春と秋の年2回の季節の変わり目は、体が変化するのを感じる人が多いといわれます。春は冬の体から夏の体への変化、秋はその逆。実際、ちょうど今頃は、温かくなっても冬服のままいられたりしますし、秋は涼しくなっても夏服をいつまでも来ていられそうな気になります。極端な暑がりの人や冷え性の人は、そういう経験はないかもしれませんが。

たしかにこの時季、体は変化するようです。先日、汗に関して、あるニュース番組がそれを取り上げていました。テーマは「春の汗が一番臭い」。冬場にあまり汗をかかないため、温かい季節になって体を急に動かしたときにかく汗は、夏のさらさらした汗よりベタついた感じがします。だから蒸発しにくく、菌が繁殖するので臭うというわけです。

人間は汗をかいて体温調節していますが、皮膚の表面にある汗腺はいつもすべてが働いているわけではなく、「休眠汗腺」という働かない汗腺があって、寒い季節はその割合が増えるのだそうです。休眠汗腺が多い状態で汗をかくと、一部の汗腺からまとまって汗が出るため、ミネラルなどを多く含んだ汗、つまりベトベトした汗になるといわれます。

汗は本来「酸性」でほとんどにおわないのですが、春先の汗は乾きにくいため皮膚に長時間残留し、ミネラルの影響で少しアルカリ性側に傾きます。すると、弱アルカリ性の環境を好む皮膚常在菌の繁殖が活発になって汗の成分が分解され、「皮膚ガス」と呼ばれるガスを発生させてにおいがきつくなる、というメカニズムだと説明されています。

この対策は後で述べるとして、耳慣れない「皮膚ガス」は実は体臭と密接に関係しているらしいのです。2017年に東海大学理学部の関根嘉香教授が「皮膚ガス測定は何に役立つか?」という興味深い論文を発表しているのでご紹介しましょう。要約すると、皮膚ガスには皮膚表面の常在菌によるもの(表面反応由来)、汗をかくことで発生するもの(汗線・脂腺由来)、血液中の成分が揮発したもの(血液由来)、の3種類があります。

その皮膚ガスが作られる要因としては、筋肉疲労、ストレス、脂質代謝、飲酒、ニンニク摂取、カレー摂取、腸内細菌、皮脂の酸化、喫煙、化粧品使用など多岐にわたります。当然と思える要因も意外と感じる要因もありますね。採取した標本を分析機にかけて調べてみると、皮膚ガスの成分は、アンモニア(筋肉疲労やストレス)、エチルアルコール(飲酒)、メタンやエタン(腸内細菌)、ノネナール(皮脂の酸化によるものでいわゆる加齢臭の原因成分)、酢酸エチルやリモネン(化粧品使用)などが突き止められました。

関根教授は被験者にストレスを与えずに皮膚ガスのサンプルを集めるための捕集器具を開発しましたが、「皮膚ガス測定は、日常生活における健康状態のチェック、疾病の早期発見や治癒程度の診断、皮膚ガス成分パターンに基づく個人認証など、健康・医療面において多岐にわたるようと展開が期待される」としています。そして東海大学医学部の協力を得てがん患者の皮膚ガスを調査し、それが健康な人と異なるパターンを示すことなどを突き止めました(がんの部位やステージの特定は今後の課題ということです)。今後、この分野の研究成果を期待したいものです。

話を春の汗対策に戻しましょう。とりわけ30~40代の男性は、汗の中の乳酸が分解されて、ジアセチルという皮膚ガスを作りやすく、これが使い古した油のような悪臭を放つのだといわれています。これは「ミドル脂臭」とも呼ばれ、主に後頭部から多く発散されます。枕がにおうのはミドル脂臭が原因です。

また、春は新しい生活のスタートで、今までとは違う環境で不安や緊張が高まりやすく、交感神経が有意になって精神性の発汗が生じやすくなります。精神的あるいは肉体的に疲れると腸内でたんぱく質が分解され、アンモニア臭が生成されて汗に交じって出てきます。これも春の体臭の特徴といわれます。

