昨年、全国公衆浴場組合連合会が温冷交代浴の効果に関する実験を行いました。温冷交代浴の実験は令和2(2020)年に次いで2回目ですが、前回は通常の温浴のみと温冷交代浴の違いを調査する目的で行われました。詳細は下記でご覧いただけますが、「通常の温浴のほうが温冷交代浴よりストレスが低下する一方、温冷交代浴はしあわせホルモンの分泌が通常の温浴より大きい」ことがわかりました。
【冊子】「実験でわかった入浴法による効果の違い」(PDF)

今回の実験は、「ととのう」でブームのサウナ浴と浴槽で行う温冷交代浴にどのような違いがあるのかを調査する目的で行われました。フィンランド式のサウナについてはさまざまな健康効果が報告されていますが、日本で流行しているサウナ入浴法(サウナ浴の後、水風呂に入浴したり外気浴したりするサウナ温冷交代浴)が脳疲労を改善する、などと話題になっています(日経クロストレンド2019年、など)。ただ、それを裏付ける学術的な研究はほとんどありません。

これとは別に、以前から多くの銭湯に設置されている水風呂を利用して、温かい浴槽と交互に入浴する「浴槽温冷交代浴」を好む人も増えています。そこで、令和2年の実験結果を踏まえ、うわさが先行するサウナの脳疲労改善効果の追究も含めて、前回と同様に東京都市大学の早坂信哉教授を中心とする研究チームによって、浴槽を使った一般の温冷交代浴とサウナ温冷交代浴を比較する実験調査が行われたのです。

実験前に早坂教授より被験者に実験の流れを説明

 

初日は浴槽温冷交代浴を実施

 

二日目はサウナ温冷交代浴を実施

 

調査する内容は、それぞれの交代浴前後における自律神経機能の測定です。この測定を通して、脳疲労や自律神経機能改善効果を明らかにすることを目的としました。実験は、中野区の松本湯の施設をお借りし、令和5年7月21日に浴槽温冷交代浴を、1週間後の28日にサウナ温冷交代浴を行いました。被験者は20~59歳の男女16名で、日常的に温冷交代浴を行っている体調に異常のない方々です。調査実施前にまず血圧測定と体温測定を行い、医師の診察を実施して体調に問題がないことを確認しました。測定に使用した機器は、脳疲労測定アプリ「ヒロミル」(「疲労ストレススキャン」というキャッチフレーズで発売されているスマホアプリ)とスマートウオッチ型デバイスを用いた「meijin」の2種。また、疲労調査票(日本産業衛生学会産業疲労研究会が令和4年に作成した「自覚症しらべ」というアンケート)への回答もお願いしました。

スマートウオッチ型デバイスにより自律神経機能を測定

 

実験調査の様子はYoutubeに動画がアップされているのでご覧ください。

 

実験結果の詳細データは冊子 「浴槽浴とサウナ浴 温冷交代浴の効果には違いがあった」(PDF)に掲載してありますが、今回の結果から確認されたのはおおよそ次のとおりです。

まず、サウナファンの多くが唱える「脳疲労の改善」は、サウナ温冷交代浴では医学的には認められなかったということ。スマホアプリ「ヒロミル」による脳疲労測定では、浴槽温冷交代浴、サウナ温冷交代浴とも前後の比較でやや疲労の増加を示したものの、大きな差はありませんでした。

しかし、ストレスに関してはサウナ温冷交代浴の入浴前後で確かな改善が認められました。「ヒロミル」は、スマホのカメラ機能を用いて指先の脈波データの収集を行い、スマホとつながっているホストコンピューターで周波数分析を行い、「脳の疲れ」と「ストレス」の数値を提供する、とされています。この機能は、複数の学術論文から一定の信頼性と妥当性のある測定機器であると考えられますが、出力される結果は「脳疲労」「ストレス」の2項目にまとめられてしまうため、詳細な変化を確認することが難しかったようです。

一方、スマートウオッチを使用して心電図を測定し、自律神経機能を解析する「meijin」による分析結果では、浴槽温冷交代浴、サウナ温冷交代浴のいずれも、入浴後は心拍数が明らかに減少し、リラックスの指標である副交感神経活動が高まっていました。副交感神経活動の変化を見ると、浴槽温冷交代浴は入浴直後から出浴30分後までの休憩の間にかけて、ゆっくり副交感神経活動が高まっていくのに対して、サウナ温冷交代浴では入浴直後の急激な副交感神経活動の高まりの後、やや低下していったのです。

今回の浴槽温冷交代浴は40℃の全身浴の後、16℃の冷水浴を行いましたが、サウナ浴は90℃のため、さらに温度差が大きいことが特徴です。したがって、サウナ浴の後の冷水浴は急激により強く交感神経を刺激したのち、その反動で結果として大きく副交感神経活動が高まったものと推測される、と実験報告は述べています。

一方、浴槽温冷交代浴は比較的交感神経への刺激が少なかったため、反動としての副交感神経の急激な高まりが起こらなかったものと推測されました。こうしたことから推定しますと、サウナ浴とその後の冷水浴を繰り返し行うことによる、強い交感神経刺激の後の副交感神経の高まりであったと考えられます。報告書では次のように述べられています。

「いわゆる『ととのう』は医学用語ではないため、その定義はありませんが、サウナ愛好家によってサウナ浴と冷水浴を繰り返したのちに、2~3分間程度感じられる強いリラックス感を指し示すことが多いのではないでしょうか。今回測定できたサウナ入浴直後の強い副交感神経の高まりが、これにあたる可能性があります。したがって『ととのう』はサウナ浴の大きなメリットであると言えますが、反面、刺激が強すぎるために血圧の上下によってヒートショックを起こす危険性も無視できません。人によっては動悸が強くなって、逆に疲れを感じることがある可能性もあります」

「自覚症しらべ」アンケートも含めてまとめると、浴槽温冷交代浴、サウナ温冷交代浴とも疲労回復やリラックス効果につながりますが、サウナのほうが入浴直後の副交感神経活動の高まり方が強く、疲労回復効果を強く感じられると言えるでしょう。これはサウナ温冷交代浴の強い温度差刺激の反動による可能性が高いと推測されました。一方、温冷交代浴はゆるやかにリラックスするという傾向にありました。医学的な観点から言うと、サウナ温冷交代浴は激しい運動に耐えられるアスリート的な体力を持つ人の疲労回復に、浴槽温冷交代浴は体力が中等度以下の人や高齢者の疲労回復に向いていることが、この実験調査から改めて明らかにされた、という結果でした。

冊子「浴槽浴とサウナ浴 温冷交代浴の効果には違いがあった」は下記からご覧になれます。
https://zenyoku.1010.or.jp/data/2401_yokuso_sauna.pdf


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