この6月末は梅雨の最中だというのに真夏日の連続で、まだ暑さに体が慣れていない人にとってはつらい試練でした。梅雨が明ければ、今年も酷暑が予想されます。気温と湿度が上昇し、私たちの体は日々、大きなストレスにさらされるようになります。とりわけ近年は、夜になっても気温が下がらない「熱帯夜」や、都市部では湿度が高く風通しの悪い環境が重なり、体調管理が難しくなっています。

そんな中、疲れた体を癒す場所として、多くの方に親しまれているのが銭湯です。しかし、酷暑の季節には誤った入浴法によって逆に体に負担をかけてしまうこともあります。そこで今回は、暑い時期でも安心して銭湯を楽しむための「賢い入浴法」と、その根拠をわかりやすく解説しましょう。

夏場の銭湯入浴では、熱中症のリスクが意外と高まります。なぜなら浴室内が高温多湿で発汗量が多くなり、体内の水分や電解質(細胞の浸透圧を調節したり、筋肉細胞や神経細胞の働きに関わったりするナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのイオン)が失われやすいためです。特に高齢者や循環器系の持病を持つ方は、わずかな脱水でも血圧が急変し、立ちくらみや失神、心疾患の誘発など深刻な事態を招くことがあります。

そこで何より重要なのが、このコラムでもたびたびお伝えしている「入浴前後の水分補給」です。入浴の30分前と直後に、コップ1~2杯の水(可能なら電解質も含む飲料)を飲む習慣をつけましょう。のどがあまり乾かないからと水を飲む習慣のない方もいますが、それはとても危険。のどの渇きを感じる前に補給するのがポイントです。

銭湯ファンは熱(あつ)湯が好きな方が多いのですが、真夏に「熱い湯に長くつかる」のは思っている以上に体に負担をかけます。湯温が42℃以上になると交感神経が刺激され、心拍数や血圧が急上昇しやすくなります。これが高温多湿の外気と重なると、体温が下がらないまま体にこもった熱も放散しづらくなり、体調を崩す原因になるのです。

これまでもたびたびご案内しているように、医学的には「湯温は38~40℃」「入浴は10分以内」が安全な目安とされています。ぬるめの湯でも十分に血行は促進されますし、何より体の深部体温を適度に上げてくれますから、リラックス効果を得るにはこの温度帯が最適です。短時間でも、肩まで湯につかれば、汗もしっかりかくことができます。

入浴のタイミングも、入浴熱中症の予防のカギになります。日没後は涼しく感じるかもしれませんが、実は都市部では建物が日中に吸収した「輻射熱」が夜間も放出され続け、室温がなかなか下がりません。とくにコンクリート造の集合住宅では、22時を過ぎても室温が30℃近くに保たれていることも珍しくありません。

この状態で入浴すると、上がった体温がなかなか下がらず、「発汗が止まらない」「のぼせる」「寝苦しくなる」といった不調が出やすくなります。人間の体は、夜になると自然と深部体温を下げて睡眠モードに入るよう設計されていますが、入浴によってそれが妨げられると寝つきが悪くなったり、睡眠の質が落ちたりします。そのため、銭湯入浴はなるべく「日没前〜夕方の早い時間帯」に済ませておくのがおすすめです。

夏の入浴は「日没前〜夕方の早い時間帯」に済ませるのがおすすめ

 

もう一つ、食後や飲酒後の入浴には要注意です。夏場は冷たい飲み物やアルコールの摂取量が増える傾向がありますが、「ビールのあとにひとっ風呂」は、実は大変危険な習慣です。アルコールは血管を拡張させる作用があるため、湯船の中で血圧が急低下し、意識を失う事故が銭湯でも起きています。今まで大丈夫だった、という人でも、老化とともにアルコールの代謝機能も落ちてきますからぜひ注意してください。

また、食後すぐの入浴も避けるべきです。消化のために胃腸に血流が集中しているタイミングで湯につかると、脳や心臓への血流が一時的に減少し、めまいや倦怠感を引き起こすことがあります。少なくとも1時間は間を空けてから銭湯へ行くのが望ましいです。

先ほど入浴と深部体温について述べましたが、高齢者や糖尿病、高血圧症、心臓病などの既往がある方は深部体温の調節機能が弱まっているため、夏の入浴でも油断できません。疲れを感じやすい時期ですが、「長湯しない、無理しない、誰かと一緒に」が安全入浴の三原則です。周囲に人の目がある銭湯は、この点で安心できる場所なのです。

高齢者や健康に不安がある人でも、人の目がある銭湯なら安心

 

クーラーの利いた部屋で一日過ごしていると、「暑いから銭湯はちょっと」という気持ちになりがちですが、実は夏こそ汗をかいて疲労物質を流し、自律神経を整えるための入浴が効果を発揮します。大切なのは、無理せず・短く・快適に。水分をしっかり取り、ぬるめの湯にほどよくつかり、風通しのよい脱衣場でゆっくりと休む。それだけでも体の回復力は高まります。銭湯は、利用の仕方しだいで夏の健康を支える強い味方になります。賢く、安全に、この夏も湯の恵みを楽しみましょう。


th_4

銭湯の検索はWEB版「東京銭湯マップ」でどうぞ