まだまだ続きそうな自粛生活で増加中の「コロナ太り」。肥満と新型コロナの重症化の関連性については、前回ご紹介したとおりです。しかし、体重増加の原因が脂肪太りではない方、短期間で体重が数キロ増えた、あるいは、痩せたと思ったらまたすぐに太ったという方は、もしかすると“水太り”かもしれません。

水太りとは、体内の水分が停滞する“むくみ”が慢性化した状態のことで、脂肪が溜まる“肥満”とは異なります。体重増加を解消したいとき、脂肪太りか水太りかで対処法が異なるので、まずはそこを見極めなければいけません。むくみか脂肪太りかをセルフチェックするには、気になる部分を指で約5〜10秒間強く押してみましょう。指を離して数秒でへこみが戻るならその部分は「脂肪」、戻らない場合は「むくみ」と考えられます。

今回はこのむくみと水太りを中心にご紹介しますが、例えば履いていた靴下のゴムのあとがでこぼこと少し残る、夕方に足がパンパンに腫れて履いていた靴がきつくなる、塩分の取り過ぎで顔が丸く腫れたようになる、などは誰もが日常的に経験していると思います。まさにこれが“むくみ”ですが、そのデコボコや腫れがわずかの時間で元に戻るのであれば、ほとんど気にする必要はありません。立ちっぱなしや座りっぱなしなど、同じ姿勢が続く、あるいはゴムなどで締め付けると水分の流れが多少停滞するのは生理学上、当然のことだからです。そもそも人間の身体の約60%は水分でできていて、細胞の中に約3分の2、血液中と細胞同士の間を満たす間質液の中に残りの約3分の1が分布しています。間質液は細胞や血管を行き来して、細胞に酸素や栄養を届けたり、不要な物質を回収したりしているわけですが、何らかの原因によりバランスが崩れてしまい、間質液に水分が増えすぎたときにむくみが生じるというわけです。

健康体であれば、本来、むくみの解消はそう難しくはないのですが、厄介なのはこれが長期間解消されずに慢性化して、水太り状態になること。もともとの体質もありますが、年齢を重ねると代謝が落ちたり、女性の場合はホルモンバランスの関係でむくみやすくなったりします。放置すれば慢性化しますから、どんな理由にせよ、むくんでいて体重増加に影響している状況なら、これ以上悪化しないよう何らかのケアをするのが賢明です。

なお、ひとつ忘れてならないのは、病気が原因でむくみが生じる場合もあるということです。病的なむくみで医師の診察を受けると、治療薬による薬剤性浮腫のほか、心臓病、腎臓病、甲状腺異常、深部静脈血栓症、下肢静脈瘤などの有無について問診や検査が行われます。いつもとは違うむくみが生じていると感じたら、ためらわずに受診が必要です。

ここでご紹介するのは、健康な人がそれを維持するためのむくみと水太りの解消法ですが、根本原因にアプローチするならば、第一にすべきはやはり「運動」です。脂肪太り、水太りはいずれも「運動不足」が最大の原因だからです。これまでも運動を適切に行うと、血圧、がん、体脂肪、抑うつ状態、不安症状、不眠などによい影響を与えるという趣旨の研究が多数報告されてきましたが、「運動で血流やリンパの流れの滞りと冷えなどを解消できる」ことは当たり前で、もちろん脂肪太りや水太りにも効果的です。そして、どちらかといえば水太りのほうが、即効性を感じられやすいはずです。しかも、筋力がアップすればむくみにくい体になっていくでしょう。実は、米国の保険会社の調査で「運動不足の人は新型コロナが重症化しやすい」というデータも出ていますから、コロナ太りしているかどうかに関わらず、積極的に運動する習慣を生活に取り入れるべきともいえるでしょう。

それでは、私たちはどんな運動をすればよいのでしょうか? さまざまな専門家がさまざまな提言をしていますが、免疫の観点から見ると、激しい運動をするとNK細胞の活動が弱まることがわかっているため、基本的に適度なウォーキングや水泳などの有酸素運動が推奨されています。

WHOが2020年に発表した指標を一部抜粋します。

成人 (18–64 歳)
★健康効果を得るためには、1週間を通して、中強度の有酸素性の身体活動を少なくとも150~300分、高強度の有酸素性の身体活動を少なくとも75~150分、または中強度と高強度の身体活動の組み合わせによる同等の量を行うべきである。
★健康増進のために、週に2日以上、すべての主要筋群を使用して実施する中強度以上の強度の筋力向上活動を行うことが推奨される。

