランドの研究とはどんなものでしょうか。

フィンランドの「サウナと認知症」研究は世界的にも有名で、温熱習慣と脳の健康の関係を示した数少ない大規模前向き研究です。ポイントを整理するとこんな内容です。
• 正式名称:「Kuopio Ischaemic Heart Disease (KIHD) prospective cohort study」
• 実施地・対象者:フィンランド東部クオピオ周辺在住の中高年男性(平均年齢50代後半)
• 対象人数:2315人(調査開始時に心疾患や認知症がない人)
• 追跡期間:平均20年(1984〜1989年にベースライン調査、その後追跡)
この調査への参加者を、サウナ利用頻度で「週1回群」「週2~3回群」「週4~7回群」に分けました。その結果、週4〜7回サウナに通う人は「週1回の人に比べて認知症発症リスクが約66%低かった」「同じくアルツハイマー病の発症リスクも約65%低かった」「心血管病(致死性心疾患)リスクの低下も確認されており、心血管系への良い影響と脳への影響が重なっている可能性がある」の3つが明らかになったのです。

どうしてこのような結果が出たのかについても言及しています。それによると、「サウナによる血管拡張・血流増加が脳血流を改善する」「繰り返しの温熱刺激が血圧や炎症マーカーを下げる」「サウナ後のリラクゼーションや睡眠改善がストレスホルモンの低減に寄与する」などの可能性が語られています。要するに、サウナに高頻度で通っていた人ほど、認知症・アルツハイマー病の発症率が低かったというデータです。「毎日サウナに行け」という意味ではありませんが、週に数回の温熱習慣が脳にも良い可能性があることを、大規模・長期のデータで示した貴重な研究と評価されています。ただ、これは観察研究なので因果関係を断定できるわけではない、対象が中高年男性のみなので、女性や他国にそのまま当てはめるには追加研究が必要、の2点は注意してみる必要があります。
Sauna bathing is inversely associated with dementia and Alzheimer’s disease in middle-aged Finnish men(PubMed)

 

「お風呂は好きだけど、もっと積極的に脳を鍛えたい」という方には、水中運動(アクアエクササイズ)も要注目です。小〜中規模の臨床試験では、プールでのウォーキングや軽い体操を週2〜3回続けることで、高齢者の認知機能テストの成績が有意に改善した例が報告されています。さらに、介護施設での実践では、認知症の行動・心理症状(BPSD)の軽減にもつながったとのデータもあります。ブラジルで行われた実験研究(マトグロッソ連邦大学外来クリニック)をご紹介しましょう。

これは、地域在住の高齢者(平均年齢68.1歳、女性17名・男性14名)31人を対象に、「アクアエクササイズ実験群」16人、「運動なし対照群」15人に分けて3カ月間にわたり行われたものです。参加者は全員が認知症スクリーニングで正常範囲、神経・精神疾患なしということでした。アクアエクササイズの内容は週2回、30~32℃の室内プールで50分ずつ運動を行うというもの(ウォームアップ10分、認知課題を組み込んだ有酸素+筋活性運動30分、クールダウン10分)。運動中に行う認知課題とは、動物・果物・曜日などの名前を言う、逆唱、色や形の認識などのいわゆる「脳トレ」のような課題です。

その結果、推論能力(新しい問題を解く力。図形パターンの空欄にどの図形が入るか推理する問題で頭の柔らかさや新しい課題への対応力を試すもの)では、アクアエクササイズ実験群の改善が有意に認められました。また、実行機能(段取りや注意力に関する頭の司令塔。特に「柔軟性」「注意の切り替え」「問題解決」を反映するもの)でも、同実験群で強い効果が認められたのです。3か月間の水中運動で、高齢者の「考える力」「切り替える力」が明確に改善した、と結論づけています。

この実験結果から、「水中運動により全身の血流が増え、脳への血流も改善したこと」「認知課題を同時に行うことで効果が倍増したこと」「浮力・水圧により膝や腰への負担が少なく、継続しやすいこと」などが期待されます。ただ、効果が長期持続するかは検証されていないので分かりません。
A Controlled Clinical Trial on the Effects of Aquatic Exercise on Cognitive Functions in Community-Dwelling Older Adults(MDPI)

水中では体への負担が少なく、転倒リスクも低いので、膝や腰が気になる方にも取り組みやすいのがメリットです。この「銭湯で元気!」の連載でも、第36~41回で医師監修の水中運動を紹介しています。銭湯で空いている時間にぜひ試してみてください。

㊱ 銭湯の広い湯船で運動不足を解消しない手はない
㊲ まずは銭湯体操の基本姿勢をしっかり覚えよう
㊳ 銭湯体操の基本運動・足浴編
㊴ 銭湯体操の基本運動・腰浴編
㊵ 銭湯体操の基本運動・胸浴編
㊶ 銭湯体操の基本運動・呼吸編

お風呂はこのように脳の老化を防ぐ、遅らせる効果が期待されています。入浴やサウナ、水中運動には共通して「血流を良くする」「体温を一時的に上げる」「リラックスを促す」という効果があるからです。これらが脳への血流改善、ストレスホルモンの低下、睡眠の質の向上などを通して、脳の健康にプラスに働くのではないか、と考えられています。さらに、銭湯は「人と会う場」でもあります。誰かと一緒におしゃべりしたり挨拶したりすること自体も、認知症予防に良い刺激になることが知られています。以下、簡単にまとめると——

・毎日のお風呂はぬるめ(38〜40℃)に10〜15分ほどつかる
・サウナが好きな人は無理せず週に数回、こまめに水分補給
・プールや温浴施設での水中ウォーキングを週2〜3回取り入れる
・お風呂上がりはストレッチや深呼吸でリラックス
・銭湯仲間とのおしゃべりも立派な脳トレ!

認知症予防に関心のある方は、ご自分に合った方法を日々の生活に取り入れてみませんか?


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