日暮里・舎人ライナー「扇大橋」駅より歩いて約10分。大きな通りから少し中に入った、住宅が建ち並ぶ路地の途中に星谷(ほしや)浴泉がある。屋号の「星谷」という名前は、その昔、この辺りの旧小字名が「星谷」と呼ばれていたことから付けられたそうだ。

路地の中にひょっこり現れる宮造り銭湯。茶色い柱と間の水色タイルがアクセント

古さが自慢のレトロ銭湯
のれんをくぐると出迎えてくれるのは、縁起物の福助のタイル絵。自ずと笑みがあふれる。
下足箱に靴を入れ、男湯と女湯、それぞれ左右に分かれて入る。店内は格天井の脱衣場が、さらに奥には大きなペンキ絵が描かれている浴室、と、まるでタイムスリップしたかのような、昔ながらの懐かしい銭湯空間が広がっている。

入り口の下足箱は「松竹錠」と「木札」の組み合わせ。カラフルな敷タイルもかわいい

大型の鏡で間仕切られている脱衣場も今は珍しい

富士山など雄大な自然が描かれている浴室。中島盛夫ペンキ絵師作

創業は今から約60年前の昭和36(1961)年。祖父、父から引き継ぎ、現在は3代目店主の三山(みやま)豊さんが経営を一手に担っている。三山さんに星谷浴泉の良さを聞いてみたところ、「古いところでしょうか」という答えが真っ先に返って来た。

 

今も残る“番台スタイル
ここ星谷浴泉は、今ではほとんど見かけなくなった“番台”が残っている。
番台とはその名の通り「番をする台」のこと。番台の役割はいくつかあり、一つ目は入浴料を支払ったり、タオルや石けん、飲料等の販売を行う、いわば受付カウンター。
「(番台に)慣れていない人は、気付かずにそのまま素通りして入っていって、(お金を払うところは)『どこで? どこで払うんだ?』って探す人もいますよ」とほほえみながら話す三山さん。確かに馴染みが少ない人にとっては、なかなか見つけづらいところにあるかもしれない。

星谷浴泉3代目の三山豊さん

番台の役割二つ目は、銭湯利用者の安全管理だ。
通称“板の間稼ぎ”という、他人の衣服や金品を盗む行為を防止したり、浴室で体調が悪くなった人をいち早く発見するという大事な仕事だ。番台が高い位置にあるというのも、奥まで見渡せるようにという理由からだという。監視カメラを付けられない場所なだけに、人の目で監視するという重要な役割を担っている。

番台から見る景色。浴室奥まで見通せ、異変にもすぐに気付くことができる

そして三つ目は、お客様との会話を交わす場所として。
「番台だからか、結構話しかけてきますね。あと差し入れなんかも割といただきますよ」とのこと。さりげない会話を交わしながら、お客様への心配りやコミュニケーションをとる役目が番台にはあるのだ。

一方、このスタイルに抵抗がある人がいるのも事実で、今までも「忘れ物したので帰ります」といってそのまま戻ってこなかったケースもあるという。その時は心の中で「あ、嫌だったのかなと。すみませんと思っています」と申し訳なさそうにいう三山さん。特に若い人は気にするのではと考え、テレビを観るなどして視線を上に向けながら、あまり見ないようにしているそうだ。

ただ、これからもこの番台スタイルは変えたくないとのこと。「番台がいいよっていってくれる人、結構いますね。安心感からなのかな。そしてやっぱり会話があるほうがいいんじゃないですかね」と話してくれた。

 

何気ない星谷浴泉流の“こだわり”
毎日薪で沸かしている星谷浴泉のお湯。湯温はあえて熱めの45℃。この熱さが好きで「これくらい熱くなきゃダメ」というお客様もかなりいるそうだ。また、人気の薬湯(くすりゆ)は季節に合わせて内容を変えている。

なみなみとお湯がたたえられた湯舟。体の芯までじっくり温まりそう

この日の薬湯はワインの湯

他にも季節感の演出として、女湯の脱衣場にキルトを飾っている。こちらは全て三山さんのお母様の作品。取材に伺った時はりんご湯を控えていたため、りんごの柄のキルトが飾られていた。まるでプロの作品のような完成度だが、全て手作りとは驚きだ。

リンゴ柄のキルト。デザインは全部で30種類以上あるとのこと

キルトの周りには昭和型の板ガラスや脱衣カゴなど、ノスタルジックな雰囲気に

「古さが特徴」としながらも、毎日隅々まで掃除をし、季節の変化に合わせて薬湯やキルトの絵柄を変えるなど、さりげないおもてなしの心を感じられる星谷浴泉。
現代ではなかなか味わえないこの空間。時には昔ながらの銭湯でゆっくり時間を過ごしてみるのはいかがでしょうか。

ピカピカに磨かれた脱衣場の床

湯上がりはベンチに座って坪庭を眺めるのも一興

(写真・文:銭湯ライター 荒木久美子


【DATA】
星谷浴泉(足立区|扇大橋駅)
●銭湯お遍路番号:足立区 37番
●住所:足立区扇1-34-3(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3890-1786
●営業時間:15時半~23時
●定休日:月曜
●交通:東京メトロ日比谷線「北千住」駅よりバス。「本木小学校」下車、徒歩5分/都営日暮里・舎人ライナー「扇大橋」駅下車、徒歩8分
●ホームページ:https://adachi1010.tokyo/archives/390
●Twitter:@hoshiya_yokusen

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