《前編》では、昭和25年創業の老舗銭湯・江東区「第二久の湯」を、水彩都市・江東区の街歩きとともにご紹介しました。フロントで迎えてくれる若旦那・荻賢一さんをはじめ、久島家ファミリーの温かな人柄が、この銭湯ならではの居心地の良さを生み出しています。

後編では、風情ある庭や充実したサウナ・水風呂など浴室の魅力と、「銭湯をもっと身近に」という思いが形になった5年ぶりのペンキ絵描き替えイベントをお届けします。


■使い勝手が良い銭湯

「第二久の湯」はソフトだけでなく、ハード面にも特徴が多い。男湯側の庭は、風情がある「涼み処」として人気だ。ここにも風と光、潤いがあって心地よい。さっき立ち止まって見た川景色をふと思い出す。


脱衣場からも、サウナがある浴室からもすぐにアクセスできる涼み処(男湯)


サウナと水風呂、庭への導線も良く、使い勝手が良いのがうれしい


水の潤い、抜ける風と緑の匂いが心地よい。水彩都市にある水彩銭湯


女湯側のサウナ前「おこもり水風呂」はレイアウトが良く評価が高い(背景画描き替え前)


人気のサウナはしっかり熱い。温度計は100℃を示す(女湯)


広い浴室。主浴槽の白湯にはバイブラ、ジェットの座風呂は2名並列。手前には日替わりの薬湯を配置(男湯)


ジェットを背にしたこの角度が私のベストスポット。光あふれる昼風呂で至福のひと時。歩き疲れが解き放たれてゆくのを実感(男湯)

湯量たっぷりの薬湯、本日は「薬草」。初代が選んだという珍しいタイル画の子鹿たちもうれしそうだ(男湯)

         

掃除が行き届いた浴室。タイルに触れると「キュッ」と音がする(女湯)

かねてから浴室ペンキ絵の描き替えの計画があったそうだが、賢一さんはその様子を公開して、イベントとして実施してはどうかと提案したとのこと。賢一さんの思いの中には、まず長年通ってくれているご近所の常連さんへの感謝の気持ちと、この町で共存している若い世代のファミリーにも銭湯をもっと知ってほしいという気持ちがある。

この思いに応えて店主の久島さんも公開イベントの実施に踏み切り、そこに手を差し伸べて形にしたのが、銭湯絵師の田中みずきさんだ。企画はトントン拍子に進み、いよいよイベント当日を迎える運びとなった。

 

■朗らかなイベント

イベントは定休日を利用して行われた。昼からは近隣の小学3年生を招き入れ、田中みずきさんによる「お話とワークショップ」が開催された。朝10時からの準備に、私も微力ながらお手伝いで参加させていただくこととした。

手際よくライブペイントの準備を整えてゆくみずきさん。賢一さんご夫婦も受付の準備や会場の設営に動き回る。

さて、時間になると表からにぎやかな声が聞こえてきた。


もうすぐ開場、最終確認の打ち合わせ。楽しい手作りのイベントにしましょう!


こんにちは!よろしくお願いします! 明るい声が響く

3年生の2クラスが順番に参加する、1時間ずつのプログラム。普段から銭湯を利用している生徒もいれば、初めて銭湯の中に入ったという子もいるようだ。皆、資料を片手にそわそわと始まりを待っている。開会に先立ち、賢一さんから「気をつけること」の説明、久島さんから「ごあいさつ」「第二久の湯の歴史」と、続けてお話があった。


「すっげぇ!」「なになに? あそこに絵を描くの?」「おれ来たことあるよ!」にぎやかな歓声が浴室に響く


生徒たちを前に、表情が緩む久島さんと賢一さん

久島さんはなんとこの小学校の大先輩! 孫ほどの年齢の後輩たちを前に、表情も緩む。まさに地域の銭湯だからこそ、この場が設けられるのだと感じた。貴重な話に興味深そうに耳を傾ける生徒たち。ご自身も小学生のお子さんを持つ賢一さんも、軽快なトークで一気に生徒たちの心をつかんだ様子だ。

「銭湯に来たらまず何をしますか?」の質問に挙手して「……かけ湯」と答えた女子生徒には付き添いの大人たちから歓声と拍手。もちろん私も手をたたいた。次世代の銭湯サポーターになることは間違いないだろう。ウェルカム!

