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(上写真)「芳泉」の薬湯を提供している、ときわ健康温泉(板橋区)


前回に続いて生薬湯(しょうやくゆ)のお話です。生薬とは、既にご説明した通り、主に薬用植物の草根木皮を天日干しにするなど、薬効を高めるように処理したもの。植物以外でも動物性生薬や鉱物性生薬などがあります。

柚子や菖蒲など、季節によってお風呂に効能のある植物を入れる習慣は古くからありましたが、製品として1897(明治30)年に初めて販売された入浴剤は「浴剤中将湯」でした。当時の津村順天堂が作っていた婦人薬の「中将湯」の生薬の残りを社員が家に持ち帰り、お風呂の湯に混ぜたら子供のあせもが治ったことを発端に、入浴剤製品(くすり湯浴剤中将湯)として銭湯向けに販売されたそうです。この製品が「バスクリン」の礎になりました。

前回紹介した実母散に限らず、現在も銭湯では様々な生薬湯がお客様サービスとして提供されています。人気生薬湯の一つに「芳泉」がありますが、開発したのは「つくば本草研究所」社長の奥さんで、薬湯にほれ込み研究を重ねたそうです。完成したのは1985(昭和60)年のことでした。

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ときわ健康温泉(板橋区)の露天風呂では、毎日「芳泉」の薬湯を実施中(イベント時を除く)

 

配合生薬は当帰(とうき)、黄柏(おうばく)、川芎(せんきゅう)、黄岑(おうごん)、陳皮(ちんぴ)、橙皮(とうひ)、蕃椒(ばんしょう)、生姜(しょうきょう)、山梔子(さんしし)、紅花(こうか)の10種。実母散の配合と比べると、当帰と川芎だけが共通します。黄柏、陳皮、橙皮は柑橘類の果皮や樹皮、蕃椒はトウガラシ、生姜はショウガですから、生薬を一覧するだけでも体が温まる配合であることがよくわかります。芳泉は温浴効果を高め、血行を促進することで、冷え性、神経痛、腰痛など体の冷えと関係のある症状に対応しています。芳泉は1988(昭和63)年、医薬部外品の認可が下りました。

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黄岑(おうごん)

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陳皮(ちんぴ)

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生姜(しょうきょう)

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山梔子(さんしし)

生薬湯の中には、高価な高麗人参を配合したものもあります。これは「宝寿湯」といい、漢方医学の理論に基づいて処方されました。配合生薬は高麗人参のほかに、桂皮(けいひ)、松藤(しょうとう)、陳皮、蒼朮(そうじゅつ)、香附子(こうぶし)、当帰、ダイウイキョウ(八角)、川芎、蕃椒、オオバヒルギなど11種。「宝寿湯」にも実母散や芳泉と同じく当帰、川芎が配合されています。漢方医学では、当帰と川芎は婦人科系疾患の治療によく使われますが、入浴剤としてはこれらの生薬に含まれる精油成分が皮膚から吸収され、体の奥深くへ浸透し、血行を促進すると考えられます。また、これら精油成分の芳香が自律神経の緊張を解き、心身を落ち着かせてくれるようです。

オオバヒルギに含まれるタンニンには収れん作用があり、皮膚をひきしめ、傷や皮膚の炎症の回復を早めます。高麗人参の主成分であるサポニンは、皮膚の清浄効果が高く美肌作りの生薬といわれます。「宝寿湯」のお風呂は金茶色という独特の色をしており、入浴すると体全体の新陳代謝が活発化します。そして老廃物が全身の毛穴から排出され、血液の循環がとてもよくなるといわれています。

生薬湯の中にはかなり刺激の強いものもあります。たとえば火龍薬湯。これは蕃椒、すなわちトウガラシをベースにした生薬の組み合わせです。トウガラシの主成分であるカプサイシンとジヒドロカプサイシンには、血管を拡張し血液の循環を促進する効果や抗菌効果があります。また、新陳代謝を高め発汗を促すので、美容やダイエットの効果も期待されています。同時に体の芯まで温まることによって、冷え性やリウマチ、神経痛、腰痛にも効果が期待されます。なお火龍薬湯は刺激の強い入浴剤のため、湯気を吸い込んで咳込んだり、喉が痛くなることがたまにありますので注意してください。

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生薬をはじめさまざまな薬湯を日替わりで提供している押上温泉 大黒湯(墨田区)

 

東京の銭湯では生薬湯以外にも、ルイボスティー、きんかん、ハイビスカス、ローズ、りんごなど、様々な植物を湯船に浮かべたイベント湯を常時どこかで行っています。薬効や香りを楽しむものから目を楽しませてくれるものまで、いわゆる薬湯はバリエーションに富んでいるので、これも銭湯入浴の魅力の一つ。ぜひいろいろな薬湯をお楽しみください。なお、各地域ごとに実施される薬湯のご案内は、東京都浴場組合HPの「薬湯のお知らせ」をご覧ください。


(「銭湯で元気!」は毎月第2金曜日に更新します)

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東京銭湯マップでは、薬湯のある銭湯の検索ができる