東京の銭湯を代表する建築様式として親しまれてきた「宮造り建築」。まるでお寺や神社を思わせる豪華な外観に加え、脱衣場や浴室の高い天井が特徴だ。その発祥は関東大震災後の復興期まで遡り、昭和40年頃まで東京を中心に数多く建てられた。だが、平成以降は老朽化による建て替えや廃業などにより、宮造り建築の銭湯を見る機会は減りつつある。

そんな中、立派な唐破風屋根を持つ宮造り銭湯として知られる中野区の天神湯が、2023年12月にリニューアルオープンした。設計は数々のデザイナーズ銭湯を手掛けてきた建築家の今井健太郎氏ということで、どんなふうに生まれ変わったのかと期待をふくらませて訪ねた。

中野駅から線路沿いに歩くこと約7分。閑静な住宅街の一角に、立派な外観の銭湯が現れた。入り口の唐破風屋根や懸魚(げぎょ)などはリニューアル前と全く変わらず残されていて、その威風堂々たる佇まいに思わず見入ってしまう。

店を切り盛りするのは松本吉司(よしじ)さんと奥様の佳枝(よしえ)さん。天神湯の創業時期は、はっきりしたことはわからないが、戦前からこの地で営業していたそうだ。現在の建物は昭和30年頃に建てられたもので、これまで中普請(改修工事)を何度か行ってきたが、基本構造は変わっていない。今回のリニューアルにあたっても愛着ある宮造り銭湯の様式にこだわり、ご主人は今井氏に「昔ながらの銭湯の雰囲気をできるだけ残したい」という思いを伝えたそうだ。


天神湯ホームページに掲載されている建築時の写真(http://tenjin-yu.tokyo/JN/


店を切り盛りする松本吉司さんと佳枝さん

のれんをくぐって脱衣場へ足を踏み入れてみると、全体が木の温かみを感じるシックな色合いに統一されており、心が安らぐ。全体的に真新しいのだが、レトロモダンな雰囲気で統一されていて、どことなく懐かしい。手洗い場のクラシックな蛇口や昔ながらの体重計、縁台なども相まって、昭和にタイムスリップしたような感覚を覚える。


木の温かみを感じる脱衣場


高い天井から吊るされた電球が優しく脱衣場を照らす


脱衣場の雰囲気に合わせたクラシックな蛇口


レトロな銭湯で定番の体重計

浴室で目を引くのが男女の浴室にまたがる大きなペンキ絵と、金魚や熱帯魚が描かれたモザイクタイル。ペンキ絵は2018年に絵師の丸山清人さんが描いたもので、男湯は富士山や海の鮮やかなブルーが印象的だ(女湯は足摺岬)。ペンキ絵とモザイクタイル、いずれもリニューアル前からある天神湯のシンボルだ。


男湯はおなじみの富士山のペンキ絵


女湯は足摺岬が描かれている

「昭和の雰囲気を残すのにペンキ絵やタイル絵は大事だから、そのまま残しました」とご主人。

ペンキ絵とモザイクタイルがあることで、浴室には特別感が加わる。電球色に照らされ湯気が漂う浴室はなんとなく幻想的で、家の風呂では味わえない特別なリラックス感が得られることだろう。

浴槽は高温、中温、水風呂の3つ。窓際にあったカラン一列分のスペースに新たに設けられた高温の浴槽は「これぞ昔ながらの銭湯!」と思わせる、あつ湯好きにはたまらない43.5℃の設定。寒い季節はあつい湯が身に染み入るようで、しっかり体が温まって満足感に満たされる。

中温の浴槽は広々としていて、少し深くなったエリアに電気風呂とマッサージ風呂が設置されている。

電気風呂は、腰掛けるタイプの浴槽に設置されている場合は上下の位置調整がしにくいのだが、天神湯は浴槽が深いため背中から腰まで自分で電気を当てる位置を調整できるのがうれしい。加えて電気のパターンが定期的に変わり、じっくり背中をもみほぐしてくれるので気持ちがいい。電気風呂と聞くとちょっと怖いイメージがあるかもしれないが、整骨院などにある低周波治療機のような感じなので、背中や腰にはりがある人はぜひ試してみてほしい。

水風呂もなかなか広く、水温は体の負担が少ない25℃に設定。水風呂といえばサウナとセットのイメージがあるが、天神湯では現在のサウナブームにあっても昔ながらの雰囲気を残すため、リニューアルの際にあえてサウナは設けなかった。にもかかわらず、水風呂を新たに設けてくれたのは、温冷交代浴好きの筆者にはとてもうれしい。桶で水をかぶるのもいいのだが、やはり水風呂に首までつかれるのは格別だ。


手前が水風呂、奥が中温風呂(男湯)


高温の浴槽が新たに設けられた(男湯)

高温浴槽と水風呂を行き来し、合い間に電気風呂で背中と腰をほぐしているとあっという間に時間が過ぎ、全身が軽くなって幸せな気分に包まれた。


女湯も男湯と同様、マッサージ風呂と電気風呂、水風呂、高温浴槽がある


浴室にはボデイーソープとシャンプーを設置

湯上がりは脱衣場の縁台で坪庭を眺めながらくつろぐもよし。縁側の椅子に座り外気浴で涼むのもおすすめだ。


リニューアル後も残された鯉が泳ぐ池で一休み


脱衣場には庭を眺められる場所に縁台を設置

新しいのに懐かしい。今井氏の設計により、昭和の風情を楽しめるレトロモダンに生まれ変わった天神湯で、ぜいたくなひとときを過ごしてほしい。

ところで、中野駅といえば北口に都内有数の飲み屋街が広がっていることでも知られる。湯上がりに一杯やる場所には事欠かない町なので散策してみては。
(写真・文:編集部)


【DATA】
天神湯(中野区|中野駅)
●銭湯お遍路番号:中野区 21番
●住所:中野区中野5-10-10(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3387-2657
●営業時間:15~23時半(最終受付23時)
●定休日:木曜
●交通:中央線「中野」駅下車、徒歩7分
●ホームページ:http://tenjin-yu.tokyo/JN/
●Instagram:nakanotenjinyu

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スポットライトが浴室を優しく照らす


カニの排水口も健在


池で泳ぐ鯉を眺めながら涼むことができる


男湯の縁側には椅子が3脚置かれている


下足場も昔のまま


木の質感を生かしたフロント


フロント前にもちょっとした休憩スペースがある

天神湯の近くには屋号の由来となった天神様がある