昔ながらの風情を残す下町、三ノ輪。ここは知る人ぞ知る“銭湯激戦地区”でもある。
東京メトロ日比谷線「三ノ輪駅」から約1km圏内に10軒以上、宮造り建築や昭和情緒漂う銭湯、そして天然温泉までさまざまなタイプがひしめき合うこのエリアに、2020年11月、全面リニューアルした銭湯がお目見えした。コンセプトは「下町のラグジュアリー銭湯」。
どんな銭湯に生まれ変わったのか、3代目ご主人の翁(おきな)洋三さんと4代目の翁洋平さんにお話を伺った。

 

●気軽に行けるプチぜいたくな空間

「周りには銭湯がたくさんあるので、特徴を出そうと思ったんです。そこで、銭湯なんだけど、近くで“プチぜいたく”ができることを演出したいな、と思って」と爽やかな笑顔で語るのは4代目の翁洋平さん。
シックな色調でまとめられた店内には、心地良いジャズが流れ、時折アロマの優しい香りが漂う。その中でゆっくり湯船に身を委ねていると、なるほど、高級スパにでもいるような気分になる。

五感をくすぐる浴室空間。隣を気にせずに洗える仕切り付きのゾーンもある

サウナと軟水の水風呂も極上感を味わえる要素の一つ。
女湯のサウナでは、日替わりで香りを楽しめるアロマ水が焚かれ、露天がある男湯側では、サウナ+水風呂+外気浴のセット入浴も楽しめる。

 

乾式サウナ。設定温度は約110℃

      

男湯のサウナは前室を設けて室温の低下を防ぐ

男湯側の露天にある水風呂とシルキーバス。サウナとの無限のループだ!

●徹底した掃除と湯質管理

施設は新しく変わったが、銭湯業を営む上でやはり一番大事なのは“清潔感”。
「風呂屋は掃除屋だ」という、3代目からの教えを守り、清掃には一番手間暇をかけている。営業終了後のしまい掃除から、開店前の掃除、そして営業中も常に店内を見てまわり、髪の毛一本落ちていないようにと、従業員全員で徹底した掃除を心がけているそうだ。

 

隅々まで掃除が行き届いた脱衣場

     

ピカピカ床のロビーでもくつろげる

浴室内は湯質にもこだわり、全て軟水に一新。厳選した浴槽は、ジェット機能が付いた寝風呂、美肌効果の高いシルキーバス、“ゆっくり入ってもらいたいから”と広めに作った高濃度浸透炭酸泉、そして汗をよく流せば潜水も許可しているチラー(水温を下げる機械)付き水風呂の4種類。

これらのお湯の管理・調整は、主に長年お湯づくりをしてきた3代目の仕事。
リニューアルを機に、燃料が薪からガスに変わり、温度設定を機械化したおかげで、お客様の様子に気を配れるようになり、より細かいところに目が行き届くようになったという。
それぞれ異なる浴槽の温度や消毒用塩素の量等、その日の気温や混雑具合などを見ながら、0.1℃単位で湯温を調節しているというから驚きである。

混雑具合を確認し、湯温や炭酸ガスの量、塩素等の微調整を行う

●ホテル並みの接客クオリティを心がけて

「とても立派なものを設計の先生に作ってもらったので、それならアメニティも良いものを揃え、券売機などの設備も充実させたいと思ったんです」と話す4代目。昨年までホテルマンとして働いていた経験を生かし、顧客満足度(CS)を高める努力を日々惜しまない。

天然保湿成分が配合された備え付けのシャンプー類

 

アメニティはホテル並みのラインナップ

   

サロン仕様のドライヤーは好みで選べるアタッチメント付き

お客様目線に立ったアイデアも随所に見られる。
フロントには荷物置き台を設置し、浴室のシャンプー類はセット数を多くして取りに行く手間を省き、入り口では安心して靴の脱ぎ履きができるようにいすを置く、等々だ。

フロントの荷物台と交通系 ICカードも利用できる券売機

 

靴の脱ぎ履きもこれなら安心

         

仕切りごとに置いてあるシャンプー類

常にお客様の声に耳を傾け、改善できるところは迅速に行動する。些細なことかもしれないが、こういった積み重ねが、最終的に大きな満足感に繋がっているのかもしれない。

 

●引き継がれる銭湯のバトン

建物の老朽化と従業員の高齢化により、廃業するかどうか思案していたという3代目の洋三さん。しかし近隣の人々や、行政、そして銭湯仲間からの強い要望があったこと、そして何より、洋平さんら息子達が「継いでもいい」といってくれたことで、営業継続を決めたそうだ。

3代目・翁洋三さんと4代目・翁洋平さん

本当のところ、廃業までは考えていなかったという3代目。というのも、この“銭湯”という仕事は、利用者のニーズを満たす施設を用意すれば、社会情勢に左右されにくい、長く続けられる商売と思っているからだそうだ。
「近所の方に喜んでもらえる、今は新型コロナの影響で厳しい時期だけれども、長い目で見ればこんなにいい商売は(他に)ないと思っているから、子供らにも銭湯を継がせるのはいいと思った。甘い親なのかもしれないね」と目を細める3代目。

さらに引き継がれたものが、もう一つある。2019年5月末に惜しまれながら閉店した浅草の「蛇骨湯」で使われていた備品だ。貴重品ボックスと常連客用ロッカー、そして籐のベビーベッド。蛇骨湯のご主人から「使ってほしい」と譲り受けたそうだ。まさかここで蛇骨湯に再会できるなんて! とても感慨深いものを感じた。

 

蛇骨湯から譲り受けたベビーベッド

     

契約者用貸しロッカー(女湯側)も蛇骨湯のもの

入り口横に置いてある貴重品ボックス

●地域のランドマークを目指して

「ここ(改栄湯)が無くなったら、本当にこの地域、何も無くなっちゃうから。商店も寂れちゃったし。だからうちが起点になって、この辺もまたにぎやかになってくれれば」という3代目の思い。それは4代目にも引き継がれている。「銭湯が繁栄していけば、人が集まってくる。地域のランドマークになれればと思っています」と力強く話す。

お店は全て一新したが、田村隆一さんの詩だけは遺したそうだ

そのために「銭湯に馴染みのない人達にも、銭湯の良さをまず知ってもらいたい」といろいろな試みを行っている。SNSを使った情報発信や、LINE(ライン)のショップカードによるスタンプ機能を活用した来店促進、そして今後はTシャツやタオルなどのオリジナルグッズの販売や、寄席やレディースディ等のイベント実施などを予定しているそうだ。

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4代目デザインのロゴ付コースター

平日によく来るお爺ちゃんが、土日はお孫さんを連れて来てくれる姿を見ると、ほっこりするという4代目。改栄湯に来る人たち皆の“ふれあい”の場になりたいという。
3代目から引き継がれたこの場所は、地域と一緒に、新しいランドマークになるに違いない。

(写真・文:銭湯ライター 荒木久美子


【DATA】
改栄湯(台東区|三ノ輪駅)
●銭湯お遍路番号:台東区 9番
●住所:台東区三ノ輪2-10-15
●TEL:03-6897-2824
●営業時間:月~木曜14時~24時、土・日曜12時~24時 ※最終入場23時半
●定休日:金曜
●交通:東京メトロ日比谷線「三ノ輪」駅下車、徒歩3分
●ホームページ:https://kaieiyu.business.site/ 
Twitter:@minowa_kaieiyu
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