休みの日に家に閉じこもっているなんてもったいない。知らない町を歩いてみれば、思わぬ発見に驚いたり感動したり。疲れたら銭湯でひとっ風呂、湯上がりに一杯やれば極上の休日の出来上がり。さあ、カバンに手拭い一本しのばせて出かけよう。

 今回の「休日銭湯散歩」は、銭湯が数多く点在し、緑が豊富で車も通らず安心して歩ける世田谷の緑道を紹介。

■まずは猫まみれの豪徳寺

 烏山川緑道は、かつて世田谷区内を流れていた烏山川が暗渠化され、その上に設けられた緑道だ。世田谷区北部の粕谷から始まり、三宿で北沢川緑道と合流し、目黒川緑道となる。今回は、東急世田谷線の宮の坂駅を出発点にした。

 東急世田谷線の駅はどこも小ぢんまりとしているが、宮の坂駅もまるで地方都市のローカル線の駅舎のようでかわいらしい。線路で一旦途切れた烏山川緑道が、駅の東側で再び始まるのでそこから歩き始めようと思ったが、駅のそばにある古刹・豪徳寺に「見たいもの」があったので先に訪ねた。

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宮の坂駅には旧車両が展示されている

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途切れた緑道が駅の南側から再び始まる

 豪徳寺は世田谷の領主でもあった彦根藩井伊家の菩提寺。境内南西に広大な井伊家の墓所があり、幕末に非業の死を遂げた大老・井伊直弼の墓もある。

「見たいもの」というのは、井伊家の菩提寺であることに加えて、この寺を有名にしている「招き猫」。仏殿横の招猫殿には、猫まみれといいたくなるほど無数の招き猫が奉納されており、その風景は圧巻だ。招き猫を祀るようになった由来は、彦根藩二代藩主・井伊直孝が、豪徳寺の猫の手招きにより雷雨の難を免れたという言い伝えから、招き猫が縁起物として祀られるようになったとか。

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ちょっと怖いくらいの数の招き猫

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広大な墓所の一番奥に井伊直弼の墓がある

■蛇行する緑道を一路東へ

 猫だらけの風景に興奮(筆者は猫好き)しながら、参道を下ってそのまま烏山川緑道へ。住宅街を縫いつつ蛇行している道が、かつて川だったことを物語り、ところどころに植えられた色とりどりの花々が、目を楽しませてくれる。緑道歩きのいいところは、車やオートバイが通らないので安心なことだ。とはいえ自転車は多いので注意しよう。

 「ごうとくじばし」「しながわばし」など、かつて橋があったところには、暗渠となった今も橋の名が残されているのがおもしろい。

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川の流れを思わせるカーブ

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川が暗渠になっても橋の名は残る

 ところどころ車道を横切りながら、国士舘大学に沿って進むとやがて「しょういんばし」に到着。ここで一旦緑道から離れ、右折して坂を上った先にある松蔭神社へ向かう。

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参道には真新しい吉田松陰像があった

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黒い鳥居が目を引く松蔭神社の参道

 松蔭神社は幕末の思想家・吉田松陰を祀る神社。明治維新で活躍した多くの若者を輩出した松下村塾を開いたことでも知られ、2015年の大河ドラマ「花燃ゆ」では伊勢谷友介が松蔭を演じた。

 安政の大獄で処刑された松蔭が南千住の回向院に葬られた後、その亡骸は高杉晋作ら門下生によって毛利家の抱屋敷内(※)に移された。明治になってその跡地に社殿が建てられ、現在の松陰神社となった。

(※)抱屋敷(かかえやしき):大名が江戸近郊の百姓地を購入して建てた屋敷

■環状7号線を渡ると、三軒茶屋まであと少し

 再び緑道へ戻って少し歩くと環状7号線にぶつかる。一旦緑道が途切れるので、右折して若林の交差点を渡る。この交差点では世田谷線の車両が人や車と同じく信号待ちをする、路面電車らしい風景が見られる。

 再び緑道に戻り、しばらく進むと正面に三軒茶屋のランドマーク、キャロットタワーが見えてきた。

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若林交差点を世田谷線が横切る

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緑道からキャロットタワーが見えた

 緑道沿いには、ところどころに大きな柑橘類がなっている家があるのだが、収穫しないのだろうかと、少し気になる。そのうち左手に太子堂小学校が見えてきた。デザインに凝ったモダンな校舎は小学校というよりも、まるで美術館か博物館のように見える。

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たわわに実ったかんきつ類

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なんだかカッコいい太子堂小学校

 小学校から200mほど進むと茶沢通りにぶつかる。右折すれば三軒茶屋駅がある。歩き疲れたら、銭湯も飲み屋もたくさんあるので、ここで散歩を終わりにしてもいいかもしれない。

