池袋から東武東上線に揺られ、上板橋駅で降りる。こぢんまりとした商店街を抜け、住宅街を歩くこと数分のところにある「ときわ健康温泉」を訪ねた。

 出迎えてくれたのは、島朋孝(ともゆき)さん。前オーナーから引き継いで、銭湯を経営するようになって2年目の若いご主人だ。
「私自身は銭湯育ちというわけではないんですが、祖父が銭湯を経営していて、父の兄弟が今も銭湯経営者です。ちなみに母の兄弟も銭湯を営んでいます。それに妻のほうも実家がかつて銭湯を経営しており、親戚にも銭湯経営者が多い銭湯一家なんです。そんなふうに親戚に銭湯経営者が多いことから、縁あってこの銭湯を営むことになりました」

 ときわ健康温泉は、上にマンションがあるビル型銭湯だ。平成元年に建てられ、平成10年に大規模な設備改修を行い現在の形になった。
 ところで、こちらの銭湯は全体的にオリジナリティあふれる造りになっている。例えば、玄関は駅に近い側と反対側の2ヵ所ある。ロビーは広々として4人がけのテーブルがいくつも並べられており、空間に余裕があるせいか、湯上がりにのんびりおしゃべりしていく人も多い。
 そのロビーの傍らには大きな水槽が置かれ、中には鯉と見紛うばかりの立派な金魚が悠々と泳ぐ。その隣には生簀のようなスペースがあり、大きな亀たちがユーモラスな姿を見せて浴客の目を楽しませている。

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 さて、浴室へ足を踏み入れてみよう。入ってすぐのところに大きなサウナがあり、その向かいには水が滝のように流れ出している大きな水風呂がある。

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 正面には、さまざまな設備を備えた大きな浴槽。電気風呂、ボディマッサージ、ハイパワージェット、歩行湯(でこぼこの石が敷き詰められ、ふくらはぎにジェットが当たる)、寝風呂、打たせ湯がある。打たせ湯は頭上からお湯が勢いよく流れ落ちており、滝行の気分が味わえる。結構な勢いの水流なので首や肩のコリに効く。ちなみにお湯はすべてメタケイ酸が含まれた温泉だ。

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 そして、浴室の傍らには露天風呂が2つ。片方は白湯の岩風呂、もう一つは薬湯で漢方のよい香りが漂う。「うちで使っているのは“芳泉”という漢方の入浴剤です。10種類の生薬が含まれていて、よく温まるととても評判がいいです。薬湯を目当てに電車やバスを乗り継いで遠くから来てくださるお客さんもいます」。フロントでは、この入浴剤の家庭風呂用サイズを販売しているが、まとめ買いをしていく人もいるほどの人気だとか。

 とにかく設備が充実している銭湯という印象を持ったが、いいことばかりでもないらしい。「お風呂が大きくて湯船の数が多いので、掃除がとにかく大変なんです。夏はやせちゃいますね。この仕事は掃除さえなければ最高なんですが」と島さんは笑う。

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 お客さんは、早い時間はお年寄りが多いという話だったが、実際に入浴してみると若い人も目立つ。週末にはカランの数以上にお客さんが入ることもあるという。
 うれしいことに、島さんが経営するようになった2年の間に子どもや家族連れのお客さんが増えたという。赤ちゃんを連れた親子をはじめ、小中学生がグループで来ることもあるそうだ。
 聞けば、島さんのお子さんは現在2歳で、おばあちゃんと一緒によくお風呂につかっているとのこと。ひょっとしたら、赤ちゃんでも安心して入れると口コミで話が広がっているのかも!? また、島さん自身が「熱いのは苦手」ということで、全体的にお湯の温度がぬるめなのも、子どもや家族連れが増えている理由なのかもしれない。

 さて、会社員の経験もある島さんに、銭湯という仕事の魅力について尋ねてみた。
「会社員時代はゼネコンに勤めていたんですが、早朝から深夜まで働き、週末の休みも取れないくらいとにかく忙しく、倒れてしまったこともあります。銭湯の仕事も働く時間は長いですけど、自分でペースを決められますし、家族とも一緒に過ごせるのでいいですね」
「この仕事の楽しいところは、お客さんとの会話ですね。ロビーでくつろぐお客さんが多いので、あることないこと、よく喋ってます」
「お客さんの中には、80歳や90歳の一人暮らしの方もいます。たまに来ないと常連さんが心配して見に行ってくれたり。銭湯はお年寄りの方の安否確認の場所としても地域の役に立っていると思うと、責任感が湧きますね」

 休みの日にはあちこちの銭湯に入りに行くほど勉強熱心な島さんは「うちは浴室の大きさに比べて、脱衣場が狭いんですよね。そのうち脱衣場を大きくしたいんですが……」と、今後の展望を話す。お店を経営して2年、まだ仕事をこなすだけで精一杯かもしれないが、徐々に島さんの理想の店に生まれ変わっていくのだろう。

 お湯をいただいた帰り際、フロントでは島さんと常連さんたちが楽しそうにおしゃべりしていた。充実した設備、温泉、薬湯、広いロビー、金魚と亀……と、お店の売りはいろいろあるが、島さんの溌剌とした明るい笑顔もお客さんを惹きつける理由の一つに違いない。

(写真・文:編集部)

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週末はカランが埋まるほどの人気

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島さんの笑顔に人が集まる

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亀の住み家は、かつて鯉がいた生簀

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水槽の水は温泉認定された井戸水


【DATA】
ときわ健康温泉(板橋区|上板橋駅)
●銭湯お遍路番号:板橋区50番
●住所:板橋区中台1-25-5
●TEL:03-3933-1487
●営業時間:14〜23時半(日曜は9〜23時半)
●定休日:月曜(祝日の場合は翌日休)
●交通:東武東上線「上板橋」駅下車、徒歩7分
●ホームページ:http://tokiwaonsen.web.fc2.com/
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