●ほっとする路地裏は人と街の距離が近い

ガタゴトと都電が行き交う街、駅からほど近い住宅街。垣根の曲がり角から少し中に歩いて行くと、静かな家並みが続きます。民家の庭先からのぞく樹木にはいくつもの黄色い柑橘、自転車を停めてそれを見上げるお年寄り。塀の上ではしっぽの短い猫がのんびりとお昼寝。郵便配達のバイクにご挨拶。こんな風景が日常、今日も穏やかな路地裏。ここでは時間の流れもゆっくりと感じられます。そろそろ銭湯のシャッターが開く頃、常連さん同士が手を挙げて挨拶を交わします。

人と街の距離が近くて、なんだかほっとする路地裏。良いものですね。

日常でなにか素晴らしい出来事に感銘を受けたり、すてきな体験に感動を覚えたりしたら。それを誰かに話したくなる時と、一方で自分だけの宝もののように内緒にしておきたくなる時と、きっとそれぞれに思いがあることでしょう。

こんな路地裏で見つけた「鶴の湯」との出会いは、まさに後者。内緒にしておきたいほど愛おしくなる場所。ほっとする路地裏のほっとする銭湯「鶴の湯」の、身近で隅々まで行き届いたおもてなしの魅力を、そっとご紹介します。

              

路地を行く。暖色の明かりが灯った看板にほっとする

雨の路地裏銭湯も、抜群の雰囲気

●花と緑があふれる魅力

「鶴の湯」の魅力で際立っているのは、いつも瑞々しい花と緑が身近にあるということ。店内に一歩入ればすぐに、空気が清らかで心地よいことに気付きます。フロントから脱衣場、浴室に至るまであちらこちらに置かれた季節の花や植物の数々。彩り豊かに季節を感じさせてくれます。どれも花や植物を愛してやまない「鶴の湯」の女将さんが丹念に育て愛しんだもの。まるで女将さんの分身であるかのように、花や植物は訪れるお客さんに優しく語りかけ、そして声を聴いてくれるような気がします。とても自然でほっとする、すてきなおもてなしに嬉しくなります。

今日は紫のカトレヤがお出迎え。花言葉は「優美な女性」

女湯脱衣場。華やかな蘭を中心に花々が目を楽しませてくれます

ロッカー上にはデビューを待っている植物たちがスタンバイ

●月下美人の思い出

「鶴の湯」の玄関先には夏場になると「月下美人」(※)の鉢が並び、ご近所の常連さんはもちろん、遠方からもこの設えを楽しみに、多くのお客さんが訪れる街の風物詩となっています。

(※)月下美人:年にごくわずかな回数、それも夜の間、一晩だけ花が咲くサボテン科の植物。甘い芳香と美しい姿に愛好家も多い。

2020年8月のある夜。「鶴の湯」を訪れた私がたまたま目にしたのが、まさにこの夜に花が咲き始めた月下美人の姿でした。この花がこうして咲いているのも今夜だけ、明日の朝には枯れてしまうという儚さに出会い、また辺りに漂う不思議な甘い香りに心奪われ、しばらく佇んでいたことが忘れられません。路地裏の一夜の出来事、月下美人との甘いランデブー。夏が来ると思いだす、内緒にしておきたい私の思い出です。

月下美人の花言葉は「あでやかな美人」「はかない恋」

年にほんのわずか、一晩だけ咲く月下美人の花(2020年8月とある夜)

            

●行き届いた清掃の魅力

「鶴の湯」は極めてきれいな銭湯であり、これも魅力の一つです。毎日の清掃が細部まで丁寧に行き届いていることは、訪れたすべての人が感じるでしょう。清潔だけでなく、整理整頓されたフロント回りや用度品は使い勝手が良く、使う私たちは自然にこの清潔感を維持しようとしていることに気付きます。これはお店とお客さんの間にあるとてもすてきな気持ちの循環。行き届いたおもてなしはここにも。ご家族総出で隅々まで抜かりなく維持されている「きれいな鶴の湯」をぜひ体感してください。

            

