「あらあ〜、今日も元気そうねえ」と来店したご婦人が歩み寄ったガラスケースの中にいるのは、ミーアキャット。次に来店したご婦人が覗き込んだケースには、眠りからさめたばかりのフクロモモンガが愛らしい仕草を見せている。動物園やペットショップなら珍しくないが、実はこれ、銭湯のフロントの風景だから、ちょっとすごい。

 JR高田馬場駅から徒歩5分。賑やかな早稲田通りから少し奥まったところにある「福の湯」は、ちょっと変わった生き物がたくさんいる、と知る人ぞ知る銭湯だ。「最初は子どもが夜店で手に入れた金魚や、捕まえてきたカエルを飼っていたんです。飼育の方法を調べているうちに他の生き物にも興味が湧いちゃって……」と話してくれたのは、ご主人の渡邊浩則さん。

 15年ほど前に飼い始めたときは金魚とカエルだけだったが、今フロントで飼育されている生き物は、フクロモモンガ、ミーアキャットなどの哺乳類をはじめ、色鮮やかなパンサーカメレオン、タランチュラ、巨大なヤスデ。水槽にはカブトガニ、スッポンモドキ、デンキウナギ、タツノオトシゴ、ヤマウツボ、スマトラ、マンファリ(キューバン・ガー)、ビクーダ(淡水カマス)、タカアシガニ、オウムガイ、チョウザメ、ブラックピラニア、ジーベンロックナガクビガメ……と多種多様な生き物がずらりと並ぶ。

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 とはいえ、ご主人がいうところのこれら「珍怪生物」は、お店の宣伝のために飼っているのではなく、まったくの趣味だそうだ。
「インターネットやパソコンはできないから、積極的な情報発信もしてないんです。でも、最近はネットの書き込みで知って、生き物目当てにお風呂に来てくれる若い子もいますね」。
 これだけ種類が多いと、エサやりや温度管理だけでも大変そうだが……?
「まあ、大変は大変なんですけど、嫌いじゃないので苦にならないかな。毎日、風呂掃除が終わったあとは、水槽の掃除やエサやりなど生き物のお世話です(笑)」
「珍しい生き物が好きなんじゃなくて、おもしろい生き物が好きなんです」と話す渡邊さん。お客さんへのお披露目はまだだが、既に新たな動物を調教している最中とか。

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 ペットたちのことはこの辺りにして、肝心のお風呂の話へ。
 福の湯の歴史は、昭和24年にご主人のおじいさんがこの地で開業したことに始まる。昭和60年にビルへ建て替え、現在に至る。
 浴室はシンプルな造りで、湯船は2つ。一つはジェットとバイブラのさら湯。もう一つは薬湯で、「天然生薬じっこう(漢方)」「米ぬか油・オリーブ油」「コラーゲン」を2日ごとに入れ替え、人気を博している。いずれの湯船も湯温は42℃ほど。ちょっと熱めで心地よい。ちなみに浴室のお湯は全て軟水で、湯上がりの肌はツルツルだ。

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 午後3時半の開店と同時に次々に人が訪れる。常連さんの中には、冒頭のシーンのように飼育ケースを覗き込む人も多いようだ。お客さんは次々に脱衣場に消えていくが、ご主人が気になっているのは子どものお客さんが少ないことだ。
「今は銭湯の存在自体を知らない、子どもの頃に行ったことがない、そんな若い人が増えています。子どもの頃に大きなお風呂につかった体験があれば、きっと大人になっても銭湯へ行きたいと思ってくれるはず。だから、子どもの社会科見学とか体験入浴なんかにはどんどん協力していきたいです」
 昨年は近所の幼稚園が、福の湯で体験入浴を実施したそうだ。「小さな子どもの記憶に銭湯を残したい」というご主人の取り組みで、未来の銭湯ユーザーを一人でも増やすことが期待される。

 さて、お客さんの目を楽しませてくれるのはペットだけではない。玄関やフロントでは色とりどりの季節の花が咲き誇る。
 また、玄関にはご主人の父上が作ったという、昔の日本の田舎の風景を再現したジオラマが飾られている。かやぶき屋根の民家や水車、牛車と大八車、つるべ、かまど、ししおどしなど、細かいところまで再現した見事な出来栄えだ。全て手作りというから、ちょっとすごい。なるほど、ペットといいジオラマといい、福の湯の経営者は親子揃って凝り性のようである。

(写真・文:編集部)

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湯船もカランも全て軟水

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ご主人の父上が作ったジオラマ

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珍しい生き物でいっぱいのロビー

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店の入り口は、赤い枠の扉が目印


【DATA】
福の湯(新宿区|高田馬場駅)
●銭湯お遍路番号:新宿区9番
●住所:新宿区高田馬場4-18-2
●TEL:03-3362-0898
●営業時間:15時半〜25時
●定休日:月曜
●交通:山手線「高田馬場」駅下車、徒歩5分
●ホームページ:——
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