2018/01/11

銭湯BOOKS

南フランス出身の女性銭湯ジャーナリスト・ステファニーさんの初の著作『銭湯は、小さな美術館』が話題を呼んでいる。銭湯のペンキ絵、タイル絵、モザイクタイル絵、靴箱、宮造りの外観といったアイテムをアートとして注目し、視覚で楽しめる約80軒の銭湯を紹介したフォトエッセイ集だ。

「何十年も同じ家族によって時を刻まれた銭湯には、その家族の趣味や人柄が建物、壁、床、雰囲気などににじみ出ており、銭湯の暖簾をくぐるとその空間に惹きつけられ、目の前のアートを肌で感じることができる」と著者は語る。確かに銭湯にあるアートは、常連客は日常のものとして見過ごし、経営者は「どこにでもある」と謙遜しがちだ。しかし、その過ぎていく銭湯の日常に、アートの視点で改めてスポットライトを当てたのが本書の魅力だ。

掲載されている写真は全て著者が自ら撮影したもの。女性らしい感性が活かされた柔らかな雰囲気の写真の数々を見れば、タイトル通り、銭湯がまるで美術館のように感じられるだろう。銭湯の内部は撮影できる時間が限られており、経営者の協力も必要なため、撮影の難易度は極めて高い。にもかかわらず、筆者が全国を飛び回り、数多くの銭湯を記録している点に驚かされる。

「銭湯にはアートが散りばめられている」という著者の感覚は数多くの銭湯をめぐるなかで培われたもので、著者が銭湯に惹かれるようになった大きな理由も「銭湯アート」にある。「銭湯のアートを通して銭湯の魅力を発信したい」という気持ちが、あまり知られていない地方の銭湯にも足を運ぶ著者の原動力になっているようだ。

余談だが、筆者は2014年に銭湯PR誌「1010」で、ステファニーさんへのインタビューに編集者として立ち会った。その時は銭湯めぐりを楽しむフランス人女性ということで話を伺ったのだが、その後、一般社団法人 日本銭湯文化協会の銭湯大使に任命され、日本語と英語で全国の銭湯情報を発信する銭湯ジャーナリストになるとは想像もつかなかった。最近では国内外を問わずマスメディアへの露出も多く、講演などにも活躍の場を広げているが、活動が広がるきっかけとなったのが「1010」でのインタビューだったと本書の前文に記されており、その取材に立ち会った者として嬉しく感じた。

銭湯がメディアで取り上げられる機会も増えている昨今だが、銭湯の数は減少を続けており、銭湯文化は存亡の危機にある。将来、本書が銭湯という日本文化の記録本としてではなく、日本人に銭湯の存在を再認識させた端緒として評価される日が来ることを期待したい。

単なる銭湯ガイドにとどまらない、銭湯愛が詰まったラブレターのような一冊だ。
(文:編集部)

 

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書名:銭湯は、小さな美術館
著者:ステファニー・コロイン
判型:A5判/160ページ
定価:本体2200円+税
発行:啓文社書房