池袋から西武池袋線に乗り、急行なら二駅目のひばりヶ丘駅で下車。駅前にはタワーマンションが屹立するが、その傍らには昔ながらの町並みが広がっている。そんな町の一角にある「みどり湯」を訪ねた。
 商店街を進むと、表通りから奥まったところにインパクト十分の巨大な看板が見える。
「2003年の改装のときに作ったんです。うちは少し引っ込んだ場所にあるから、道行く人の目に留まるようにと思って。夜はライトアップもするんですよ」と迎えてくれたのは、風間誠さん。温厚な人柄を感じさせる笑顔が印象的だ。

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 お店の建築は昭和32年ごろ。昭和43年に風間さんのお父さんが買い取り、以後は経営を親戚に任せていたが、昭和59年10月からは風間さんとお兄さんで経営するようになった。
「もともと会社勤めをしていたんですが、ある日父に給料を尋ねられたんです。答えたら“俺がもっと給料払うから銭湯やらないか”と誘われて、風呂屋になりました(笑)。風呂屋に生まれたので、自分の裁量が経営に活かせることにも魅力を感じていたんですけど」
「銭湯の仕事を始めた当初は、友人たちと休みが合わなくて、遊びに行く機会が減ったのがいやでしたね。休みの日はボケッとしていることがしばらく続きました。反面、早起きして満員電車に乗らなくて済むようになったのはよかったです」
 その後、お兄さん夫婦が経営した時代を経て、平成5年からは誠さん夫婦がみどり湯を切り盛りしている。

 さて、みどり湯は昔ながらの木造の建物を活かした改装をしている。左右の浴室はそれぞれ「雲海」「睡蓮」と名づけられ、異なる雰囲気を持つ。それを週替わりで入れ替えて、男女とも両方の浴室を楽しめるようにしている(定休日翌日の土曜日に入れ替わる)。

 まずは「雲海」のほうから見ていこう。浴室に入ると正面に見えるのは、定番の富士山のペンキ絵。浴室名をイメージした、雲海に浮かぶ富士山だ。丸山清人絵師が一昨年描いたもので、青いペンキが鮮やかだ。
 壁際に沿って、水風呂、大浴槽、薬湯と3つの浴槽が並ぶ。大浴槽はジェット系3種(ジェットエステ・リラックス・寝ジェット)と電気風呂。ジェット系はボタンを押すと稼動するタイプで、なかなか強力だ。薬湯は日替わりで、この日はほんのりピンク色の「コラーゲン配合、黄金美容バス」だった。

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 さらに岩で囲まれた露天風呂も7〜8名は十分入れるであろう大きさ。明るいうちは日差しを浴びて開放感を、暗くなれば岩風呂がライトアップで照らし出され、昼とは異なった趣きが楽しめる。サウナはテレビ付きで10名ほど入れる広さがある。

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 次に「睡蓮」の浴室へ。こちらは、湖畔に睡蓮の花が咲く独特のタッチのペンキ絵が壁面を彩る。浴槽もがらりと変わり、中央にいろいろな浴槽が配置された関西風だ。

 ジェット系3種(フットエステ・ヒップアップエステ・ボディマッサージ)、薬湯、電気風呂、水風呂と設備は似ているが、「雲海」とはだいぶ雰囲気が違う。ちなみにヒップアップエステは噴出するジェットの勢いがすごい。サウナの傍らにあるドアを開けると、こちらにも露天風呂がある。雲海のほうが岩風呂なのに対して、こちらは洋風で寝風呂になっており、休憩用の椅子も設置され、くつろげるようになっているのがありがたい。

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 平日の早い時間はお年寄り、遅くなるにつれて会社帰りのお客さんが増えてくる。風呂屋に生まれ育った風間さんからすると、今は子どもが減り、昔とはだいぶ銭湯の風景が変わってしまったとか。とはいえ、少し早く開店する週末になると、家族連れや小学生のグループが来て賑やかになるという。

 さて、家庭風呂が普及した現在、付加価値をつけないと銭湯を経営していくのは難しい。みどり湯は充実した設備でお客さんに喜ばれているが、さらに喜んでもらうにはどうすればいいか、風間さんは頭を悩ませている。「実家の久松湯(練馬)では、温泉を掘り当てたこともあって、父は“そっちでも温泉掘るか?”なんて軽くいうんですけどね。お金もかかるし、そう簡単にはいかない」と苦笑いする。

「光熱費の上昇など頭が痛いこともありますが、お客さんが満足して帰る姿を見るとやっててよかったなと思います。“気持ちよかった” “露天がよかった”など一言でも声をかけてもらえると励みになります」

 開店時間になって常連さんと一緒に入浴。この日は「雲海」が男湯だった。富士山を見上げながらの入浴は、毎度のことながらすがすがしい気分が味わえる。ぬるめの露天風呂もついつい長居してしまう居心地のよさだった。「睡蓮」での入浴は次回のお楽しみだ。

 趣の異なる2つの浴室が人気の銭湯「みどり湯」。ぜひ、それぞれの魅力を体験してほしい。

(写真・文:編集部)

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睡蓮のほうは浴室の中心に浴槽を設置

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「雲海」「睡蓮」は毎週土曜に入れ替わる

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天井が高い昔ながらの木造建築

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にこやかに接客するご主人の風間誠さん


【DATA】
みどり湯(西東京市|ひばりヶ丘駅)
●銭湯お遍路番号:西東京市1番
●住所:西東京市ひばりが丘1-14-2
●TEL:042-421-9530
●営業時間:15〜23時半(日曜、祝日は14〜23時)
●定休日:金曜
●交通:西武池袋線「ひばりヶ丘」駅下車、徒歩4分
●ホームページ:–
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