今年は5月20日に初の真夏日を記録した東京の夏。梅雨らしい日が数日あったものの、真夏日(最高気温30℃以上)や猛暑日(35℃以上)がこれだけ続くと、気温に体が慣れるどころか逆に疲労が積み重なってしまった、という方も多いのではないでしょうか。こうならない対策として、5月くらいから「暑熱順化」のための入浴法を、といったテーマをこのコラムで取り上げたこともあります。前回も、「酷暑を乗り切る賢い銭湯入浴のタイミングと効果」と題して入浴前の水分補給、日没前から夕方の早い時間帯の入浴、入浴前の禁酒など、一般的な注意点をお知らせしました。しかし、今年の暑さは想定していたよりもはるかに厳しそう。そこで、より戦略的に暑さから身を守るための入浴の仕方について、これまでの医学研究をさらに追及してみました。
クーラーで冷えた体、浅い眠り、食欲の低下、そして何より抜けない疲れ。この「夏バテ未満」「熱中症未満」のグレーゾーンの体調不良を克服するには、お風呂の入り方もアップデートすることが急務ではないでしょうか。ふたたび医学的根拠を交えながら、銭湯を使った真夏の“整え術”更新版をご紹介します。
真夏日や猛暑日が1カ月以上続くと、体に何が起こるのでしょうか? 連日の猛暑は、知らぬ間に体にさまざまなダメージを与えます。まず挙げられるのが「自律神経の乱れ」。高温多湿の環境では体温調節に多くのエネルギーを費やすうえ、冷房による急激な温度差によって交感神経と副交感神経の切り替えがうまくできなくなり、全身のバランスが崩れてしまいます。
その結果として現れるのが、倦怠感、眠気、胃腸の不調、頭痛、イライラ、不眠などの症状。さらに、汗をかくことで失われる水分やミネラルの不足が、筋肉疲労やだるさを引き起こし、慢性的な疲労が蓄積されていきます。
文化学園大学大学院の研究では、暑熱環境が人体に「熱ストレス」を与えることによって、自律神経の活動や体内恒常性(体の中を一定の健康な状態に保つこと)の破綻を招くことがわかりました。また、特に高齢者は平均基礎体温が若年者より0.2~0.3℃低いという研究もあり、基礎体温が低いと暑さを感じにくくなるため、発汗や冷却行動の開始が遅れて体調を崩す傾向があります。
そんな「夏バテ未満」の疲労回復に、最も負担が少なく、なおかつ効果的なのが「入浴」です。といっても熱いお湯に肩までドボンではなく、38〜40℃のぬるめのお湯に15〜20分ゆったりとつかることによって、副交感神経が優位になり、交感神経の過緊張をリセットする効果が得られます。東京都市大学・早坂信哉教授の研究によれば、入浴は「自律神経の調整」「血行促進」「深部体温の調整」に効果があり、結果的に睡眠の質を高め、疲労を回復することが示されています。
重要なのは、浴槽につかって「じんわり汗をかく程度に体を温める」こと。シャワーだけでは深部体温が十分に上がらず、疲労回復には不十分です。早坂教授の研究(2013年)でも、「浴槽浴」群は「シャワーだけの入浴」群より良質な睡眠を「得られることを示唆するデータを得た」としています。
また、2016年のM. J. Zurawlew(イギリス・パンガー大学)氏の研究によれば、入浴で汗をかくことによって熱ストレスへの耐性(暑熱順化)も高まり、連日の猛暑にも耐えやすい体をつくる効果があるということです。この研究は、高温下での運動能力向上のために、運動後に40℃の入浴が熱順化を引き起こすかどうかを検証したもの。健康な男性被験者が6日間、運動(トレッドミル40分)した後に40℃の湯に40分間全身浴する群と34℃のぬるま湯に全身浴する群に分かれて行われました(33℃の暑熱環境下で耐熱性と運動能力を測定)。その結果、40℃の湯に40分間全身浴する群は「深部体温の低下(安静時・運動時とも)」「主観的暑さの軽減」「発汗・皮膚温の改善」「5km走で平均4.9%のパフォーマンス向上」が見られ、「運動後の高温入浴を繰り返すことで、暑熱環境下の身体機能と耐性が大きく改善される」ことが分かったということです。
とはいえ、一般の日本人が40℃の湯に40分つかるというのは非現実的です。加えて漫然と「お風呂に入ればいい」というものでもありません。真夏日が続く中での入浴には、「体に過度な負担をかけない温度」「安全な入浴時間」「水分補給のタイミング」など、いくつかの重要なポイントがあります。
特に注意したいのが湯温と入浴時間です。高温(42℃以上)の長湯は交感神経を刺激し、リラックス効果を得にくくなるほか、のぼせや脱水を引き起こす可能性もあります。逆にぬるめのお湯に長くつかることで、副交感神経が優位になり、じんわりとした疲労回復効果が得られます。また、入浴後の急激な冷房環境や、湯上がり後の水分不足は逆効果になるため、「ゆっくり・ぬるく・こまめに水分補給」が基本です。
その点で、家庭の浴槽よりも大きく、湯温の管理がしっかりされている銭湯の湯船は、夏の疲労回復にこそ活用したいものです。理想的なのは、38~40℃のお湯に「みぞおちまでの半身浴」で15~20分つかるという入り方。半身浴をすることによって、水圧による心臓への負担が少なくなり、血流改善と副交感神経の刺激を効率的に行えるのです。
また、銭湯によっては高濃度炭酸泉や電気風呂なども用意されています。これらの設備は血流促進や筋肉のこりの改善に高い効果があります。銭湯ならば、自宅では難しい「温熱+広さ+環境」の三拍子が揃っており、より深いリラックス効果が期待できるのです。入浴後はフロント脇の休憩スペースで一息つくことで、自律神経のクールダウンも促されます。
ところで、近年のサウナブームによって銭湯でも本格的なサウナを備える施設が増えています。サウナも正しく使えば、猛暑で乱れた自律神経の再調整や、深部体温の波を整えるうえで非常に有効です。
医学的に推奨されているサウナ入浴法は「100℃近いサウナ5分 → 30℃くらいの水風呂でクールダウン」を行うというもの(『銭湯検定公式テキスト②』))。この温冷交代刺激によって血管の収縮拡張が活発化し、疲労物質の排出が進むとともに、副交感神経が強く刺激され、入浴後の深いリラックス状態が得られます。
半身浴もサウナ浴も猛暑で弱った体調の立て直しに効果的であることが分かりました。しかし、体調が万全でない時に無理な入浴やサウナを行うのは逆効果です。とくに高血圧や心疾患のある方、体力が低下している方は、事前に医師に相談したほうが安全です。以下は特に健康不安のない方への注意点です。
【湯船入浴の注意点】
• 湯温は38〜40℃、熱すぎないこと
• 長時間の入浴は避ける(20分以内を目安に)
• 脱水予防のため、入浴前後の水分補給を忘れずに
【サウナの注意点】
• 体調の悪いときは避ける
• 水風呂は無理せず膝下程度から
• サウナ後の急激な冷房は避ける(外気浴をはさむ)
【補足】
• 入浴前後にコップ1〜2杯の常温の水または電解質飲料で水分補給
• サウナの前後に+塩分少量(梅干し・塩タブレットなど)の摂取が理想
• サウナは体力に応じて回数や時間を調整。(無理をしない)
• 就寝90分前の入浴が最も効果的(入浴後の体温低下の波に合わせる)
• 35℃以上の日は半身浴メインでゆったりと
• 雨の日や涼しい夜、冷房で体が冷え切った日はしっかり体を温める
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