久島さん、賢一さんの話で会場が柔らかな空気に包まれたところで、いよいよ田中みずきさんが登場。


生徒たちにペンキ絵の話をする田中みずきさん

こんなに大きな絵をたった1日で描き上げるという話や、三原色と白いペンキだけで色を作ってゆくことなどの説明に、驚きと感嘆の声が上がる。

本来の壁面への作画は午後の公開イベントとなるため、生徒たちに向けては別に用意したミニサイズの板面に、富士山を描いてゆく。水色一色だった板面があっという間に空になり、雲が現れて富士山の景色ができ上がる。

「どうしたら絵が上手くなれますか?」という質問に「周りが何と言っても、自分が納得するまで自分が描きたいものを大切に描くこと」と答えるみずきさんが印象的だった。


この中から未来の銭湯絵師が現れるだろうか……


生徒たちがシールを貼ってミニペンキ絵は完成

       

最後に各々が好きなシールを選び、用意されたシートに貼って完成。これで午前の部は朗らかに終了。午後からは一般公開での背景画ライブペイントだ。


男湯から描き始める


女湯は男湯と対照的なオレンジの富士山

女湯のモチーフは賢一さんからのリクエストに応えて、ご当地の風景。第二久の湯からほど近い、近隣住民の憩いの場所「春の猿江恩賜公園」と、隅田川を挟んだ対岸には進化してゆく近代的な街並み。まさに「水彩都市」の風景が柔らかに美しく描かれていく。


昼間参加した小学生も、再び来場。圧倒的なサイズの画ができてゆく様子に魅入っていた


男湯は雄大な富士山画

このライブペイントには総勢80名近くの来場者が集まった。長年通う常連さん、SNSを通じてイベントを知り遠くから足を運んだという美大生、大島に引っ越してきてから銭湯が好きになったという若い夫婦、さまざまな参加者が思い思いに描き替えの様子を楽しんだ。完成の挨拶には万雷の拍手が沸き、明日からの営業を楽しみに帰路についていった。画ができ上がってゆく様子を、少年のように瞳を輝かせて後ろから見つめていた賢一さんには、最高のプレゼントになったのではないだろうか。

ご近所を大切にしたい、銭湯をもっと知ってほしい。そんな思いをこれから実現してゆく、はじめの一歩が形になった。

ロビーから脱衣場には普段の営業中と同じように有線の音楽が流れていた。昭和のヒットソング、主に1980年代中心に選曲されたチャンネルのBGMには根強いファンがいて、これも「第二久の湯名物」の一つになっている。私もそのひとりだ。この年代なら大抵のヒット曲は歌うことができる。春色の汽車に乗ったり、ちっちゃな頃から悪ガキだったり、いつも「次の曲は何だろう」が気になり、長居をしてしまう。

懐かしさと新しさにワクワクする「水彩都市の銭湯」。地図を片手に、風景を楽しみながら、「第二久の湯」は訪れるたびに何度でも、やっぱりペンのマルで囲みたくなる銭湯だ。

(写真・文:銭湯ライター 佐藤明俊


【DATA】
第二久の湯(江東区 | 西大島駅)
●銭湯お遍路番号:江東区 18番
●住所:江東区大島1-36-6(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3637-1226
●営業時間:15~22時
●定休日:木曜
●交通:都営新宿線「西大島」駅下車、徒歩3分
●ホームページ:https://sites.google.com/view/hisanoyu
●X(旧Twitter):@GUjmkh4T39LMH7k
※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、予めご了承ください。


浴槽から見上げた女湯の富士山


富士山を見ながらつかるお風呂は格別


脱衣場にはレトロな脱衣籠も


昔ながらの体重計


天窓から日がさす明るい脱衣場。女湯にはお釜型ドライヤーも