銭湯にもいろいろな形がある。堂々とした宮造り建築の銭湯もあれば、建築家の手で生まれ変わった銭湯もあり、ビルの1階にひっそりとのれんを掲げる銭湯もある。板橋区のみやこ湯は、そうしたビル型銭湯のなかでも、ひときわ個性的な佇まいで私を惹きつけた銭湯である。

撮影に訪れたのは、8月のとても暑い日だった。みやこ湯は、東武東上線の大山駅から歩いて10分ほどの街なかにある。車から機材を降ろすわずかな間にも、汗が噴き出してきた。

みやこ湯は昭和31(1956)年に創業し、2026年でちょうど70周年を迎えた。現在の建物は、50年ほど前に建てられた。

まず目に飛び込んでくるのは、丸い窓とアーチ状の入口。集合住宅ばかりの街並みのなかで、その柔らかな曲線は目を引き、創業当時のモダンな空気を今に伝えている。そして「サウナ」と大きく書かれた看板には、なんとも言えない懐かしさを覚える。飾らない昭和の佇まいこそが、みやこ湯の大きな魅力だと思う。

浴室に足を踏み入れて驚いたのは、ビル型銭湯とは思えないほど天井が高く、そして、きれいなことだ。50年もの歳月を重ねた浴室に、柔らかい光が広がっている。そのなかで、とりわけ印象に残ったのが、タイルの目地の白さである。

その理由をご主人の斉藤五十三(いそみ)さんにうかがってみると、目地には石灰を水で溶いたものを塗り、白さを保っているのだという。手間を惜しまず、昔ながらの方法で、今あるものを丁寧に守り続ける。そこには銭湯への愛着と、お客さんへの思いやりが詰まっている。

浴室の壁一面を彩るのは、銭湯絵師・田中みずきさんが2026年6月に描き替えたペンキ絵である。定番の富士山と共に描かれているのは、石川県珠洲市の見附島だ。2024年の能登半島地震で大きく姿が変わってしまう前の、あの凛とした姿である。

かつての風景が、東京の銭湯の壁に残されている。撮影中に眺めていると、この絵に込められた祈りのようなものが静かに伝わってきた。守り続けること、残していくこと。目地の白さとペンキ絵は、どこかで同じ思いにつながっているように感じた。

その思いを受け継いでいるのが、五十三さんの息子さんで2代目の賢弘(よしひろ)さんである。物心がつく前から銭湯で育ち、お客さんの声と湯の音に囲まれて過ごしてきた。賢弘さんにとってみやこ湯は、仕事場である以前に、暮らしそのものなのだろう。

賢弘さんは現在、弟の高史さんと共に創業100年を目指している。70年でも十分に長い歴史だが、それをさらに30年先へつなごうとする賢弘さんたちの姿には、受け継いだ銭湯への誇りと覚悟が感じられた。

みやこ湯は、お客さんにとって「付かず離れずの場所」でもある。常連さん同士、顔を合わせるのはここだけ。互いの暮らしに踏み込むことはないけれど、ここでのつきあいを楽しんでいる。和気あいあいとした浴室に居合わせるだけで、自然と安心できる。いつも行く場所で、いつもいる人に出会える喜び。交わす言葉は多くなくても、そこに潜む思いは伝わるものだ。

五十三さんと賢弘さんに印象に残る思い出を尋ねると、一通の手紙の話を聞かせてくれた。外国に引っ越すことになった常連さんから届いたもので、そこには「毎日素敵なお風呂をありがとう」と綴られていたという。

「特別なことをやっているつもりはないが、お客さんに喜んでもらえることが一番うれしい」

五十三さんたちは、そう口を揃える。毎日の掃除も、目地の手入れも、みやこ湯にとっては当たり前の日常であるが、その積み重ねはお客さんにきちんと届いている。日本を離れる人が、去り際に感謝を伝えたくなる場所。それがみやこ湯なのだ。

お風呂は、ただ入るだけでも気持ちがいい。けれど、みやこ湯を営む人の気持ちを知ってから入ると、ありがたみがまた違ってくる。白い目地の一筋一筋に、見附島のペンキ絵に、お二人の思いが宿っていると感じたからだと思う。

みやこ湯は、今日も変わらずお客さんを迎えている。このビル型銭湯が、今の姿のまま100年目を迎え、その先も和やかな風景が続いていくことを願っている。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
みやこ湯(板橋区|大山駅)
●銭湯お遍路番号:板橋区 13番
●住所:板橋区熊野町34-14 (銭湯マップはこちら)
●TEL:03-3956-0631
●営業時間:15時半~24時
●定休日:金曜
●交通:東武東上線「大山」駅下車、徒歩10分
●ホームページ:https://1010itabashi.or.jp/facility/みやこ湯/
●X(旧Twitter):@MIYAKOYU1956
●Instagram:miyakoyu1956


今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。
http://www.imadaphotoservice.com/

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