池袋から東武東上線に揺られ、約10分。荒川を挟んですぐ向こうは埼玉で、ともすれば「成増って埼玉?」なんていわれてしまう、埼玉との県境近くに成増はある。

都心へのアクセスの良さと、住み心地の良さから近年人気が高まっている成増で、長きに渡って愛されている銭湯、「初音湯」を訪ねた。

 

成増の歴史を見守り続けてきた銭湯

創業は昭和39(1964)年頃。2代目のご主人はもともと錦糸町に住んでおり、この成増の銭湯を知人から引き継ぐことになって初めて成増にやってきた。それ以来、ずっと営んでいるのがこの「初音湯」だ。

当時はまだ、周囲に田畑や森が広がり、カエルやフクロウの声が聞こえることも多かったとか。もともと錦糸町育ちというシティボーイ(!)のご主人にとって、最初の成増の印象は「エライとこに来たなあ~」だったそう。

とはいえ、のんびりした空気やあたたかい土地柄にすっかり馴染み、いつのまにか50年以上の月日が経った。次第に商店街もにぎわい、初音湯を初代から引き継いだ頃は、周囲に9軒ほどの銭湯があったのだとか。今では成増駅周辺に残るのは初音湯のみ。地域の方々の健康を守り、ローカルな社交場を支え続けてきた成増のオアシスなのだ。

女湯の脱衣場にある昭和レトロなドライヤーは今も現役

ゆったりした脱衣場には湯上がりやサウナの休憩に利用できるベンチも

電気風呂が自慢! 天井には空も広がる

街灯のようなランプや赤いダウンライトが印象的

浴室にはぬる湯の湯船、ジェットの座風呂と寝風呂、電気風呂、シルキーバス、サウナ、水風呂と充実のラインナップ。2021年にリニューアルした洗い場は白いタイルが目にも心地よく、清潔感たっぷり。すべてのカランがシャワー付きで髪や体を洗いやすい。

ふと上を見上げると、サウナ近くの天井には青空のような空模様のガラス。

男湯には青空、女湯にはピンク色の空が広がる

設計時のこだわりなのかどうか、今では理由が分からなくなってしまったが、「お湯に浸かりながら少しでも開放感を感じてほしい」、という設計者の思いやりだったのかもしれない。

シルキーバスは細かな泡が肌を包みこむような心地よさが続く

地下水をくみ上げた水はまろやかで、すっと心がほぐれていく。以前水質検査した際には「飲めるほどいい水質」と評価されたこともあったとか(現在は衛生上、飲用は不可)。

昔から愛され続ける初音湯の電気風呂は、他店と比べて少々電気が強めだが、ピリピリとした刺激を求めるファンも多い。

 

コンパクトなサウナと水風呂でさくっとととのう

サウナには砂時計完備。脱衣場に面して窓がある

初音湯のサウナは、なんといっても導線が良い! サウナは入浴料金に追加300円で利用でき、受付で借りたバスタオルを敷いて座る。ちなみに支払いはEdyなどの電子マネーにも対応しているのがありがたい。

きれいな板張りのボナサウナは、男性サウナが95℃前後、女性サウナが90℃前後。2~3人用のコンパクトなサイズでテレビはなく、ポップなBGMを聞きながら、じっくりと蒸されることができる。

レトロな「サウナバス」の文字にも心がくすぐられる

そしてサウナ室の扉を開けると真横にあるのが「ジュビナバス」というボタン式の全身シャワー。ボタンを押すと、30秒ほどぬるめのお湯が出て、まるで洗車のような感覚で汗を流せるのが心地よい。

そしてすぐ目の前には地下水を使った水風呂。サウナを出て数歩で水風呂に入れる導線の良さがサウナーとしてはたまらない。素早く水風呂に入りたい場合は、ジュビナバスではなく掛け水を。

バイブラなしの静かな水風呂

そして水風呂からも先ほどの空を見上げることができる。水風呂は時期にもよるが、冬場で18℃、他の時期は20~23℃とぬるめで、ゆるりと浸かれる温度だ。

サウナ利用客は一定数いるものの、時間によっては貸切状態になることもあるのだとか。東武東上線沿線住民のサウナーはぜひ一度訪れてみてほしい。

入り口は2階にあり、ベンチも設置。湯上がりはここで涼んでみては

毎日変わらず続けることの大切さ

12年ほど前に代替わりをし、現在は3代目の貞成(さだしげ)さんが初音湯を担う。2代目のお父さまと協力しながら、日々あたたかくお客さんを迎えている。

貞成さんの言葉で印象的だったのは、銭湯を続ける上で大切にしていることを聞いた時だ。
「つつがなく、毎日変わらないこと。つつがなく、毎日続けること」

シンプルだが、とても難しいことだ。毎日変わらず、ひとつひとつのことを丁寧に、コツコツと続けてきたからこそ、初音湯はここ、成増で長く愛され続ける銭湯となったのだろう。貞成さんのいう「つつがなく」という言葉は、初音湯がまとう空気にぴったりのようにも感じられた。

いつ訪れても「変わらない安心感」があること。数年ぶりに来たとしても、「ほっとするのんびりとした雰囲気」があること。今も貞成さんの学生時代の旧友が不意に訪れたり、30数年前に近所に住んでいた方がふらっと久しぶりに訪れることもあるのだそう。そんな時も初音湯は変わらずに昔と同じようにあたたかく迎えてくれる。そんな場所があることはきっと、誰かにとって心のよりどころになるのだろう。
(写真・文:銭湯ライター 林田紗央莉


【DATA】初音湯(板橋区|成増駅)
●銭湯お遍路番号:板橋 28番
●住所:板橋区成増3-41-16(銭湯マップはこちら
●TEL:03-3930-8668
●営業時間:15~23時
●定休日:不定休
●交通:東武東上線「成増」駅下車、徒歩10分
●ホームページ:https://spa-tokyo.net/z-t-hatsune/index.html

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2代目のご主人。50年以上、ここで町を見守り続けている