銭湯に心強い応援団が現れた! 銭湯を楽しむのはもちろん、「若者の銭湯離れを防ぐ」「銭湯を世界に広める」の目標を掲げ、2014年6月に結成された東京外国語大学銭湯同好会。月1〜2回、部員が集まっての銭湯探訪をはじめ、ネットを駆使したPR活動にも熱心に取り組んでいます。銭湯が身近な存在ではない若い世代が、なぜ銭湯に感心を持ち、銭湯を応援する活動を行うようになったのか? その活動内容や目標についてうかがってきました。

■活動のきっかけは、現在留学中の前代表

田原文太(以下、田原):この銭湯同好会は昨年6月に結成しました。現在、メキシコに留学中の前代表がとても銭湯好きで、「最近の銭湯の停滞状況をなんとかしたい」と、僕を含めた3人で活動をスタートしました。活動といっても、3人で集まって銭湯へ行くだけだったんですが(笑)。まあ、それだけでは何も変わらないので団体として活動したほうが効果があるだろうと結成したのが、銭湯同好会です。

荻田航太郎(以下、荻田):僕がメンバーに加わったのは、田原君と共通の友人に誘われて、稲城浴場(稲城市)へ行ったのがきっかけです。もともとお風呂好きだったんですが、現在はアパート住まいでユニットバスが窮屈だなと思っていました。そんな時に、銭湯に誘われて広い風呂に入ってみたら、とてもよかった。それで同好会に参加して、今年は代表を務めています。

澤田真彦(以下、澤田):僕は旅行に出かけたときによくマンガ喫茶に泊まっていたんですが、シャワーだとなんとなく物足りない。そこで銭湯に出かけてみたら、広くてとても気持ちよかった。それで大きなお風呂に魅力を感じて銭湯に興味を持つようになったんです。そんな折、友人の田原君が銭湯同好会の存在を教えてくれて、遊びに行くようになりました。

田原:僕は元々銭湯へ通っていたわけではないんですが、前代表に誘われて銭湯に行くようになりました。普段は勉強やバイトに追われていてあまり自分の時間がない。でも、友達と集まって銭湯に行くといい息抜きになるんです。ご褒美感覚で銭湯へ行っています(笑)。

荻田:僕にとっては大きなお風呂につかれるのが銭湯の一番の魅力なんですが、あわせて店内の雰囲気やお湯の感触も楽しんでいます。銭湯はそれぞれの店ごとにユニークなところがあるので、その空気感の違いも楽しみです。同好会では新しい銭湯に行くことが多いですが、古い店に行ってもそれはそれでいいなあ、としみじみ思いますね。

澤田:自分はいろいろな種類のお風呂があるところに銭湯の魅力を感じます。設備、お湯の温度、薬湯の有無などを観察してつかるという楽しみですね。

田原:僕は人を見るのが好きかな。時間によっても違うとは思うんですが、どんな人がいるのか。銭湯の立地や町によって、お客さんの雰囲気が違うのがおもしろいです。銭湯って土地柄が濃く現れる場所だなと思います。

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代表の荻田航太郎さん

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澤田真彦さん

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田原文太さん

■銭湯へ連れ立って出かける非日常感が楽しい

田原:銭湯は全国的に急激に数が減っています。現在は風呂のある家がほとんどなので、銭湯の存在自体を知らない人も多い。

荻田:でも一度大きな風呂につかってみれば、大浴場の爽快感と癒し感はなにものにも替え難いことがわかると思うんです。

澤田:銭湯の魅力に気付かずに一生を終えてしまう若者がいるのはもったいない!

荻田:風呂好きとしては、銭湯に行ったことがない「銭湯ヴァージン」に銭湯の魅力を伝えたい。だから「銭湯を楽しむ」のほかに、「若者の銭湯離れを防ぐ」を活動目標に掲げています。 

田原:それと外国語大学という条件を活かして「銭湯を世界に広める」という目標もあります。日本と外国では入浴文化が異なることもあり、そもそも銭湯の存在をまったく知らない人も多い。だから、外国語で銭湯を紹介するなどの活動を通して、世界の多くの人々に日本文化の一つである銭湯を知ってもらおうと考えています。

荻田:現在のメンバーは約10名で、月1〜2回銭湯へ連れ立って出かけます。学外からの参加者もいますね。

澤田:週一回空き教室を使って部会を開き、どこの銭湯に行くか相談して決めます。大学への公認を申請中なので、公認が得られて部室ができるといいな(笑)。

田原:同好会のなかでも建物にこだわる人や設備にこだわる人など、いろいろ派閥がありまして(笑)、次にどこの銭湯へ行くかはディスカッションで決めます。

荻田:今年の春は1年生がたくさん入ってくれて嬉しかった。

澤田:ブースを出して勧誘したり、新歓(新入生歓迎会)で銭湯に誘ったり、いろいろやりました。銭湯自体に興味がある人、入浴文化全体に興味がある人など、関心の持ち方はいろいろです。今は地方出身者が多いかな。

