現在、調布市内にある銭湯は4軒だが、かつては28軒も銭湯があった。梅の湯は銭湯業界最盛期の昭和42(1967)年に創業。以来、半世紀に渡り、店の前に軒を連ねる商店街の名称に屋号が使われているという、都内でも珍しい発展を遂げた銭湯である。「梅の湯商店街もかつてはにぎやかな商店街でした」と昔を懐かしむ二代目主人、田村治吉(はるよし)さんから聞いた話を元に、梅の湯の歴史を紹介していきたいと思う。

田村家は代々農業を営んでいたが、治吉さんが小学生の頃に梅の湯を開業することになった。当時は日本が高度経済成長期の最中ということもあり、農業と兼業で異業種に進出する農家は少なくなかったという。「敷地がバス通りに面していればガソリンスタンドを営んでいた」という治吉さんの話は、これまで耳にしたことのない創業経緯である。

梅の湯の周囲は現在は住宅街だが、かつては田畑に囲まれており、近くにある宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロケット発射台が見えたそうだ。創業当時、治吉さんの祖父が好んで植えた白加賀梅の木々に銭湯が囲まれていたことから屋号が梅の湯になったという。現在も周辺には梅の木が数多く残されており、梅の木が商店街に深く関係していることが伝わってくる。

梅の湯が開業して間もなく、初代の治平さんが商店街の形成に尽力し、八百屋や魚屋、肉屋などが軒を連ねる梅の湯ストアーが誕生し、同時に梅の湯商店街と命名された。にぎやかだった頃は、個人商店の各店と銭湯が連携して客を呼ぶ工夫をしていた。しかし15年ほど前から徐々に店舗が減り始め、経営者の高齢化に伴い、最近ではその連携もほとんど行われていない。

しかしながら、銭湯が地域にかけがえのない存在であることは今も変わらない。梅の湯には、治吉さんの娘さんが通っていた幼稚園のお泊まり会のたびに、毎年必ず園児たちが入浴に訪れている。それも、梅の湯の定休日に合わせてお泊まり会を開催し、治吉さんが園児たちのために特別にお湯を沸かしている。園児たちだけの浴室はにぎやかで、泳ぎ放題、水遊びし放題であり、その体験は園児たちにとって幼稚園での最高の思い出となっているだろうという。

さて、これまでに2度の中普請を行った梅の湯には個性的な浴槽が存在する。電気風呂、座風呂、寝風呂、水風呂、薬湯、露天風呂などの多彩な浴槽の他に、足つぼを刺激する石を敷き詰めた歩行湯の浴槽がある。それも、胸辺りまでつかる深めの浴槽で、若干の浮力があることで足裏に心地良い刺激が楽しめる。私自身、体験したことがない浴槽だったため設置の理由を聞いたところ、大阪の銭湯で歩行湯の存在を知り、面白いと思い取り入れたそうだ。

梅の湯はJR三鷹駅と京王線調布駅のほぼ中間に位置し、どちらの駅からも少々遠いので、バスを使うのが便利だ。駐車場も広いので車で行っても大丈夫。神代植物公園や深大寺などの観光スポットにも程近いので、春から秋はシェアサイクルを利用するのも悪くない。緑豊かな自然を楽しんだ後に、梅の湯で汗を流してみてはいかがだろうか。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
梅の湯(調布市|調布駅)
●銭湯お遍路番号:調布市 2番
●住所:調布市深大寺東町6-9-5(銭湯マップはこちら
●TEL:042-482-4526
●営業時間:15~22時半(日曜は13時から営業)
●定休日:月曜(祝日の場合は翌日休)
●交通:京王線「調布」駅よりバス。「諏訪神社」下車、徒歩5分
●Instagram:umenoyu_
※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

シェアサイクル 参考リンク https://www.hellocycling.jp

ご主人の田村治吉さん


今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。
http://www.imadaphotoservice.com/

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