前回は、備えている銭湯の数はそれほど多くありませんが、本格的な乾式サウナに比肩する効果が期待できるミストサウナについて、ご紹介しました。大阪ガスの実験では、ほかに「手足の冷えの緩和」「アレルギー性鼻炎を持つ人の鼻詰まりの改善」「肥満気味の人の体重と腹囲の減少」などの効果が証明されたとしています。

では、今ブームの乾式サウナ(いわゆるドライサウナ)とミストサウナのような湿式サウナでは、どんな効果の違いがあるのでしょうか。日本ではおそらく一つだけだと思いますが、『臨床体温』14巻第2号(1994年)に乾式サウナと湿式サウナの比較研究論文が掲載されています。北海道大学医学部付属病院登別分院(当時)と松下電工(当時)が共同して行った実験です。

実験方法は次の通り。乾式サウナは室内に設置可能な一人用木製の装置。被験者の観測や生理モニターのためにドア部分を透明プラスティック製に改造したそうです。その室内上部にはファンを取り付けて、室内の上下の温度差を少なくするよう工夫し、温度は100℃に設定しました。

湿式サウナはユニット型の浴室を設置し、浴槽部に松下電工製のバスルームサウナを設置しました。ドア部分は乾式と同じように改造し、42℃と46℃の2通りの設定で行いました。被験者は22~24歳の男子大学生12名。被験者全員に42℃湿式サウナ、46℃湿式サウナ、100℃の乾式サウナの3通りのサウナ浴を行ったとしています(乾式のみ被験者は10名)。そのほか、温度感覚、快適さ、疲労度、発汗度などについて被験者がどう感じたかを評価に加えました。

各サウナ浴で調べたのは体温、循環動態(血圧と心拍数の変化)、発汗量。体温は、胸や手足など体表7カ所と直腸温(外気の影響を受けない部位の体温、いわゆる深部体温)を1分ごとに、循環動態も血圧計で1分ごとに計測しました。発汗量は20gの検出ができる体重計を使い、サウナ浴前後の体重差から求めました。で、その結果はどうだったのでしょうか。

結論からいうと、発汗量は3種類のサウナ浴で有意差がありませんでした。乾式サウナでは、入浴直後から体温の上昇が顕著で、血圧と心拍数も増加しました。また、自覚的な不快感も強かったと記されています。一方湿式サウナでは、体温と心拍数の変化は乾式サウナより極めて少なく、自覚的な苦痛はなかったとのこと。42℃と46℃での差はなかったと記されています。総じて低温多湿の湿式サウナは、高温低湿の乾式サウナより入浴による循環動態の影響が穏やかだったという結果でした。

ところでネット情報ですが、海外のサウナ研究家にロイヤルメルボルン工科大学(オーストラリア)のジョイ・フセイン氏という医師がいるそうです。フセイン氏は2019年、サウナをよく利用する人を対象に大規模なオンライン調査(世界29か国、平均年齢45歳の男女472人)を行い、湿式と乾式で汗のかき方が異なるという指摘をしています(Saunology-Studies on Saunaより)。「乾式、湿式ともに熱い空気に体をさらすわけだが、乾式サウナは発汗を活性化し、湿式サウナは発汗の能力を低下させる」というのです。湿式サウナでは汗をかいているように感じるけれど、体の水滴は汗というより高湿度の空気中から結露して体に着いた水分と考えたほうかいい、というわけです。

これ(汗のかき方が異なる)は北海道大学の実験結果である「発汗量は3種類のサウナ浴で有意差がありませんでした」とどのような整合性があるのでしょうか。大多数の動物とは異なり、人の発汗には体温調節の役割があることはよく知られています。湿式でも乾式でも、体温よりも熱いサウナ室の中で体温は高まりますから、発汗作用は当然起こります。北海道大学の研究論文は次のように述べています。

・乾式サウナでは体表温度が入室直後はっきりと上昇し、3分目から上昇が止まる。直腸温は入室後一時的に下がったが、以後、出浴後5分まで上昇し続けた。

・湿式サウナでは体表温度が全身ほぼ均一にゆっくりと上昇し、出浴直前が最も高くなっていた。直腸温は乾式サウナと異なり一時的な低下もなくゆっくり上昇する傾向を示した。

興味深いのは乾式サウナで直腸温、すなわち体の深部体温が一時的に下がったこと。論文では「皮膚の休息高温暴露による、交感神経系などの生体の反応により起こされたものと思われる」としています。平たくいうと、急に皮膚表面が熱いと感じてびっくりした体が、瞬間、防御のために体を冷やす反応をした、ということでしょうか。また論文では「湿式サウナでは高湿度ゆえ汗の蒸発による体温低下効果がないため、42~46℃の比較的低温度でもサウナ浴に応じた体温上昇がみられるものと思われた」としており、「高体温に至る経過に乾式サウナと湿式サウナにはパターンの違いが存在した」とまとめていますから、フセイン氏のいう「乾式サウナは発汗を活性化し、湿式サウナは発汗の能力を低下させる」と矛盾していないことが分かります。

北海道大学の研究論文は、サウナ浴の時間を10分間としたために湿式サウナの体温上昇効果は乾式サウナより低かったが、湿式の設定温度を50℃程度に上げるか入浴時間を延長するかによって体表温度はさらに増え、発汗量も増加できるだろうと予測しています。したがって、体温上昇や発汗を目的にするならば、「乾式・湿式サウナに優劣はないものと思われた」という結論に落ち着きました。ただ、乾式サウナと湿式サウナの本質的な違いは自律神経系への影響で、乾式は急激な温度変化により交感神経が顕著に高ぶり、循環動態に大きな影響を与えるため、運用には注意せよ、とのことです。

一方のフセイン氏の主張(ネット情報)は、湿式サウナの健康効果は乾式サウナと似ており、どちらも皮膚表面と深部の体温を上昇させてさまざまな生理変化を引き起こすが、湿式サウナは発汗が抑制されることによって生理変化がより早く、激しく起こる、としています。つまり、湿度が高く汗が蒸発しにくい湿式サウナでは、血圧や心拍数の変化(循環動態)が早く激しく起こるのではないか、という考えで両者は微妙に食い違っています。

乾式サウナに対するスタンスが好意的か懸念を含んでいるかによって、このような結論の相違が生まれるのでしょうが、リスクを受け止めるのであれば、医学的にはお好きなほうをどうぞ、ということでしょうか。


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