荻田:連れ立って出かけるのは、旅行みたいで非日常感があっていいんだよね。

田原:メンバーの中には単独で銭湯へ出かける人もいるけど、メンバーで出かけるのはまた別の楽しみがある。

荻田:風呂の後にみんなで食事しながら、入浴の感想を話し合うのも楽しいよね。

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■銭湯探訪で発見、浴室がそっくりな銭湯!

田原:部員が連れ立って出かける銭湯探訪の行き先は、レトロ銭湯ありデザイナーズ銭湯ありで、東京の東西南北あちこちへ出かけています。

澤田:昨日は世田谷の等々力渓谷を散策してから蒲田温泉(大田区)へ行きました。

荻田:蒲田温泉はお風呂もいいんですが、釜飯が……

田原:大広間で食べた釜飯がおいしかった!

澤田:お風呂と大広間を行ったり来たりする人もいて、地元の人がお風呂を満喫している雰囲気がよかったです。

荻田:蒲田温泉は昼からやっていて、多摩のほうとは営業時間がちょっと違うなと思いました。

田原:これまでの銭湯探訪で印象に残っているのは、北千住のタカラ湯(足立区)。建物も立派ですが「キングオブ縁側」といわれるだけあって庭がすごかったです。僕はのぼせやすいので風呂上がりにボーッとするのが好きなんですが、あそこの縁側で立派な庭を見ながら涼むのは気持ちよかった。

荻田:僕は武蔵小山温泉 清水湯(品川区)が印象に残っているかな。温泉が2種類あり、内装も庭も凝っていて驚きました。浴室も黒をベースにしていて、オシャレでいい雰囲気だった。

澤田:僕が印象に残っているのは、全然違う場所なのに雰囲気がそっくりな銭湯があったこと! 稲城浴場(稲城市)と乙女湯(江戸川区)の浴室が似ているというか、ほぼ同じだったのに驚きました。

荻田:あれはパラレルワールドだったよね!

田原:相違点を探すのが難しいぐらい。どっちがどっちか、写真だとわからないかも。

澤田:どうも設計会社が同じだったらしいです。当時の流行だったんでしょうね(笑)。

田原:他の銭湯でも探せばあるかもしれないから、見つけたら比較してみたいですね。

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■同好会のPRや活動報告は、ネットを積極的に活用

荻田:同好会は銭湯へ実際に足を運ぶ活動がメインですが、活動報告やPRはネットを積極的に活用しています。ホームページ(http://tufsen.jp/)は澤田君の担当です。たぶん、東京外国語大学のサークル活動では一番力の入っているホームページなんじゃないかと思います(笑)。

澤田:ホームページを作るのはなかなか大変だったんですが、見てくれた学外の人が参加するきっかけになっているので、作ってよかったです。FacebookやTwitterも開設してあるんですが、「ここの銭湯がいいよ」とか、いろいろな人から情報をもらったり。

荻田:それと、前代表が知り合いの映像サークルに頼んで、銭湯をテーマにしたショートムービーを作成して、Youtubeで公開しています。

田原:ショートムービーは「銭湯」「Jazz編」の2本あるんですが、その動画を見たイラストレーターの方が連絡を下さって、あるセリフを元にラインのスタンプを制作して販売することになりました。いろいろな人とつながることができるのが、ネットのすごいところだなと思います。

澤田:スタンプの紹介文章は外大生のスキルを活かして、英語とスペイン語を提供しました。

田原:ホームページでは、いずれ外国の入浴事情も紹介したいですね。メキシコに留学している前代表からは、ちょくちょくメキシコの入浴事情について報告が届きます。僕自身も来月ヨルダンへ留学するので、イスラム圏の入浴事情を調べて報告したいと思います。

■留学生を銭湯に誘ってみたが……

荻田:外国語大学なので、外国人の留学生もいます。彼らにぜひ銭湯を体験してもらいたいと思っているんですが……。

澤田:まだ、うまくいっていない(笑)。

田原:銭湯に興味を持ってくれる留学生もいるんですが、なかなか他人同士で裸になるのはハードルが高いようです。うまく銭湯の魅力を紹介する方法を探しています。

荻田:まずはホームページの英語版を作ろうと準備中です(※6/10より公開スタート)。

澤田:とりあえず一人、留学生を銭湯に連れて行って、そのよさを口コミで広めてもらうのが目標かな。

田原:留学生と交流するサークルもあるので、ゆくゆくはそういったグループに協力を依頼して、入浴体験を実現させられたらいいな。留学生と一口に言っても国や宗教、地域によって全く入浴に関する考え方が違う。例えば同じ中国でもお湯につかりたい人と、つかりたくない人がいる。まずはお湯につかることに抵抗がない人達を誘いたいな。

