多摩川からの伏流水や国分寺崖線(がいせん)からの湧水など、豊富な天然水と豊かな自然に恵まれた狛江市に、1955年に創業した狛江湯。瓦屋根の木造だった銭湯を1992年に現在のビル型銭湯に建て変えた。そして今年(2023年)、30年ぶりの改修工事を行い、4月にリニューアルオープンした。

スキーマ建築計画の長坂常さんによる躯体のコンクリートを剥き出しにしたスタイルは、錦糸町の黄金湯でおなじみの方も多いはず。新しい銭湯が次々に生まれる東京にあっても、長坂さんは銭湯建築の新たなジャンルを切り開き、その注目度も高い。

緑色のタイルで統一された浴場内の壁や床は、大きさの違うタイルの組み合わせに工夫を凝らし、よく見ると不規則な組み合わせが至る所に存在することに、驚きと発見を楽しめる。

使用されているタイルは、タイルの生産地として有名な岐阜県の多治見に、ご主人が自ら足を運び、選んだ特注品である。そのタイルを芸術的にレイアウトしているのが、カフェバーに飾られている富士山のタイル絵だ。それは従来のようにモザイクタイルの配色で描くのでなく、タイル同士の隙間に生じる目地を利用して模様を描くという、これまでのタイル絵の概念とは異なる表現方法で、現代的かつ上品な雰囲気を醸し出している。浴室内のサインも目地を利用した、狛江湯独特の字体が存在感を発揮している。

今回の撮影では3代目ご主人の西川隆一さんに、銭湯への想いからビジネスプラン、スキーマ建築計画の長坂さんのことまで、さまざまな話をうかがったが、中でも印象に残ったのが「これからの銭湯を提案したい、という思いが狛江湯の設計に反映されている」という話だ。

それは、例えば湯上がりにくつろげる広々とした縁側や、フロントを兼ねたカフェバーを見ればよくわかる。縁側はそのスペースを活用したイベントを定期的に開催することで人々に交流が生まれる。フロント兼カフェバーは入浴者以外でも利用可能で、地元の中学生達が牛乳だけ飲みに来ることもあるという。このように狛江湯をきっかけにして町の活性化につなげることは、リニューアルの目的の一つでもある。

さて、それぞれの銭湯が持つ個性を大切にしながら、臨場感がある写真をお届けすることが私の目的である。今回もご主人のポートレートがいつでも撮影できるようにカメラを用意したり、銭湯の撮影時にしか出番がない防水の三脚を使用し、水面ギリギリにカメラを構えて撮影したりと、限られた時間でよい写真を撮影するにはさまざまな準備が必要だ。

そうしてできあがった私の写真を見て、狛江湯に行きたくなった人が一人でもいてくれたら、カメラマン冥利に尽きるというものである。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
狛江湯(狛江市|狛江駅)
●銭湯お遍路番号:狛江市 3番
●住所:狛江市東和泉1-12-6(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3489-3881
●営業時間:13時~23時
●定休日:火曜
●交通:小田急線「狛江」駅下車、徒歩3分
●ホームページ:https://komaeyu.com
●Twitter:@komaeyu

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狛江湯3代目ご主人の西川隆一さん

 


今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。
http://www.imadaphotoservice.com/

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帝国湯(荒川区)

 

小平浴場(小平市)(※廃業)