JR高円寺駅と丸ノ内線新高円寺駅の間を結ぶ商店街は、肉屋や八百屋など昔ながらの店と、雑貨屋や古着店など若者向きの店がバランスよく共存していて活気がある。そんな商店街をJR高円寺駅から南に進み、最初の交差点で右折した先にある「弁天湯」を訪ねた。

「うちは場所がわかりづらい、っていわれるんです。スマホのナビだと住宅街の中を歩かされるみたい(笑)。商店街のほうから来ればわかりやすいんだけど」と出迎えてくれたのは、小池信和さん。奥様の美由紀さんとご両親の4人で店を営んでいる。

 さて、弁天湯までの道すがら歩いてきたルック商店街は、Twitterで情報を発信する「Twitter商店街」の先駆けとして知られており、弁天湯も数年前からSNSやブログでの情報発信に力を入れている。「両親は “そんなことやって客が増えるのか” なんていってたんです。そりゃすぐに増えるわけじゃないけど、種はまいておかないといけないと思って」と信和さん。

 そんな情報発信が実を結んだのが今年。信和さんのブログを見たテレビ局からロケの依頼があったのだ。高円寺を舞台にした「ようこそ、わが家へ」というドラマで、人気アイドルグループ「嵐」の相葉雅紀さんが入浴するシーンの撮影が行われた。放映後の反響はすさまじく、ロケ地をめぐる相葉ファンが続々と訪れるようになったとか。「北は北海道、南は九州まで、全国から相葉ファンが訪ねてくるんです。中には相葉君が入ったのと同じ湯船につかって記念撮影をしたい、なんて人も。せっかく遠くから来てくれたのに断れないですよ(笑)。開店前に入ってもらって妻が撮影しました」。ロビーにはドラマの写真やポスターが貼られ、ファンとドラマについて語り合うこともよくあるとのこと。

 一見さんのみならず、最近は若いお客さんも増えているということで、徐々に信和さんのまいた種が花を咲かせつつあるようだ。

 また、新規の顧客開拓だけでなく常連さんへもサービスを、ということで、今年から店独自のスタンプカードも開始。スタンプが10個貯まると、タオル・石けん・ジュースのいずれかがもらえるということで好評だ。

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 さて、店内を見てみよう。女湯の脱衣場には、お母様の律子さんが、趣味で手がけているというパッチワークの作品が飾られている。季節ごとに替わる作品はお客さんの注目度も高く、作品について話の花が咲くこともしばしば。

 男湯のほうには杉並区浴場組合の公認キャラクター「ふろっとくん」をはじめ、同組合のポスターを手がけているイラストレーター、上丸健さんの作品が飾られている。ロビーの「銭湯ギャラリー」と銘打った展示スペースでも上丸さんの作品が飾られており、さながらアート銭湯といった趣だ。

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 浴室は天井が高い、昔ながらの東京らしい銭湯だが、壁にレンガ調のタイルがはめ込まれたモダンな内装が目を引く。湯船には電気風呂、下から気泡が湧き出るバイブラ、腰や足をジェットでマッサージするリラックスバス、強力なジェットが2ヵ所から噴き出すジェットエステが並ぶ。お湯は42度前後で、それほど熱くはないが、熱い湯が苦手な人のために水栓が3ヵ所ほどあるのがうれしい。

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 開店直後に常連さんとともにひとっ風呂あびる。賑やかな女湯とは対照的に男湯では体を洗い、湯につかるのを黙々と行っている人がほとんど。時折響く桶の音が耳に心地よい。筆者も座りっぱなしで凝り固まった肩と背中を、電気風呂とジェットエステで揉みほぐす。何度か交互に行き来しているうちに、だいぶ軽くなってきた。肩こりに悩む方は、電気風呂とジェットの組み合わせを試してみては。

 ちなみに木曜日と日曜日は薬湯を実施している。木曜は「温泉源」で、温泉に入浴したときのように肌がスベスベになるそうだ。日曜日は毎週種類が変わり、漢方や緑茶などが人気だ。

 湯上がりに火照った体を冷まそうと、商店街を駅へと戻る。夕暮れ時の商店街をせわしなく行き交う人の向こうに、飲み屋の明かりが灯り始めている。どこで一杯ひっかけようか。あまたある店の中から一軒を選ぶのは、難問ながらまた至福の時でもある。
(写真・文:編集部)


【DATA】
弁天湯(杉並区|新高円寺駅)
●銭湯お遍路番号:杉並区 23番
●住所:杉並区高円寺南3-25-1
●TEL:03-3312-0449
●営業時間:15時半〜25時
●定休日:月曜
●交通:JR高円寺駅より徒歩9分、東京メトロ丸ノ内線「新高円寺」駅より徒歩6分
●ブログ:http://ameblo.jp/bentenyu1010
●Twitter:https://twitter.com/bentenyu1010
銭湯マップはこちら

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毎週日曜日は薬湯を実施。種類は
毎週変わる。写真は人気の緑茶

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建物はモダンに改装されている

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商店街にある緑色の薬局が
右折の目印

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左から奥様の美由紀さん、信和さん、
お母様の律子さん