●主浴槽の底力! 設備のラインアップが豊富

都営三田線「板橋区役所」駅から5分ほど歩いた場所に位置する「さくら湯」。取材に訪れたころ、30歩ほど先にある角の公園では桜が咲き誇っていた。まさに「さくら」湯だ。

しかし、この屋号の由来はハッキリしない。近所の桜は植えられて10年ほどだが、なにせ「さくら湯」の歴史は昭和26(1951)年ごろまで遡る。当時、現店主の叔父様は「さくら湯」の屋号で他にも数店舗の銭湯を経営されていたとか。その中から現店主のお父様が昭和40(1965)年に引き継いだのが、この「さくら湯」。歴史を追いきれなくなるのも、仕方ない。

迎えてくださったのは、店主の山田昌弘さん。16年前からこの銭湯で働く3代目だ。
「うちなんか古いだけで、改装した25年前から何も変わっていないから」
そう謙遜する山田さん。先にいっておくと、本当にそれは謙遜にすぎない。

店主が謙遜する、さくら湯の魅力。まずは設備から。さくら湯の浴槽は3つあるが、主浴槽からして魅力満載だ。

主浴槽には浴槽の脇に設置された「二股カルシウム石」を入れた籠を通った湯が注ぎ込む。このお湯の流れは勢いがよく、浴槽に滝のごとく心地よい流れを作っている。

それだけではなく、ジェットが噴出する「超音波気泡マッサージ」、最近では珍しい水流を直接肩に当ててマッサージする「ショルダー」等々、主浴槽だけで体のメンテナンスが十分にできる。

また隣には日替わりの「薬湯」もあり、この薬湯を楽しみにしているお客様も多いそうだ。

他にもブクブクと気泡が気持ちいい「水風呂」、最近新調された木目が綺麗な女湯の「サウナ」と充実した設備だ。

 

●いくつ探せる? 粋なデザイン

さらに着目すべきは、ちょっとした工夫が施された粋なデザインだ。例えば、男湯女湯の入り口にある「小さな屋根飾り」。のれんをくぐるときの期待感が明らかに増す。

男湯浴室では、釜場への入り口を格好よく隠す「衝立(ついたて)」。さり気ない感じが落ち着く。

それに何より、銭湯の顔である「入り口」。モダンにデザインされた壁面の飾りがかっこいい。のれんがない時は、パッと見で銭湯と気付かないかもしれないほど、典型的な銭湯のイメージから脱却をしている。

「デザイナーズ銭湯」という言葉が当たり前になってきた昨今だが、25年前にこのように洗練された浴場が生まれていたとは感動的だ。そう唸っていると、山田さんがやっと「父が懇意にしていた建築屋さんにデザインしてもらったんです」と明かしてくださった。そして続ける。「全て父が考えた、いやその建築屋さんが考えてくれたものなので」。言葉の端々から「だからこそ、この浴場を大事にしていきたい」という思いを感じずにはいられなかった。

 

●引き継ぎは、ある日突然に

さて、さくら湯を経営していた山田さんのお兄様が亡くなられたのは、平成16(2004)年のこと。山田さんはいきなり、銭湯を引き継ぐこととなった。銭湯は身近であっても当時は会社勤めだったので、お湯の仕込みはとても縁遠い状況だった。右も左もわからない。当然、失敗もした。しかし、止まっている暇はなかった。

山田さんは、お父様と共に燃料の転換にも携わった。引き継ぎ当時の燃料は薪だったが、ガスに変更した。ご近所の意見も取り入れた結果だったそうだ。

数々の困難を一緒に乗り越えられたお父様は、平成27(2015)年に亡くなられ、現在はお母様と信頼できる清掃スタッフ一人とで店を守る。

清掃スタッフの方はサウナ等の清掃経験を積まれたプロフェッショナルで、「“前(先代達が清掃していたころ)よりも綺麗だ”ってお客様からいわれます」と山田さんは苦笑する。

綺麗に保つことが容易ではないと想像される、湿気が溜まりがちなはずのビル銭湯の天井だが、カビ等は一切ない。鏡はピカピカ、床のタイルも同様。今のさくら湯なら、お父様もお兄様も「大切に使っている」と喜んでくださるのではと、ふと思った。

●生まれ変わるさくら湯

山田さんが「全然新しくしていない」と話すさくら湯だが、実は最近、新しくなった設備がある。前述の女湯のサウナだ。

平成30(2018)年9月、女湯のサウナが壊れてしまった。修理代も高いため、壊れたままでサウナをやめてしまうつもりだった。しかし山田さんの心を、とあるお客様の夫婦が動かした。いつもサウナを利用していたご夫婦は、サウナが壊れた後も変わらず通い続けてくれた。決して修理を催促するわけでもなく、お湯を楽しんで通い続けてくれる。そのうち「このお客様のお風呂の時間を少しでもよくしたい」と思うようになった。

新品のサウナを常連さんは皆心待ちにしてくれた。お客様同士で何度くらいの温度設定がちょうどよかったか等、サウナを中心にまた新しい会話の花が咲いた。

「お客さんの声に耳を傾けるのが、こだわりかな」。山田さんはそうほほえむ。最近は「お湯の温度が、ちょうどいい」といってくれるお客さんが多くなって嬉しいそうだ。

さくら湯は日々生まれ変わっている。設備が変わったかどうかに留まらず、気持ちのいい変化がひたひたと満ちている。それはこの謙虚な山田さんがご家族やスタッフ、そしてお客様と地道に育んできた結果なのだろう。
(写真・文:銭湯ライター 銭湯OLやすこ


【DATA】
さくら湯(板橋区|板橋区役所前駅)
●銭湯お遍路番号:板橋区 23番
●住所:板橋区板橋3-39-12
●TEL:03-3961-3196
●営業時間:15時半~21時
●定休日:月曜、木曜
●交通:都営三田線「板橋区役所前」駅下車、徒歩5分
●ホームページ:http://1010itabashi.or.jp/detail/224/
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