「いつかは継がなきゃいけないと思っていた」と当時の心境を話してくれたのは、はすぬま温泉4代目の近藤芳正さん。1年前に家業の銭湯を継ぐまでは自動車部品の設計をしていたという4代目だが、既にお客さんとのたわいもない会話にも銭湯の主人らしい心の温かさを感じる。

はすぬま温泉は、東急池上線蓮沼駅からおよそ徒歩1分のところにある、ビル型の銭湯である。昭和初期に開業した駅名と銭湯の屋号に共通する「蓮沼(はすぬま)」は、昔この辺りが池や沼などの多い湿地帯であり、そこに蓮の群生する沼があったことに由来している。

大正時代の面影が感じられるステンドグラスに囲まれたレトロな内装に加え、道後温泉から着想を得て作られた浴室には、銭湯では珍しい円柱形の「湯釜」と呼ばれる湯口が鎮座している。また、全ての浴槽が天然温泉で満たされており、水風呂も源泉掛け流しなので、サウナ好きにはこの上ない喜びだろう。炭酸泉も用意されており、ゆっくりじっくり温まりたい方にはちょうどよい。

浴室の空間演出に大きな役割を果たしている山と渓谷のタイル絵と、脱衣場のロッカーを支える壁の梁は、41年前(1980年)に木造銭湯からビル型銭湯に建て替えた時に造られ、2017年の中普請の時にも残された。タイル絵は3代目の和幸さんと女将さんが選んだ写真を基に、岐阜のタイル職人に依頼して製作されたもので、当時の二人の思入れが伝わってくるとても壮大なタイル絵である。

建て替えられた1980年当時、はすぬま温泉の周りはほとんどが木造の建物であったが、今は昭和の痕跡がわずかに残る街並みに様変わり。コンクリートの建物が立ち並ぶ路地に柔らかい光を放ち佇むはすぬま温泉を見ていると、行き交う人々の心の中にも、ちょっとした温もりを分け与えているようだ。

さらに、はすぬま温泉は街を照らすだけではなく、災害時の備蓄を備えており、避難所として地域住人を支えることもできる。また、銭湯の利用客はもちろん、近隣住人の命を少しでも多く救いたいとの思いから、いつでも誰でも使えるAED(自動体外式除細動器)を銭湯の外部に設置している。

さて、冒頭で紹介した4代目は、はすぬま温泉について「安心安全の銭湯でありたい」と話す。それはいまだに猛威を振るう新型コロナウイルスが大きく影響している。銭湯に来て安心してお風呂に入れるように入場制限を行い、人が込み合う時間帯を掲示しているほか、脱衣場の消毒は2時間おきに行う。そんな姿を見ている常連さんからは「いつもありがとう」と声をかけてもらうこともあるという。コロナ禍の今、安心で安全であることがどれだけありがたいことか。利用者一人一人の行いも問われているような気がする。

今は辛抱の時であり、やがて必ず笑顔があふれる日々が戻ってくると信じている4代目に「銭湯を一言で言うと?」と聞いてみたところ、「“遊園地”みたいな所でありたい」という答えが返ってきた。それは子供も大人も楽しみにして来てくれて、帰る時にはまた来ようねと言ってもらえる場所でありたいという思いがこもっている。私も東京の銭湯に笑い声が絶えない日が戻ってくるのが待ち遠しい。
(写真家 今田耕太郎)

【DATA】
はすぬま温泉(大田区|蓮沼駅)
●銭湯お遍路番号:大田区 43番
●住所:大田区西蒲田6-16-11
●TEL:03-3734-0081
●営業時間:15~24時
●定休日:火曜
●交通:東急池上線「蓮沼」駅下車、徒歩2分
●Twitter:@hasunumaonsen
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4代目の近藤芳正さん


今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。

2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。

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