荻田:昨年秋の「外語祭」に銭湯同好会も展示を出しました。展示を見に来てくれた留学生もいて、結構反応はよかったんですが、実際の入浴にはいたらなかった。

澤田:展示では富士山の背景画を大きく出力したものを展示したんですが、それに興味を持ってくれた人も多かったね。

荻田:背景画の展示があったおかげでなんとか形になった(笑)。

田原:廊下からもよく見えたし。

澤田:A4のカラープリントを100枚以上つなぎあわせるのは大変だったけど(笑)、役に立ってよかった。

荻田:展示は銭湯の文化、建築、歴史に加えて現状を紹介しました。

田原:今年の夏は「銭湯合宿」で京都に行く予定なんです。銭湯の開店前の準備などを手伝って、それをまとめて秋の外語祭で発表するつもりです。

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■国内国外を問わず、銭湯の魅力を発信したい

荻田:今後は銭湯探訪を通じて銭湯の魅力を広めることはもちろん、銭湯業界に若い人の好みや改善点、外国人客への対応方法などを提案する存在になれたらいいなと思います。あとは、出版社と大学が提携して行っているイベントなんですが、プレゼンで優勝した団体の企画を本にしてもらえる「出版甲子園」というイベントがあります。その企画に声をかけてもらったので、出場して自分たちの活動を本にまとめられたらいいな。

田原:まだ活動を始めて1年ちょっとの同好会なので、まずはメンバーでしっかり風呂を楽しみつつ、いろいろな活動に手を広げていきたいですね。学生だからできること、例えば時間があるのでリサーチ活動もできる。それと留学生を銭湯へ誘う機会が多いのは外語大生ならではなので、個人的な付き合いから外国人留学生を銭湯に誘ってみたいです。

澤田:温泉という言葉や文化は海外にも知れ渡っていますが、銭湯の認知度はまだまだ低い。自分の経験でも留学生に必ず聞かれるのが「温泉と銭湯って、何がちがうの?」。「温泉は基本的に遠くに行かないと楽しめないが、銭湯は近所にあり、ちょっと足を伸ばすだけで気軽に入浴できるんだよ」って、説明しています。2020年にオリンピックがありますし、銭湯がどんな場所なのか、もっと海外に発信していきたい。

田原:銭湯は日本独特の文化で、気軽に行けるのが最大の魅力。そこを同世代の若者や外国にPRしたい。

荻田:お湯につかることは「プチぜいたく」である、ということも!

澤田:体をきれいにするだけでない、疲れをとったりプラスαの要素もある、ということも伝えたいな。

荻田:そうそう、我々は全員4年生なので、新入部員を現在大募集中です。

田原:大学・国籍は問いません。単発でも定期的な参加でもどちらでも大丈夫。

澤田:まずは我々のホームページ、Facebook、Twitterにアクセスしてみてください。イベント情報も頻繁に発信しています。

荻田:銭湯初心者、未体験の人も大歓迎です!

(写真:望月ロウ 文:タナカユウジ)

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【プロフィール】

東京外国語大学銭湯同好会 2014年6月に結成された銭湯探訪や情報の共有など、銭湯をさまざまな形で楽しむ同好会。銭湯を単に楽しむだけでなく、「若者の銭湯離れを防ぐ」「銭湯を世界に広める」を目標に掲げ活動している。現代表は4年生の荻田航太郎さん。

東京外国語大学銭湯同好会HP:http://tufsen.jp/

Facebook:https://www.facebook.com/tufsen460?fref=ts

Twitter:https://twitter.com/tufsen450


【取材地DATA】

今回のインタビューは東京外国語大学からほど近い「のぼり湯」(三鷹市)で行われた。露天の岩風呂が人気のデザイナーズ銭湯だ。

のぼり湯(三鷹市)

●銭湯お遍路番号:三鷹市3番

●住所:三鷹市井口5-5-18

●TEL:0422-31-7645

●営業時間:16〜23時

●定休日:水曜

●交通:中央線「武蔵境」駅よりバス。「井口新田」下車、徒歩3分

●ホームページ:http://www.at-ml.jp/?in=58603/

●Facebook:https://www.facebook.com/noboriyu268

●Twitter:https://twitter.com/@symk268

銭湯マップはこちら

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のぼり湯のご主人と同好会の皆さん