東急目黒線西小山駅から徒歩1分ほどの場所にある「東京浴場」。リニューアルオープンしたと聞いて、取材に伺った。店長を勤めるサガラマサユキさんに会ってみると、なんともお若い。弱冠22歳だとか。その若いサガラさんが、なぜ銭湯の店長に?

スタッフが描いたイラストが、お店の外観を飾る

 

「もともとお風呂屋さんになるために上京したわけじゃないんですよ」とさわやかに笑う。サガラさんの前職はIT系のエンジニア。将来、フリーのエンジニアになろうとIT系の企業に就職した。会社ではモニターに向かい、キーボードを叩く毎日。そんな忙しい中、唯一の息抜きになったのが銭湯通い。

 

【お客さんの「ありがとう」が聞きたくて、IT企業からお風呂屋さんに】

銭湯のよさを多くの人が知らずにいる。この楽しさをぜひ知ってもらいたい、と銭湯を紹介するブログを始めた。さらには、銭湯を紹介するためのサイト「東京銭湯」でライターも始めた。
「それがきっかけとなって、昭島の『富士見湯』でアルバイトをすることになって。会社員やりながら、夜アルバイトをやって。半年ぐらいですかね」
裏方やフロントを経験して、副店長にまでなったのだが、この富士見湯、実は「ニコニコ温泉」という銭湯代行業の企業が経営している。その「ニコニコ温泉」から社員として働かないか、と誘われた。IT系のエンジニアから銭湯業界への転身だ。

弱冠22歳、若さが売り物の店長、サガラマサユキさん

 

「ITのほうはパソコンと向き合う仕事で、やりがいみたいなものを感じにくかったんです。それが、銭湯で働くようになってから、もっとダイレクトにお客さんの反応がもらえて」。お客さんからもらえる「ありがとう」「いいお湯だったよ」「おやすみなさい」の言葉。直に触れられる人のやさしさ。それが一人暮らしを続けるサガラさんの心に響いた。

その転身のきっかけとなったのは、日本各地で後継者難に悩む経営者に代わって、お風呂屋さんを運営するニコニコ温泉が、先代の経営者の都合で一時閉店していた、この東京浴場に着目したことから。
「売上は、これぐらいいくんじゃないか、とか、徒歩5分圏内の世帯数を調べたり、しっかり市場調査のようなこともして、確信に変わって、ここなら地域に愛される銭湯にできるな、って」

 

【ロビーを地域住民の社交場にしたい】

最初にイメージした新しい東京浴場、それは「日常の銭湯」。
「結構、非日常をコンセプトにする銭湯って多いんです。でも、うちはそういうのはあんまり目指してなくて、学校帰りとか、会社に行く前とか(東京浴場は朝5時から8時まで朝風呂の営業をしている)、そういう使われ方をしてほしいな、って」
店内で、まず目を引くのが天井まで届く本棚。そこには7千冊ものマンガや絵本が並ぶ。

7千冊のマンガ、絵本がお客さんを迎える

 

「お年寄りもいて、主婦もいて、会社員もいて、子供もいて、っていう銭湯をやりたくて。本を選ぶ時も、懐かしい手塚治虫の漫画から、『ドラえもん』とか『クレヨンしんちゃん』とか、絵本を置いたりっていうように気を使ってます」
サガラさんのアイデアは、浴室にも見受けられる。浴槽は右から「ぬるいお湯」「熱いお湯」、そして左手に2つの樽が並ぶ。この樽には水温20℃の水が満たしてある。「熱いお湯」は42℃ほど、「ぬるいお湯」は40℃ほどか。

右から「ぬるいお湯」「熱いお湯」の浴槽

 

「ぼくの好きな銭湯の楽しみ方が『温冷交代浴』っていう入り方で、まず『熱いお湯』に入って体を温めてから水風呂に入って、次に『ぬるいお湯』に入って体を温めていただく。こうすれば長く浸かっていられる。滞在時間って、長くなるほど満足度につながるんじゃないかと思ってます」

水風呂には汲みあげたままの井戸水を使用

 

交代浴の楽しみ方もていねいに説明

 

【3回足を運んでもらうための「塗り絵コンクール」】

ほかにも目についたものがある。それは壁に貼られた塗り絵。
「3回目までの来店がすごく大事だと思っていたので、1回目でここで塗り絵をして、『次の日には掲示します』って書いてあれば、次に掲示されているのを見に来てくれる。月末には大賞を10人発表するんですが、選ばれているかどうかを確認するために、また来てくれる。最低でも3回は来てくれる仕組みを作ろうと」
この塗り絵コンクール、近所の小学校で大きな話題になった。友達にも薦めたい、と塗り絵の用紙を持って帰る子もいたのだ。サガラさんの取り組みは、着実に近隣に定着しつつあるようだ。
「土日と祝日は子供連れが多いですね。結構来ます。今度は、ロビーに大きなキッズスペースを作って、『子供も来ていいんだよ』っていうのを伝えようと思ってます」

 

【令和の世に「浮世風呂」? 地域の交流の場に育てたい】

幅広い年齢層に来てもらえるよう工夫を凝らしている東京浴場。それは新しい「浮世風呂」とでもいえようか。式亭三馬作「浮世風呂」に描かれた風呂屋には2階があって、客同士が風呂上がりに世間話を楽しんだり、碁や将棋に興じる社交場となっていた。東京浴場のロビーには、そんな江戸時代の「風呂屋の2階」の雰囲気が漂ってきそうだ。このロビーでは、風呂上がりにビールやおつまみも楽しめる。となると、ただ風呂に入るだけでない、地域住民が交流できる銭湯として生まれ変わりそうだ。
(写真・文:銭湯ライター 丸 広


【DATA】
東京浴場(品川区|西小山駅)
●銭湯お遍路番号:品川 5番
●住所:品川区小山6-7-2
●TEL:03-6421-5739
●営業時間:5時~8時、14時~26時
●定休日:火曜日(祝日の場合は平日に振替休業)
●交通:東急目黒線西小山駅から徒歩1分
●ホームページ:https://shinagawa1010.jp/list/tokyo_b/
●Twitter:@245tokyoyokujo(東京浴場)
@sugma_org(サガラマサユキ)
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フロントではクラフトビールを販売。ビールのおつまみも充実している