「独りでお風呂に入っていると意外と寂しいよ」と自分の銭湯で閉店後に入浴する時の心境を聞かせてくれたのは、武蔵野市境南浴場のご主人、毛利友昭さん。

境南浴場はJR中央線の武蔵境駅から徒歩5分程のところにある。創業は昭和29(1954)年としているが、それ以前は、市営の公衆浴場だった。それを友昭さんの祖父の太六さんが昭和29年に買い取り、現在に至る。

創業当時の写真では周辺は畑ばかりで、境南浴場は瓦屋根の昔ながらの佇まいの銭湯であったというが、30年程前に行った改築時には、周辺は既に住宅地に様変わりをしていた。番台はフロントに代わり、ロビーとして活用するスペースを新たに増築。浴室の不死鳥のタイル絵や玄関の「コミュニティセントウ」のネオンサインは、改築を担当した設計士のアイデアを採用している。

グーグルマップで見るとよくわかるのだが、境南浴場の周辺道路はみな直線であるにもかかわらず、なぜか境南浴場の部分だけ敷地が道路を押し出すように張り出した形状になっている。そのため、駅がある北側から店に向かうと、先に述べたネオンサインや看板がとてもよく目立つ。看板の中でも屋号とともに目をひくのが「北欧サウナ」「天然地下水」の文字だ。実際にサウナに入ってみると、銭湯のサウナとしてはとても広く、30年以上経過しているとは思えないほどきれいである。天然地下水の水風呂も肌にやさしい。昨今のサウナブームでも注目を集め、多くのファンを獲得しているのも納得である。

さて、新型コロナウイルス感染防止のため、過去の緊急事態宣言中には銭湯のサウナも休止せざるをえないこともあった。サウナを日常的に利用している人たちにとっては耐え難い日々だったに違いない。また、浴室やサウナでのおしゃべりを楽しみにしていた人たちにとっても、会話をひかえなければならない現在の状況は、ちょっと物足りないかもしれない。とはいえ、ワクチン接種の広がりなど明るい兆しも見えてきた。今は一刻も早くコロナ前の日常に戻ってほしいと切に願うのみである。

(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
境南浴場(武蔵野市|武蔵境駅)
●銭湯お遍路番号:武蔵野市 2
●住所:武蔵野市境南町3−11−8(銭湯マップはこちら
●TEL:0422-31-7347
●営業時間:16時~23時
●定休日:金曜
●交通:JR中央線「武蔵境」駅下車、徒歩5分
●Twitter:@kyonan_sento

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今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。
http://www.imadaphotoservice.com/

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