大都会の新宿区にも鯉や金魚が泳ぐ日本庭園が望める、昔ながらの銭湯がある。西早稲田の「金泉(きんせん)湯」だ。

実はこの金泉湯、取材前にも筆者は偶然入浴に訪れており、その際に内観と外観のギャップに驚いていた。というのも、入り口は小さくシンプルであるのに(厳密には訪れたのが夜で暗かったため立派な宮造り建築が見えなかった)、脱衣場の格天井や浴室の立派なデザインタイルに圧倒されたのだ。「うぅ・・・・・・浴室の写真撮りたい~!」と撮影したい気持ちが疼いていたが、今回偶然にも取材が叶った。

ご主人の水林竜一さんから、お店の歴史について伺った。富山から上京したご主人の祖父が、千代田区にあった明神湯など数軒の銭湯の運営を任された後に独立し、1954(昭和29)年、この地に伝統的な東京型銭湯を建てた。木彫りの懸魚(げぎょ)、唐破風と千鳥破風の屋根、富士山のペンキ絵。それら立派な宮造りの建物と常連客想いの心意気は、祖父から先代の父・昭夫(あきお)さんを経て、竜一さんへ受け継がれた。

明るいうちなら建物の大きさがよくわかる

入り口には鶴と松が彫られた懸魚(げぎょ)

都会の住宅地で、どーんと大きい店構えを残しているのが金泉湯の魅力の一つ。歴史を遡ると、この地には昔、戸塚警察署が建っており、その跡地に金泉湯と警察官の寮が建てられた。寮とは住所が同じなので、いまだに寮宛の荷物が誤って届くこともあるとか(笑)。近隣は学生街で手頃な飲食店も多く、休日の散策コースとしても楽しめそう。

1994(平成6)年、先代が一念発起し、美しい宮造り建築の原型を留めつつ中普請をした。昔ながらの銭湯の形を保つ工夫が随所に見られる。先代の熱意あふれる大改装により、常連客の心をつかむ今の金泉湯がある。

コインランドリーや玄関は小ぶりで、番台はフロント式に改装してある。ロビーは石灯籠のある中庭に面しており明るい。早速ロビーを抜け、脱衣場へと女湯の暖簾をくぐる。天井が低いロビーから天井が高い脱衣場に入ると、その開放感に圧倒される。「わぁ、すごい!」という表現より「おおおおぉ〜」と思わず低い声が出てしまう。その変化はまるで日常から非日常への演出のようだ。

三方の高窓から光が差し込む脱衣場には、腰掛けが中央に一つ置かれているだけ。お寺を思わせる天井は「折り上げ格天井」という格式高いものだ。また、脱衣場からガラス越しに浴室まで見通せるため、とにかく広々と感じられる。湯上がりの爽快感も素晴らしい。

ご主人の祖母が盆栽好きであったことで
残された籠や日本庭園

壁面から天井へ曲面で持ち上げられた、
折り上げ格天井が美しい

光が差し込み、空気が抜けて気持ちがいい脱衣場

ガラス越しの浴室は額入りのアート作品のよう!?

お風呂は、男女ともに正面にリラックスバス、ジェット(超音波)、水風呂が並び、出入り口のそばに、半露天の立派な岩風呂がある。女湯のカラン数は4、6、6。男湯は少し広くてカラン数も6、6、5、5と多いが、女湯の浴室も狭くは感じられない。

シャンプーとボディソープを完備。
手ぶらで立ち寄ったときにうれしい

サウナはないが水風呂を備えているので、
交互浴が楽しめる

創業当時、お湯は薪で沸かしていたが、その後重油を経て現在はガスで沸かす。メインの浴槽は42℃、ぬる湯の薬湯(半露天の岩風呂)は40℃で、あつ湯、ぬる湯、水風呂の交互浴が楽しめる。薬湯は3種類を週替りで提供している。

半露天の岩風呂は、洗い場からは見えない造りになっているため、空き具合がわからない。筆者が様子を伺っていると、身のこなしに無駄のない常連さんが「今あいているよ~」と声をかけてくれた。自然と生まれるコミュニケーションが楽しい。

正面の壁面を飾るアートタイルは茶色がかった立体的な珍しいもの。明るさと重厚感が共存しており、本当に素晴らしいの一言。このタイルを選んだ先代の鋭いセンスが光る。
(巷では「スリップウェア」と呼ばれる、この手の抽象的な文様が入ったオシャレ食器が人気であるから、アート好き、トレンド好きにも一見の価値あり!)

壁の一部には鶴のタイルもはめ込まれているが、これは鶴と松が彫られた懸魚同様、縁起を担いでいるのだろう。

赤や薄ピンクのタイルが何種類も
配されて華やかな浴槽(女湯)

男湯の壁も女湯同様、重厚感のあるタイル。
男湯は庭に面していて明るい

装飾面の素晴らしさに加えて、ユニークな一面も。例えば、外看板の「湯っ足り気分でストレス解消」や「スーパーチャージャー」の宣伝文句。Twitter上でも「スーパーチャージャーってどういう意味?(笑)」という投稿があったが・・・・・・。「超音波って、親父は言いたかったのかな」とご主人。「超」=「スーパー」である。余計なことを聞いてしまって、なんだかすみませんでした(笑)。

「湯っ足り」に思わずというクスッとする

「スーパーチャージャー」とは?

さて、ご主人の竜一さんが店を継いだのは、お父様が病に倒れたのがきっかけ。それまで会社勤めをしていたが、お父様の大切にした銭湯を残したいと2007(平成19)年に引き継いだ。「14時半開店ですが、常連さんが待っているので14時18分に開けます。楽しみに待っていてくれるのがうれしいですね。銭湯に来て弾む会話があるなら、その出会いの場を提供していきたい。ただそれだけです(笑)」とご主人。(筆者、ご主人の謙虚さに感動しております・・・・・・!)

昔ながらの風呂なしアパートが減り、早大生など若いお客さんは以前より少なくなったものの、常連客が開店を待ちわびる銭湯らしい風景は健在。昭和の風情にひたりながらリラックスしたい人にオススメの銭湯だ。
(写真・文:銭湯ライター 北村麻紗実


【DATA】
金泉湯(新宿区|高田馬場駅)
●銭湯お遍路番号:新宿区 14番
●住所:新宿区西早稲田2-16-20
●TEL:03-3203-2427
●営業時間:14時半~24時
●定休日:月曜
●交通:山手線「高田馬場」駅下車、徒歩10分
●ホームページ:http://1010yuge-g.jp/
銭湯マップはこちら

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広告に「お申込みは当浴場で」の文字。
昭和の日常に思いを馳せたくなる

ガラスメーカーのロゴマーク。
凝ったデザインが筆者の目を引く

玄関に飾られた、屋号入りの大きな提灯がかっこいい

天窓から陽が差した浴室はどこか幻想的な雰囲気

金泉湯近くの子育地蔵にあった古地図。
金泉湯の建つ場所に戸塚警察署の文字が見える

男湯の庭で泳ぐ金魚。ロビーにある庭では鯉が泳ぎ、
湯上がりに見ているだけで癒される