国内外を問わず、銭湯の魅力を発信する銭湯大使・ステファニー。なぜフランス人の彼女は銭湯に通っているのか? 外国人から見た銭湯の魅力を紹介。


前回は、「銭湯のコミュニティ」についてお話ししました。銭湯の温かい雰囲気は、銭湯の建物とそこに集まる人々がつくります。銭湯という空間を、よりよい場とするために、私たちはマナーを守り、そのコミュニティを大切にする必要があると思います。

前回のお話はこちらから→https://www.1010.or.jp/mag-steph-02/

さて、今回は、私が感じる「銭湯の魅力」Vol.3として、銭湯の「アート ~芸術~」についてお話しします。これは、銭湯にあまり行かない方や、行きつけの「銭湯」に通い続ける方にとっては、いまいちピンとこないところかもしれません。銭湯には本当に多くの「アート」がちりばめられています。

「うちは古いだけだから」「そんなタイル、別にめずらしくないよ」とおっしゃる銭湯のご主人も多いですが、そんなことはありません。

日本中の銭湯に、本当に素晴らしいアートが存在しています。文章では語り尽くせない銭湯アート。ここから少し写真を交えて、ご紹介しましょう。

 

― 伝統的な宮造りの建築 ―

千鳥破風、唐破風、格子天井……。銭湯といえば、こんな建築を想像される方も多いのではないでしょうか?

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伝統的な宮造り銭湯の明神湯(大田区)

 

関東大震災後、復興のために建築ラッシュが続いた時期、宮大工が自身の技術を使ったことで、宮造りの銭湯が生まれたと言われています。この姿の銭湯、正確に数えたことはないので、詳しい数はわかりませんが、都内でもまだ50軒以上はあるはずです。

 

― 背景画 ペンキ絵 ―

浴室に入り、一番最初に目に飛び込んでくるのが富士山の絵、というのも銭湯のイメージの一つですね。日本にとって象徴的な富士山が描かれることが多いですが、海・山・川など自然の風景もよく見られます。この背景画のことをペンキ絵ともいうのですが、日本で最初に描かれた富士山のペンキ絵は、1912年、東京の神田猿楽町の「キカイ湯」という銭湯で、川越広四郎という方によって描かれたと言われています。このペンキ絵を描く人のことをペンキ絵師、もしくは銭湯絵師というのですが、現在、日本に3名しかおりません。簡単にご紹介します。

丸山清人(まるやま きよと)さん
丸山さんは絵師の中では最高齢ですが、今も現役で素晴らしい富士山を描かれます。最近では、ライブペインティングなどにご出演される機会も多く、見事な筆さばきで大きなキャンバスにあっという間に、繊細で柔らかい質感の富士山の絵を描きます。その技術は、いつ見ても本当に感動します。また、昨年はペンキ絵教室も開かれ、一般の方へペンキ絵の指導もなさっています。私も行ってきました!(ペンキ絵、難しいです!)

中島盛夫(なかじま もりお)さん
中島さんは、昨年、各分野で卓越した技能を持つ「現代の名工」に選ばれました。19歳の時に、新聞で見かけた銭湯絵師の助手募集の広告を見て、この世界に飛び込んでから50年以上。手がけた富士山の絵は1万点を超えるといいます。都内の各地で、力強く美しい中島さんの富士山の絵を数多く見ることができます。

田中みずき(たなか みずき)さん
田中さんは30代で、丸山さん、中島さんと比べると大変お若いですが、非常に繊細なペンキ絵を描く、日本唯一の女性銭湯絵師です。大学で美術史を学び、卒業論文のテーマ探しをしている中、銭湯のペンキ絵と出会い、魅せられたことをきっかけに、中島盛夫さんに弟子入りし、銭湯絵師の道へ。アウディとコラボレーションをして自動車のペンキ絵を描いたり、昨年は映画「シン・ゴジラ」の公開を記念して、多くのロケ地があった大田区の銭湯で、ゴジラのペンキ絵を描いたりと、珍しいペンキ絵も数多く手がけています。

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富士山のペンキ絵は東京銭湯の定番(大田区・明神湯)

 

ペンキ絵は、銭湯の代表的なアートの一つです。3人の銭湯絵師の絵のタッチも、よく見ると全く違うことがわかります。今まで何気なく見ていた方も、「どんな違いがあるのか?」をよ~く観察して見てください! きっと新しい発見がありますよ!

 

― タイル絵とモザイクタイル絵 ―

背景画、壁画として、ペンキ絵と同じくらい魅力的なアートがあります。それは絵付きタイルとモザイクタイル絵です。モザイクタイル絵では、細かいタイルが貼り合わされて、繊細な絵が描かれています。

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一の湯(中野区)のモザイクタイル

 

他には、絵がタイルに焼き付けられたものもあります。

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曙湯(足立区)のタイル絵

 

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玉宅湯(新潟県燕市)は佐渡おけさのタイル絵が印象的

 

浴室の床に敷かれているタイルも、本当に素敵なアートになっているところもあります。

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白浜温泉(兵庫県姫路市)

 

銭湯のアートと言っても、いろんな種類のアートを楽しむことができます。また、外観や内装・インテリアは、各銭湯それぞれいろいろな特徴をもっていますが、実は地域ごとの違いなどもあり、大変興味深いです。

例えば、関東と関西では、湯船の配置が異なります。関東は、浴室の奥に湯船が配置されているところが多いのに対して、関西は、真ん中に配置されているところが多いです

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浴室の奥に湯船が設置されている墨田区の荒井湯

 

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浴室の中心に湯船がある兵庫県明石市の明月湯

 

最近では、デザイナーズ銭湯というジャンルもあり、現代アートを組み込んだ新しい銭湯のカタチも出てきました。

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2016年9月リニューアルオープンしたデザイナーズ銭湯、万年湯(新宿区)

 

銭湯の中には、フロントや脱衣場、浴室で、写真展などの展示会を催している銭湯もあります。

銭湯とアート。

少しでも「銭湯」が持つ、「アート ~芸術~」という側面に気づいていただけると、とても嬉しいです。銭湯は、日本の生きた文化と芸術が詰まった、まさに小さな美術館。今まで行ったことのない初めての銭湯の暖簾をくぐるとき、「中にはどんな宝物があるだろう?」と、今でもドキドキします。

ぜひ、みなさんにも、このアートの世界を楽しんで頂きたいです。最後まで記事を読んでくださって、本当にありがとうございました。


【プロフィール】
ステファニー コロイン
南フランスで生まれ、日本文学に興味を持ち、日本について深く研究したいという思いから2008 年、立教大学に1年間交換留学で来日。そのとき初めて銭湯と出会う。
その後日本を離れたが、縁あって再度来日。銭湯巡りをしながら、銭湯文化を世界中に広めるため、ブログやInstagramで銭湯の情報を発信。2015年には、日本銭湯文化協会公認の銭湯大使に任命され、幅広く銭湯文化の普及に携わる。

ブログ(英語・日本語):http://dokodemosento.com/
Instagram:@_stephaniemelanie
#dokodemosento

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