高齢者(65歳以上)
★健康効果を得るためには、1週間を通して、中強度の有酸素性の身体活動を少なくとも150~300分、高強度の有酸素性の身体活動を少なくとも75~150分、または中等度と高強度の身体活動の組み合わせによる同等の量を行うべきである。
★健康増進のために、週に2日以上、すべての主要筋群を使用して実施する中強度以上の強度の筋力向上活動を行うことが推奨される。
★機能的な能力の向上と転倒予防のために、週の身体活動の一環として、機能的なバランスと筋力トレーニングを重視した多様な要素を含む身体活動を週3日以上、中強度以上の強度で行うべきである。

中強度の運動とは「ややきつい」と感じる程度、高強度の運動は「きつい」と感じる程度をあらわします。本来、年齢や性別、体の状態で最適な運動量は異なるでしょうから、無理は禁物。まずは少し汗ばむ程度の負荷で1日に5000~8000歩、歩くことを目安にするといいかもしれません。散歩はストレス解消にもつながるため、精神面にもよい効果を与えてくれます。

しかしながら、マスク着用、不要不急の外出自粛などさまざまな制約がある中、ストイックに運動として散歩に取り組むことに積極的になれない人もいるかもしれません。それならば、散歩がてら近くの銭湯に出向き、お風呂の力も借りて水太りを解消するのはいかがでしょうか。実は、今回のテーマであるむくみ・水太り解消にも、努力不要で手っ取り早く効果的なのはお風呂なのです。

湯船に浸かる入浴で得られる効果は「温熱」「浮力」「静水圧」3つ。冷えはむくみの大敵ですが、特に夏はクーラー、冬は寒気で体が冷えやすく、そこに在宅ワーク、長時間のデスクワークが重なることで、血流やリンパの流れがますます滞って足がむくみ、慢性化した場合はそのまま足が太くなり、下半身太りになります。ですから入浴の「温熱」効果で体をあたため、血行を促進することは、むくみにとても効果的です。

一方、「浮力」によるリラックス効果は、交感神経を鎮め、自律神経を整えます。自律神経を整えることは血行を良くしますので、むくみ防止にも少なからず貢献するでしょう。

また、湯船につかると「静水圧」でウエストが3〜5cm細くなるとも言われていますが、静水圧とは、湯船の中でかかる圧力のことで、1mの深さでは1cm2 あたり100gの水圧がかかりますから、当然リンパの流れにも影響します。このように、湯船につかる入浴は実に多面的にアプローチできますので、やせたいときにはやはり湯船を積極的に活用することをおすすめします。

コロナ太り対策には銭湯の大きな湯船を活用しよう(写真:江戸川区・鶴の湯

 

サウナもまた、むくみに効果的といわれています。『医者が教えるサウナの教科書』(ダイヤモンド社)によれば、サウナにはファスティングと同様な効果が見られるとのこと。ファスティングとは断食のことで、食事を18時間断つと甲状腺ホルモンが分泌され、代謝のスイッチが切り替わり、溜め込んだ脂肪を使い始めるということです。この作用が、サウナに入ってわずか20〜30分後に現れるそうで、脂肪太りにも効果が期待できます。
もちろん、むくみにも非常に効果が高いと書かれており、塩分の過剰摂取でむくんでいる場合、サウナで汗をたくさんかくと、水分と塩分が排出されてむくみが取れると紹介されています。

サウナには断食と同様の効果も(写真:中野区・健康浴泉

 

明治時代に食養生を説いた医師、石塚左玄が、入浴には脱塩法としての意義があるとしていましたが、汗に含まれる塩分量は約0.3〜0.9%程度といわれていますから、現代においても塩分過多でむくんでいる方は、湯船やサウナで存分に発汗するといいでしょう。また、入浴にしろサウナにしろ、いずれも体内のポンプ機能を促進してくれる温冷交代浴を行うと、より効果的にむくみ対策ができます。

ただし、むくみというと、もともと水分を取りすぎているイメージがありますから、可能な限り水分を排出するのがいいような気がしてしまいますが、これには注意が必要です。実は人間の体は、水分の摂取が少なくなると“体内の水を溜め込もう”と逆にむくみを引き起こすのです。41℃の風呂に15分間入浴後、30分間安静というスタイルで入浴した際、約800mℓの水分が体内から失われていることが大塚製薬の研究でわかっています。また、条件や個人差もありますが、日本サウナ・スパ協会が「1回のサウナ浴(サウナ・水風呂・休憩の1セット)で出る汗の量は約300~400 mℓ」としていますので、入浴前後の水分補給の参考にしてください。入浴前後に最適な飲み物については、また別の機会に。


th_4

銭湯の検索はWEB版「東京銭湯マップ」でどうぞ