夜の時間が長い季節になりました。季節によって、私たちの睡眠時間が変化するのはご存じですか。昼間の時間が短くなる秋は、夏よりも睡眠時間が長くなるのは自然なことです。冬のほうが夏よりも睡眠時間は30分長くなる、とも言われていますが、その原因は眠りを誘うホルモン「メラトニン」が大いに関係していると考えられています。

しかし、一般的にそういう傾向があるとはいえ、睡眠がうまく取れないことに悩まされている人はたくさんいます。とりわけ頭脳労働の時間が長いビジネマンには大きな問題となっています。

一概に睡眠がうまく取れないといっても、入眠に手間取る、眠りが浅い・短いなど、その内容はさまざま。しかし、サウナにはまる多くの人が、睡眠をコントロールできるようになったといいます。サウナに入ると、短時間で深い睡眠を得られるようになることに加え、日中の眠気も防げるというのです。

たとえば、サウナに入ると75%の人に睡眠の改善が得られるという研究結果が2019年、ドイツの医学雑誌に紹介されました。ただ、なぜそのような効果が得られるのかという医学的なメカニズムはまだ解明されていないようです。日本サウナ学会の代表理事である加藤容崇医師はこのメカニズムについて、「脳が勘違いするから」ではないかと考えています。以下に引用します。

サウナや水風呂に入ると、汗を大量にかいたり、毛穴が引き締められたりすることで、体温調節がめまぐるしく行われます。そして外気浴で一息ついたと思ったら、2セット目に突入。これはまるで、猛ダッシュ→アイシング→インターバルという、過酷なシャトルランのようです。もちろん、実際に筋肉を使うわけではないので疲労物質は溜まりませんが、脳が勘違いするのかもしれません。「この肉体は、ものすごく疲れた」と。 判断する中枢に誤解させるだけの肉体的事実が、サウナに入ることで積み重ねられていく。だから、サウナに入ると、体を休めなさいというシグナルが出て、たっぷり運動した時のように熟睡できるのではないでしょうか。(ORICON NEWS)

入浴と睡眠の関係については「銭湯で元気⑬」で詳しく解説しました。では、睡眠改善のためにはサウナ浴のほうが湯船につかる入浴より優れているのでしょうか。サウナ浴と通常入浴(湯船にためたお湯につかる)の違いから考えてみましょう。通常入浴には「温熱」「静水圧」「浮力」の3大効果があり、それらが絡み合いながらさまざまな健康効果を生み出すことは何度も紹介しました。一方サウナ浴には、「温熱」効果しかないことも説明しました。ただ、サウナの場合はこの「温熱」が強烈なのです。

サウナの効果で最も代表的なのは、運動後に得られるのと同じ爽快感、リフレッシュ効果だといわれています。先ほど紹介したドイツの研究によれば、25分間のサウナ浴と30分間の休憩によって心臓にかかる負荷は、中程度の強さのエアロバイクを漕いだ場合の負荷に相当し、サウナには軽いトレーニングと同程度の心臓や血管を鍛える効果があるとされています。

サウナで温まり、水風呂で冷やし、外気浴で調整するという流れの中で、体の内部にどのような変化が起きているのでしょうか。サウナ室では熱い空気に包まれて、体からじわじわと汗が出てきます。体内の老廃物が汗とともに排出され、これが疲労回復に繋がっていきます。しばらくサウナ室にいると、だんだん熱くなってきて40°C近くまで上昇した体温を冷まそうと、皮膚表面の血流量が増加して脈拍も平常時の2倍ほどの速さになります。この状態は、気持ちいいというよりもむしろ不快感のほうが勝ります。体が危険信号を出すために、交感神経が活発になるからです。

次にサウナ室を出て水風呂に入ると、温められていた体が冷たい水で急速に冷やされます。ある種の快感がありますが、副交感神経が優位になるからではありません。水風呂でも、リラックスしているときに優位になる副交感神経ではなく、交感神経が優位になるのです。ずっとつかっていたら体温はどんどん下がり、再び体から危険信号が出るからです。

水風呂から出て、外気浴スペースで休憩を行うと、サウナから水風呂の過程で大きく交感神経優位になっていたところから、逆に副交感神経が優位となります。こうして体全体が一気にリラックスモードに入るのです。水風呂によって収縮していた血管が解放され、体表温度も脈拍も平常時近くに戻ります。

この交感神経優位から副交感神経優位に自律神経がスイッチするとき、私たちは爽快感(リフレッシュ感)を感じるというのがサウナーの持論なのですが、この爽快感はランニングの後にハイになる感覚と似ています。ただし、サウナが運動と異なるのは、30分~1時間というごく短時間の間に運動と同様の効果を得られること。ただサウナや水風呂に入って休憩するだけでよく、特別な能力や技能を必要としないことです。

通常入浴でも交感神経と副交感神経のスイッチが行われますが、サウナ浴のそれとは強度が異なります。この違いが睡眠の障害改善に差をつけていると考えられています。加藤医師は、サウナが睡眠に与える影響を検証するために、サウナに入った日と入らなかった日の自身の睡眠状態を計測しました。すると、サウナに入らなかった日の夜は、脳や体の疲労を回復させる深い睡眠の割合が全体の14%程度だったのに対し、サウナに入った日の夜は約28%と、全体に占める深い睡眠の割合が2倍近くになっていたことがわかりました。すなわち、サウナに入った日のほうが睡眠の質が改善し、ぐっすり眠れていたのです。「サウナに入れば睡眠薬は必要ない」とフィンランドではいわれているそうですが、通常入浴では眠りの改善がうまくいかないと悩んでいる方は、一度サウナを試してみてはいかがでしょうか。


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