2019/08/10

トピック

生涯にがんにかかる確率は、男女ともに「2人に1人」(国立がんセンター調べ)と言われているが、早期発見、早期治療をすれば完治するケースも少なくない。

しかしながら、手術が終われば全てが元通りというわけではなく、手術痕やその後の治療そのものが患者にとって新たな悩みになることもあるという。

とりわけ女性の罹患率No.1である「乳がん」は、乳房の切除手術をした場合にボディラインが変わることが誰の目にも明らかになるため、本人にとって切実な問題となることは想像に難くない。

実際問題として服装や下着のことで苦労したり、傷が目立つため銭湯や温泉などでの入浴がしづらくなるなど日常生活に様々な不都合が生じたりと、心理的ストレスが加わる。
女性ならば「病気で乳房を失う辛さ」に加えて、お風呂好きなら「銭湯や温泉に気軽に行けない寂しさ」はいかばかりだろうか。実際の患者さんたちによると、術後初めての大浴場での入浴を「温泉デビュー」と呼び、多くの方がその一歩をなかなか踏み出せないのが現状、と専門家は声を揃える。

そこで乳がん患者さん限定の、ふらりと立ち寄れる街中の銭湯で特別な入浴タイムを設けるイベント「銭湯de温泉デビュー」が初の試みとして企画された。このイベントは、がん患者さんの心を救う精神科医としてご活躍中の保坂隆先生(保坂サイコオンコロジークリニック)が発案し、一般社団法人KSHS(キチンと手術・ホンネで再建の会)共催で、去る8月5日大田区のはすぬま温泉で行われた。

参加申し込みは乳がん術後の11名。全摘してそのままの方、部分摘出の方、再建した方が集まった。最初は初対面の方ばかりだったので当然ながら独特な緊張感が漂っており、イベントの開始を待つロビーは銭湯らしからぬ雰囲気に。

しかし、この会に参加する上での注意事項を確認し、脱衣場でごく簡単な自己紹介が始まると、それぞれが「お風呂が大好きなのにずっと我慢してきた」などと本音を告白し合い、あっと言う間に打ち解け朗らかな雰囲気に。

わずか数十分の間にほんの少し言葉を交わした程度で、まさかこんなふうに打ち解けるとは……! と主催者からも驚きの声が。

気づけば全員が同じ湯船に入り、輪になって会話を楽しみ、外にいた1010編集部員に「浴室にいる写真を撮ってください!」と呼びかけるほど盛り上がっていて、湯上がりにはサイダーを飲みアイスクリームを食べ、集合写真を撮り……とまるで修学旅行さながら。

「またぜひ参加したい」「今度は夫と一緒に銭湯に伺います」「楽しすぎて病気のことを忘れていました」「こんな素敵な会を企画してくださってありがとうございます」「生の体験談が聞けて良い情報が得られました」「みんなに会えてよかった」と口々に喜びの感想を述べられ、参加者全員がスッキリ、元気いっぱいの最高の笑顔に。

関係者一同、想像した以上にこの企画が有意義であったことや、銭湯のもつ力を目の当たりにしたと意見が一致した。

また、一人ではどうしても勇気が出なくても、みんなと一緒なら…と勇気を持って心を開いた参加者の皆さんも本当に素晴らしかった。参加した方も、できなかった方も、大好きなお風呂(銭湯や温泉)を諦めたりしないでどうか気軽に堂々と通ってください、と関係者はいう。

当イベントの次の開催は未定だが、これからも是非お気軽に、近くの銭湯へお出かけください。

このイベントをきっかけに、銭湯お遍路を再開した方も