これにどう対処したらいいでしょうか。関根教授は、においがきつくなりやすいベトベトした汗をかかないためには、まず汗腺を鍛えることが基本だと、4月17日のウェザーニュースで述べています。そのためには、なによりも「適度な運動と入浴(41℃の湯に15分程度浸かる)」。運動も入浴も発汗を促す引き金になりますが、意識して汗をかくような行動を日常化すると、2~3週間くらいで汗はベトベトからサラサラに変わる、といわれています。

さほど熱くない湯に15分程度浸かるというのは、安全でオーソドックスな入浴法ですが、汗腺がどの程度鍛えられるかという科学的な研究はまだないようです。ネット上で調べると、「手足の先の汗腺を42~43℃の熱めの湯で刺激して、その働きを活発にする手足高温浴」とか、「36℃のぬるい湯で、みぞおちあたりまで浸かる半身浴を10~15分行う」といった方法が紹介されていますが、いずれも根拠は示されていません。そこで今話題のチャットGPTに聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。

汗腺を鍛えるという考え方は、科学的に証明されていないため、具体的な方法を提供することはできません。しかしながら、入浴時に汗腺を刺激する方法としては、以下の点に留意することが重要です。

1. 適度な温度で入浴する 高温環境にさらされることで、汗腺が刺激され、汗をかくことができます。しかし、熱すぎるお湯に入ると、皮膚を傷めたり、血圧が上がってめまいや意識障害を引き起こすことがあります。適度な温度で入浴し、身体に無理のないように注意しましょう。

2. ボディソープを使って洗う ボディソープを使って汗や皮脂をしっかりと洗い落とし、雑菌の繁殖を防止しましょう。ただし、過剰な洗浄は皮膚を乾燥させ、逆ににおいの原因になる場合があります。適度な洗浄を心がけましょう。

3. 長時間入浴しない 長時間入浴すると、身体の水分が失われ、脱水症状や健康問題が引き起こされる可能性があります。入浴時間は適度に抑え、十分に休息を取るように心がけましょう。

4. 身体を刺激する入浴剤を使用する 入浴剤には、身体を刺激する成分が含まれているものがあります。これらの入浴剤を使用することで、身体を刺激し、汗腺を刺激することができます。ただし、肌荒れやアレルギーなどのリスクがあるため、自分に合った入浴剤を選びましょう。

5. 身体をしっかりと拭く 入浴後には、身体をしっかりと拭きましょう。汗が残っていると、雑菌の繁殖を促し、においの原因となります。

6. 入浴後に水分補給をする 入浴後には、汗をかいた分の水分を補給することが重要です。水分補給を怠ると、脱水症状や健康問題が引き起こされる可能性があります。入浴後には、十分な水分補給を行いましょう。

7. 清潔な衣服を着る 入浴後は、清潔な衣服に着替えましょう。汗や皮脂が付着している衣服は、雑菌の繁殖を促し、においの原因となります。

以上のような入浴方法を心がけることで、汗臭さを解消することができます。また、毎日の生活習慣にも注意し、適度な運動やバランスの良い食事、十分な睡眠をとることが、においの改善に役立つでしょう。

チャットGPTへの問いかけは「春先に体が汗臭く感じるのは、汗腺の働きが不活発なためといわれています。それを解消するための方法として入浴が挙げられていますが、具体的にどんな入り方をすれば汗腺が鍛えられるのでしょうか」でしたが、AIも、汗腺を鍛えるお風呂の入り方については明快に答えられず、誰もが思いつく当たり障りのない回答ばかり。

チャットGPTは「平気で噓を答える」ともいわれますが、まさに4の「入浴剤」については疑問符が付きます。詳細は今後の研究課題として、なにはともあれ春の体臭を解消するには、お風呂でもサウナでも汗をひたすらかく、ということに尽きるようです。


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