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 営業成績の上がらないサラリーマンがぶらりと昼間の銭湯に立ち寄り、湯上がりの一杯を楽しむ人気ドラマ「昼のセント酒」(テレビ東京系・毎週土曜深夜0時20分〜)。見れば思わず銭湯へ出かけたくなるこの番組のプロデューサーの吉見健士さん(共同テレビジョン)に、番組を制作の舞台裏について話を伺いました。

■銭湯好きが高じてドラマの制作へ

 4月から始まったドラマ「昼のセント酒」、おかげさまで好評です。視聴率もずっと落ちないので、コアな銭湯ファンが毎週見てくれているのかもしれません(笑)。

 このドラマを発案したのは、僕自身が銭湯好きだったのがきっかけです。10年くらい前に地元・練馬の銭湯へ行き始め、その後東京都浴場組合の「湯めぐりマップ」を手に入れてからは、銭湯めぐりをするようになりました。最初はうれしくて、お遍路スタンプを集めていたんですよ(笑)。今も、マップはボロボロですけど、いつも持ち歩いています。

 実際に「昼のセント酒」をドラマにしたいと思ったのは、ドラマ「孤独のグルメ」のロケで北千住に行ったのがきっかけです。原作者の久住昌之さんがたまたまいらしていて、「北千住にはキングオブ銭湯って言われる、大黒湯っていう銭湯があるんだよ」という話が出たんです。僕もあちこちの銭湯へ行っていたので、銭湯話が盛り上がった。それでまだ明るいうちに大黒湯へ実際に行ってみたら、すごくいい。お寺のような外観、広い湯船と露天風呂、昼間ならではの静粛感。昼間の銭湯の魅力に、心を奪われた。この体験から「昼のセント酒」の構想が動き始めました。

 久住さんとは長年仕事を一緒にさせてもらってるんですが、著作の「昼のセント酒」という本のタイトルがとてもテレビに合っているので、ぜひとも番組名として使いたかった。ただ、昼の銭湯で風呂に入って酒を飲むことに対する背徳感を描きたかったので、主人公はサラリーマンという設定にして、久住さんには原案ということで協力してもらうことになりました。本の通り、自営業の久住さん本人を主人公にすると、「申し訳ないっ!」という背徳感が描けない(笑)。

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■実際に見聞きした銭湯のできごとを台本に反映

 ロケする銭湯を選ぶ際は、地域や特徴が被らないようにしています。例えば鶴の湯(ドラマの第一湯)は昭和感、大黒湯(第二湯)はカオスな雰囲気、蒲田温泉(第三湯)は黒湯を見せたかったという具合です。まあ、銭湯は僕がプライベートでたくさん行っているので、選ぶのにそれほど時間はかからなかったです(笑)。

 いろいろな銭湯に足を運んでいると、同じ東京でも土地柄が全然違うのがわかります。例えば、北千住のタカラ湯にロケハン(下見)に行ったとき、30分前にひとっ風呂あびて帰ったおじいさんが、お孫さんを連れてまた戻ってきたんです。おじいさん同士の会話を聞いていると、「さっき入ったよね」「孫が入りたいっていうからさ」って。おじいちゃんと孫っていう組み合わせって、北千住らしくていいなと。練馬では見られない風景です(笑)。高円寺の銭湯だと、若い人や中央線カルチャーをまとった人が多くて、銀座の銭湯では角刈りの板前っぽい人がいたり。

 そんなふうに僕やスタッフがロケハンに行って、実際に見聞きした常連客の会話、エピソード、町の雰囲気を作家に伝えて台本に反映してもらっています。この作業は、このドラマの生命線かもしれませんね。タカラ湯のおじいさん同士のやりとりも、しっかり台本に反映させていただきました。

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■銭湯独特の世界感を表現するカメラワーク

 昼間の銭湯の雰囲気って独特ですよね。夜は慌ただしい感じがするんですが、昼間はどこの銭湯ものんびりした空気が流れている。高窓から入る外光は、サラリーマンが昼の銭湯に入る背徳感を表現するのにちょうどいい。

 銭湯の気持ちよさや魅力を描くために、銭湯の細部を見せるカメラワークにはこだわっています。例えば、お湯が流れる排水溝、カランを押すところ、注意書きやポスター、店の前に乱雑に並んだ自転車……、そういったものをありのままにじっくり見せることが、銭湯独特の世界感やお店の個性を視聴者に伝えることに繋がるのかなと。

