今回撮影した銭湯は、小平市津田町にある創業昭和28(1953)年の小平浴場。西武多摩湖線一橋学園駅から徒歩10分のところにある。

ご主人と女将さんが切り盛りし始めて今年で50年目になるが、建造当時の佇まいを残しているのは奇跡的なことである。

今も薪だけでお湯を沸かしている小平浴場は、ご主人が材料になる木製パレットを集めに出かけ、トラックいっぱいに積んでは降ろし、チェーンソーでちょうどよいサイズに切り分けるという、若者でも音を上げてしまいそうな重労働の毎日を過ごしている。

また、何十年も正座で番台に座り続けたことが原因で脚を悪くした女将さんは、杖をつきながらも番台に上がっている。3年前にご主人に脚を伸ばせる様に改造してもらい、毎日笑顔を絶やさない。

70歳を超えた二人だけで銭湯を営むことがどれだけ大変なことか、話を聞いていると心が痛むほど伝わってくる。小平浴場のご主人と女将さんの様に体に鞭を打ち、一生懸命銭湯を営んでいる所は他にも沢山あるだろう。しかし、小平浴場の凄い所は、ご主人と女将さん夫婦がすごく明るく仲が良いところだ。お互いを思いやり、「大変だけど明日は必ず来るから、くよくよしてられないのよ」と笑って言えるところが素晴らしい。

いつ廃業しても悔いがないと言うが、常連さんとの繋がりが今の二人の原動力のようだ。常連さんの「ここのお風呂に入っているから長生きしているのよ~」という言葉や、毎回タクシーに乗ってまで通う、90歳を超えたおじいさんのふんどし姿に元気を貰って(?)いるのだろう。

産まれたての赤ちゃんが可愛いのと同じで、新しく綺麗な物がいいのは当然である。とはいえ、ご自身のお爺ちゃんとお婆ちゃんを思い出してほしい。皺々の顔に見つめられ、シミだらけの腕に抱きしめられたこともあるだろう。人それぞれに思い出の違いはあるが、人生の苦楽を味わったからこそ醸し出す、あの落ち着いた温もりは忘れられないはず。50年以上も変わらない佇まいをはじめ、誰もがどこか懐かしく思える要素が小平浴場にはあるような気がする。

今回の撮影では、小平浴場の年輪を重ねた味わい深い姿を、ありのままに写したつもりである。ご主人と女将さんが元気なうちに、ぜひ小平浴場へ行ってほしい。きっと行ってよかったと思うはずである。
(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
小平浴場(小平市|一橋学園駅)
●銭湯お遍路番号:小平市 2番
●住所:小平市津田町3-4-22
●TEL:042-343-3018
●営業時間:15時45分~23時
●定休日:第1、第3月曜
●交通:西武多摩湖線「一橋学園」駅下車、徒歩10分
●ホームページ:–

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今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。

2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。

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