■『放浪記』の林芙美子旧宅、円泉寺

 茶沢通りを渡ってから一直線の緑道を進み、小さな池があるところで左折して、ちょっと寄り道。「せたがや百景」の一つ、大きなケヤキの並木が見られる円泉寺へ。門前にみごとなケヤキが並ぶ。ちなみに、周辺の地名である太子堂は、この寺に聖徳太子像が祀られていることにちなんでいる。

 円泉寺の西側の路地は「私は宿命的な放浪者である。私は古里を持たない……したがって旅が古里であった」で始まる『放浪記』を書いた、林芙美子の旧居があったところ。舞台化された『放浪記』では、森光子のでんぐり返しが有名だ。芙美子が流行作家になる以前の不遇な時代を過ごした長屋があったそうだが、どのあたりなのかよくわからない。取り壊されて、記憶を伝えるのは案内板だけなのかもしれない。

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円泉寺のケヤキ並木

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林芙美子旧居跡の案内板

■かわいいタイル絵、三宿神社

 再び緑道に戻ると、道沿いの壁に小学生が描いた色とりどりのタイル絵が飾られているのを見ながら歩くのも楽しい。

 左手に見える神社は、このあたりの地名の由来となっている三宿神社だ。

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個性的なタイル絵が並ぶ

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三宿神社の境内

■合流して名前が目黒川緑道に

 三宿通りを渡ると、緑道に沿ってかつての川の流れを想像させる小さなせせらぎが整備されており、水と緑を間近に感じられる貴重な空間となっている。さらに歩みを進めるとやがて北沢川緑道と合流し、ここから国道246号線までの約600mの区間は目黒川緑道と名前が変わる。

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都会の貴重なオアシス

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烏山川緑道と北沢川緑道の合流点

 目黒川緑道は場所によってはせせらぎに鯉が泳いでいる様子が見られるほか、季節の花々が咲き誇り、道行く人の目を楽しませている。

 やがて緑道の先に高速道路やビルが建ち並ぶ風景が見えてきた。国道246号に突き当ると目黒川緑道は終点となる。ここで一旦左折した先にある、交差点で246号を渡ろう。

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せせらぎとたくさんの花々に心が和む

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国道246号に突き当たって緑道は終了

■目黒川の始まり、目黒天空庭園

 交差点を渡ると、それまで暗渠だった目黒川が開渠となり、ここからは川らしい姿を見せるようになる。左手にある巨大な建造物は首都高速道路の大橋ジャンクション。屋上の「目黒天空庭園」は、晴れた日には富士山をはじめ都心を一望できるほか、一年中緑が楽しめるので時間があれば寄ってみたい。

 目黒川沿いに沿って進むと山手通りのオーバーパスにぶつかるので、左折して迂回しよう。

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目黒川開渠部分の始まり

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大橋JCTの屋上に目黒天空庭園がある

■シャレた店が建ち並ぶ目黒川沿い 

 山手通りから中目黒に至る目黒川沿いにはカフェ、レストラン、アパレルとシャレた店が川の両側に建ち並ぶ。やがて東急東横線のガードが見えてきたら、散歩は終了だ。

 今回歩いたコース周辺には、たくさんの銭湯があるので、どこに入るかはマップ上の銭湯をみて検討してほしい。ちなみに終点の中目黒には露天風呂や炭酸泉を備えた光明泉がある。

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目黒川に沿って歩けるが、車に注意

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東急東横線のガードが見えて散歩は終了

■本日の締めは、老舗居酒屋「藤八」

 散歩の締めに選んだのは、次々に新しい飲食店が登場する中目黒にあっては老舗の居酒屋「藤八」。自家製腸詰やコロッケなど名物はいろいろあるが、串焼き、刺身、煮込み、揚げ物とどれをとってもうまい! メニューも豊富で、おまけにリーズナブル。ついついビールが進んでしまう。赤いメガネをかけた名物ママは残念ながら昨年引退したが、2代目ママが気持ちのいい挨拶で出迎えてくれる。中目黒まで歩いた後にはぜひ寄りたいお店だ。

【DATA】大衆割烹 藤八 ●住所:東京都目黒区上目黒1-3-16 藤八ビル1F ●TEL:03-3710-8729 ●営業時間:17〜23時 ●定休日:日・祝休

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なにはともあれ、ビール!

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壁の「藤八へようこそ」が目印

■緑が楽しめて、プラン変更も自由自在

 宮の坂駅から中目黒まで全部歩いたら約8㎞という充実感のある散歩になるが、途中に三軒茶屋駅や池尻大橋駅があるので、疲れたらプラン変更は簡単だ。コース周辺に銭湯も多いので、お天気や都合に合わせて自由にプランを作ろう。

【今回歩いたコース】

拡大した地図はこちら


(「休日銭湯散歩」は偶数月の第2金曜日に更新します)