 燕湯(第五湯)では、靴箱の中にある傘入れの穴から主人公を写すシーンがありましたけど、あの穴はスタッフが下見に行って見つけたんです。まさか靴箱の中に傘を入れる穴があるとは思わないから、いいなと思って。あと、この番組独特なのは、浴室全体を天井近くから写すシーン。あの位置から撮影した映像はあまり見たことがないと思うんですが、上からだと人の動きがよくわかっておもしろいかな、と。

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■自分のストレス発散を主人公に託して……

 ドラマの中では、マナーについてよく取り上げています。昔は銭湯でマナー違反を注意する人がたくさんいたと思うんですけど、今はなかなかいない。それで、蒲田温泉(第三湯)ではプロレスラーの永田裕志さんに、はしゃぐ若者に注意してもらったり、燕湯では7か条からなる注意書きがあるので、それをじっくり見せたり。

 自分自身、水風呂が好きなんですけど、サウナの後に汗を流さず入る人が多いんです。でも、自分は小心者で「汗を流して入って」なんていえないから、主人公の内海が勇気を出して注意するシーンを入れました。まあ自分のストレスを発散ですね。これで水風呂を利用する人が気をつけてくれたらいいな、と(笑)。

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■地方ロケでもチャンスがあれば銭湯へ

 地元・練馬では、炭酸泉のある川場湯やリニューアルした久松湯(第七話に登場)など、いい銭湯がたくさんあるんです。ドラマの撮影は1日かかるので、銭湯の了解を得るのが難しい場合もあるんですが、久松湯は建て直す前からの常連だったこともあって、フロントでおかみさんに直接頼みました。「『昼のセント酒』の撮影で使わさせてもらえませんか。自分はプロデューサーなんですけど」って伝えて。そしたら「断る理由はないんで、ぜひやってください」と。すんなり話が進んでよかったです(笑)。

 練馬以外の銭湯へ行くことも多いですよ。夏は荷物が少ないから、銭湯をゴールにしてジョギングしてみたり。休みの日なら、風呂のあとにもちろんビール(笑)。浅草の蛇骨湯にもよく行きますね。風呂の後、ドジョウを食べに行くこともあります。お風呂の入り方で好きなのは、ぬるめの炭酸泉に半身浴でつかった後、水風呂につかる。これを繰り返すのが好きです。

 仕事で地方ロケがあるときは、チャンスがあれば銭湯に行こうと狙ってます。京都へ行ったときは、撮影途中で抜け出して、立派な木造建築で知られる「錦湯」に行きました。撮影現場に戻ったら「なんだか顔がポッポしてるね」って。風呂に行ってきたとは言いづらいから「あ、そう」って(笑)。そういえば、「孤独のグルメ」で旭川へ撮影に行った時も、銭湯に行ったな(笑)。

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■ドラマを見て銭湯へ行く人が増えたらうれしい

 今、銭湯の軒数は激減しています。番組制作が決まって、改めて銭湯マップを片手に地元練馬の銭湯を自転車でまわってみたんですけど、残念なことに廃業している銭湯も多かった。銭湯は公共マナーや他人への気遣いが感じられる空間で、日本文化の縮図的な部分もあると思うんです。そんな場所が減っていくのはいかにも寂しい。銭湯は自分にとって日常的なことなので、なんとか銭湯を応援する番組ができないかという思いが「昼のセント酒」のドラマ化につながったところがありますね。

 番組放送後「番組を見て銭湯へ足を運んだ」というSNSへの書き込みも多く見ましたし、ある銭湯では若い女の子が来るようになったと聞きました。だから銭湯を応援したいという気持ちは、ドラマを通じて少しは実現できたと思います。このドラマを見て、銭湯に行ってみたいと思う人が増えたらうれしいですね。

 放送は6月末で終わりますが、ぜひ続編をやりたいです。それこそ銭湯は日本全国にありますし(笑)。

(写真:望月ロウ 文:タナカユウジ)

※『土曜ドラマ24「昼のセント酒」』は、テレビ東京系で毎週土曜深夜0時20分より放送中

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【プロフィール】
吉見健士さん 共同テレビジョン・プロデューサー。2016年4月から放送中の「昼のセント酒」をはじめ、「孤独のグルメ」「食の軍師」「本棚食堂」「文豪の食彩」など多くの番組を制作。

ドラマ「昼のセント酒」HP:http://www.tv-tokyo.co.jp/sentozake/