令和2年、ここ浅草の街もいつになく穏やかに、晴れやかな新しい年を迎えました。松が明けてもなお、参詣客や観光客で賑わう浅草寺界隈から北側の奥浅草へと歩きます。リノベーションとレトロ、アートと大衆芸能、通りの左右に新と旧のカルチャーミックスを楽しみながらしばらく進むと、植木市で有名なお富士さんの浅間神社を越えた先、紙洗(かみあらい)橋交差点の少し手前に、今回レポートする「鶴の湯」がその姿を現します。

広い浅草ですが、この辺りまで来ると賑やかな観光地としての雰囲気よりも、庶民の生活が息づいている静かな街並みだと感じられることでしょう。

寺社が多い街はゆっくりと散策したい

   

この路地風景は浅草界隈ならでは

「鶴の湯」の創業は昭和3(1928)年。90年を超える歴史ある銭湯です。昭和20(1945)年の戦災で焼失後に再建。さらに昭和35(1960)年に現在の建物に建て替えられています。

大きな家紋が入った二段の千鳥破風造り、堂々とした佇まいは、まるで生粋の浅草っ子そのものの様。三社(浅草神社)の氏子衆よろしく、とても男性的で勇壮な立ち姿です。
そして暖簾の向こう、中に入ってもやはり浅草っ子らしい粋と進取の気質をも感じることができます。

思わず見上げてしまう立派な造り

    

シックな暖簾は祭の半纏のよう

お話を伺ったのは「鶴の湯」3代目の菅山正広さん。ご両親と弟さんと一緒に毎日仕事に精を出しています。「やるべきことをきちんと毎日、それだけですよ」と照れるご主人ですが、そのおかげで毎日快適に銭湯を満喫できるのです。ありがたいことですね。

早速、多彩なメニューの「粋な」お風呂を拝見しましょう。

 

■お湯で健康づくりに貢献
広々とした玄関でまず目に入るのが、珍しい「ラドン発生装置」。表看板の「御品書」にもあるように、ラドン風呂・遠赤外線ラドンサウナがお勧めメニューの一つ。この装置により天然のラドン温泉を模した効果を人工的に作ることができるそうです。

さらに、お湯を常に「天然ミネラル温水装置」に循環させており、活性化された温水で皮膚から天然ミネラル群を浸透させることにより、代謝の促進や体内老廃物の排出、循環機能の促進などの効果が期待できるとのこと。これが鶴の湯の常連さんたちが、いくつになっても若々しく、元気に神輿を担いでいられる秘訣かもしれませんね。

男子はメカを見ると近寄る習性が

綺麗に維持する湯主の心意気

落ち着きがあって綺麗に維持されたフロントロビーを通り、脱衣場に入ればそこは広々として清潔感にあふれ、とてもいい雰囲気。ロッカーのカギを体に付けるカールリングは、男湯が緑で女湯が赤。よく見ると番号に抜けがほとんどなく、ビシッと札が揃っています。そういえば玄関の下足木札も、ビシッと揃って抜けがありませんでした。見上げれば質感が良い折上げ格天井、大きな空間で昼間の採光もたっぷりです。古き良き銭湯の味わいがここにあります。

広くてシンプル、清潔な脱衣場は嬉しくなる

2011年に中普請して新しくなった浴室は、カラン島の低いところと浴槽縁が濃いめのベージュ系、カランの鏡周りとシャワーヘッド面、浴室内の腰壁が薄めのベージュ、そして高壁が淡いアイボリー系と、高さにつれ淡くなってゆくモダンな色調で統一され、落ち着いた品の良さと柔らかい温かみを感じることができます。タイルは広さを感じる大判で艶やか、所々に幾何学模様の柄タイルがアクセントに差し込まれています。また、小さな立方体の壁面照明が暖かい光を放ち、内装のバランスを絶妙に整えていることが分かります。

外観は昔ながらに堂々と男らしく、中身は洒落たモダンな雰囲気。懐が深くて洒落っ気がある、まるで浅草っ子のような銭湯だと感じます。

昼間は採光もたっぷり、明るい浴室

   

壁面の照明が内装を引き立てます

では早速お風呂に入ってみましょう!
後編に続く)

(写真・文:銭湯ライター 佐藤明俊


【DATA】
鶴の湯(台東区|浅草駅)
●銭湯お遍路番号:台東区 22番
●住所:台東区浅草5-48-4
●TEL:03-3872-7753
●営業時間: 14~23時
●定休日:木曜(祝日の場合は前日の水曜休)
●交通:つくばエクスプレス「浅草」駅より徒歩12分
東京メトロ銀座線「浅草」駅よりバス。「東浅草1丁目」下車、徒歩2分
●ホームページ:http://taito1010.com/component/mtree/sento-list/tsuru_asakusa.html?Itemid=
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