白が基調、隅々まで磨き込まれた浴室も抜群の清潔感

フロント、脱衣場、浴室までとにかくきれい

●「もてなしびと」たちの魅力

「鶴の湯」は昭和34(1959)年に親戚が営んでいた銭湯を引き継いで、現在の場所で開業したそうです。昭和41(1966)年に現在の建物を新築、平成9(1997)年まで幾度かの中普請を経て、サウナや水風呂も備えた現在の形になりました。「鶴の湯」の顔、女将として長年牽引するのは 田畑悦子さん。ご主人が遺した「鶴の湯」を愛し、家族とお客さんを愛する笑顔がすてきな女将さんです。設備面や運営全般を担う息子さんご夫婦と、嫁ぎ先から手伝いに来ている娘さんの4名で、家族のチームワークで毎日の仕事をこなしています。

「お客さんが来てくれることが本当にありがたくて。だからお店でお客さんの顔を見ているのが大好きなんです」

お客さんは満足してくれただろうか? ゆっくり過ごしてもらえただろうか? そんなことをお客さんの表情を見ながら考えていると女将さんはいいます。ご自身が大好きな花や植物をまるで自分の分身のように店内に置くようになったのも「もてなしたい」気持ちの現れなんですね。

お出迎えの笑顔が今日も咲く、フロントの女将さん。

備品類も整然と片付いています

「こんなに花が咲いているときもあるのよ!」

嬉しそうに見せてくれるすてきな写真

「私の姿が2~3日見えないと、すぐに常連さんから『どうしたの?』と心配されてしまうんです」

女将さんが思うのと同じくらい、お客さんだって女将さんの顔を見るのが楽しみなんですよ。
銭湯はいつでも、さりげないやりとりが温かくてほっとする場所。家のお風呂が故障してしまい急場しのぎで来たお客さんが、雰囲気が気に入ってすっかり常連さんになってしまうというほどの優しいおもてなしも「鶴の湯」の魅力です。

女将さんが丹念に育てた花々が身近に。脱衣場がさらに映えます

ピカピカな女湯洗面台にはオンシジュウム。花言葉は「可憐」「一緒に踊って」

           

清掃にコミュニケーションに、自然な雰囲気づくり。そしてこれらを毎日形にしてくれる「もてなしびと」たち、田畑さんご一家こそが「鶴の湯」一番の魅力です。

 

●銭湯の実力も魅力

サウナブームで客層にも変化があるそうですが「ブームに乗って来てくれる若いお客さんたちも、本当の銭湯好きにしたい」と女将さんはいいます。優しい女将さんの表情の中に、銭湯という家業の誇りと自信、そして銭湯愛を垣間見ることができます。

(男湯)サウナは2時間100円というリーズナブルな料金設定

熱さもしっかり、6人が利用できる快適仕様です

(男湯)サウナ室から水風呂の導線が見事!

桶で冷水をザバッと浴びても他のお客さんにかからない配置です

(男湯)ジェットが絶妙に心地よいリラックスバス。

水まくらも冷え冷えです! これは最高

(女湯)湯量たっぷり、L型の主浴槽にはリラックスバスにエステジェット

        

快適な設備が効率よく配置され、なによりきれい。「鶴の湯」には銭湯としての高い実力があります。そこに、毎日花に水を遣るように注がれる、おもてなしの気持ち。フィジカルとメンタルの両方に優しく寄り添ってくれる路地裏の名銭湯、内緒にしておきたくなりますよね!

「お客さんを愛する銭湯は、お客さんに愛される」

 

この言葉がしみじみと感じられる、路地裏のほっとする銭湯「鶴の湯」にぜひお越しください。
(写真・文:銭湯ライター 佐藤明俊


【DATA】
鶴の湯(北区|滝野川一丁目駅)
●銭湯お遍路番号:北区 35番
●住所:北区滝野川1-18-8
●TEL:03-3910-7244
●営業時間:15~24時、日曜14時~24時
●定休日:金曜
●交通:都電荒川線「滝野川一丁目」駅下車、徒歩2分
●ホームページ:–
銭湯マップはこちら

※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

お客さんにも愛される銭湯は、鍵の紛失がありません

きれいに陳列された棚の中にもほっとする、手作りのオブジェ

すてきなアイコン、思わずほほえんでしまいます

あまり見かけない古いタイプの鍵ですが、とても丁寧に使われていることがわかります