「わしが男塾塾長、江田島平八であーる!」の名フレーズで人気を博した「魁!!男塾」。男の中の男を目指して日々屈強な若者があらゆる困難に打ち勝ち鍛錬に励む『週刊少年ジャンプ』の人気漫画を覚えてるかい?

今の銭湯に欠けているものは何だ? そう、鍛錬だ! 銭湯は修行の場なんだよ! 大体、今の銭湯はミーハーになってオシャレばかり追求してるじゃないか。お湯もぬるい! 本来の姿を思い出せ! 体温と同時に忍耐力も上げろ! 熱い湯に肩までつかって初めて大人になれるんだろう? そうだろう? ゼエゼエ。

おーっと、取り乱しちまったぜ。気がつけば熱いお湯が減ったな。田町の万才湯、上野の六龍鉱泉、お休み中の池上の久松温泉。ピリッとした肌感が、ああ、銭湯に来たんだなあと思わせていたのに……。だが、探せば秘境はある。新年一発目の銭湯リポートは、今絶好調に攻めてる銭湯を紹介しよう。オラ、わくわくすっぞ! あ、間違えた。

京急本線大森町駅から程近い「大森湯」。こんな所にまだ鬼熱な銭湯があったとは……コロンブスがアメリカ大陸を見つけたのと同じ感動を覚えることだろう(個人差あり)。そして、ここのもう一つの売りはサウナ。今流行中の「サウナ道」、略してサ道だが、大森湯のお流儀はなかなか刺激的。なんでも他の銭湯に類を見ないサウナのヤバさから、サ道界では「ヤバ森」という愛称まで秘かに広がっているらしいぞ。今日は「ヤバ森」流サ道の手ほどきだ。

パッと見、平静を装う大森湯の外観

この看板が目印

浴室内は屋号の大森を意識してか、「森」のような緑をイメージした背景。お客様がリラックスしてお湯につかれるように、との店主の心配り。

オーソドックスな浴室

シャワーブースも森をイメージ

だが油断はならない。パステルカラーな日替わり薬湯の温度は46℃。いきなりどぶんと入ってはケガの元だぜ。折角、整えに来たのに寿命を縮めちゃシャレにならねえ。まずは用心深く足元からお湯を掛けて徐々に体温を慣らすべし。そして一通り体を流したら爪先からそーっとお湯に差し込むように入るんだ。大事なことだから約束してくれ。そーっとだ。大森湯の薬湯は手強い。肩まで入ったら無理せず目まいがする前に上がってくれ。その時点でサウナに入る準備はできている。押忍! 自信を持て。

鬼熱のお湯の底から湧くエアーが闘志を掻き立てる

おっと大事なことを言い忘れた。ちゃんとサウナ料金は払ってくれよ。大人の嗜みだからな。

サウナ料金は200円

さあここからがサ道の始まり、修行開始だ。
サウナは6人も入れば一杯になる。取りたてて何があるという特別なサウナじゃない。だが「ヤバ森」といわれるにはそれなりの理由があるんだ。何がヤバいのか? 教えよう。それは温度だ。大森湯は115℃設定にしてある。どうだ? ヤバいだろう? 君は未知の領域115℃の世界を体験したことがあるか?

ご主人はコロナ禍の中、サウナの三密を避けるために、どうしたら回転が上がるかを考えた末、人が長くは我慢できない温度設定を思いついた。それが115℃だ。この温度だと人はせいぜい8分しか持たないらしい。歌謡曲で2曲分だ。歌謡曲で思い出したがサウナ内のBGMは時間毎に客層に合わせて、60年代歌謡曲だったり80年代J-POPだったりと変えてるんだ。心憎いだろ? お気に入りの曲を2曲聞いたところが出る目安になってるぜ。

サウナの温度は115℃!

支度中の為、温度上昇途中

温度を上げた結果、ご主人の目的は達し、回転はよくなったが新たな問題ができた。乾く。まるでオーブンに入ってるように、パリパリに乾く。らしい。俺はオーブンで修業したことがないから分からん。だが肌が乾く。乾燥を防ぐにはどうする?
そんなピンチも、少年ジャンプのように志を同じくした仲間が助けてくれる。サウナ好きのご常連やサ道者達が手を差し伸べた。
「他のサウナじゃ、ヤカンで湯を沸かして湿度を保ってた」
「フィンランドではヴィヒタといって、白樺の枝葉を使うよ」
「サウナ用品でアロマのボトルがある」
情報だけではなく実際に品物を寄付するサ道者まで現れ「うちのサウナはお客様と作り上げている」とご主人がいうように互いにサ道を高めあっている。ご主人自身もあまり遠くまでは行かれないが、良い評判を聞くサウナには足を運ぶ、研究に余念がない立派なサ道者だ。

乾燥を防ぐヤカン

アロマ原液。左からマツ、ハッカ、オレンジ

アロマを水で薄めたミスト用ボトル。リラックス効果大

白樺の枝を束ねたヴィヒタ。これにミストを吹き掛ける

心地よいアロマと湿度の高温サウナで汗をかいたらいよいよ「ヤバ森」の真骨頂、水風呂へ突入だ! ここも気を付けてくれ。汗まみれのままどぶんと飛び込むのは、マナー違反だし命取りだ。何しろ水温は15℃、富士急ハイランドの絶叫マシン並みの急降下だぜ。水で優しく汗を流してから入ってくれよ。

115℃からの15℃。ここがサ道巡礼者のハートを掴んで離さない「ヤバ森」の「ヤバ森」たるゆえんだ。こんな整え方、体験したことないだろう? サ道界の絶叫マシン。ヤバい、ヤバ過ぎる!

MAX全開の毛穴が冷水でキューっと閉められて表はさっぱり体内ほっこり、これを3回ほど繰り返せば、思わず君は赤いチェックのジャケット着て「整いましたぁ----」と絶叫することだろう。そうなればもう立派な悟りを開いたサ道者だ。ちょっとキツく感じたら休憩室で水分補給しながら落ち着くのも、もちろんアリだ。無理はするな。どうだい? 「ヤバ森」流サ道、気に入ってもらえたかな?

しっかり汗を流してから水風呂へ!

水風呂の水温は15℃

付け加えておくが、白湯のトルマリン風呂→薬湯→水風呂でも同じように整うからサウナが苦手ならこっちも試してくれ。46℃の薬湯は手強いけどな。

白湯の浴槽は、体の芯が温まる天然トルマリン風呂

トルマリン風呂の解説板の下に鉱石が入った箱が設置されている

俺が伝えたいのはそれだけだ。
みんな、大森湯で快適なサ道ライフを送ってくれ!

(文:落語家 三遊亭ときん


【DATA】
大森湯(大田区|大森町駅)
●銭湯お遍路番号:大田区 63番
●住所:大田区大森西3-8-17(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3764-7844
●営業時間:15~23時
●定休日:原則第2、4、5火曜日
●交通:京浜急行線「大森町」駅下車、徒歩3分
●ホームページ:http://ota1010.com/explore/大森湯

※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

ご主人の田邉さん

珍しいタイプのカラン

整理整頓された脱衣場