大半の日本人は風呂好きで、湯船の中では肩まで湯に浸かり、じっと黙考する習慣がある、はずなのですが、中にはそういう入浴を苦手と感じる人もいるようです。「note」という情報発信サイトでこんな一文を目にしました。

お風呂が苦手だ。
単にめんどくさい。
仕方なく渋々入る、毎日の「タスク」って感じがする。
女の子は長風呂が得意で、キャンドルとか入浴剤とかでお風呂時間も半身浴で楽しんで……みたいなイメージがあって、お風呂は苦手とか嫌いとかいうものではなく、工夫して楽しまねば、みたいな強迫観念すらあった。
正直、お風呂は世間体的に入っている。
もちろん、汚れを落とすためだけじゃなく、湯船に浸かることで体をあっためるためとか、リラックスするためとか、睡眠導入の儀式的なことにもつながるので、きっとお風呂はいいんだろう。
頭ではわかっている。
でも。
入らずにそれらの効果が同様に得られるなら、入らない道を選びそうなくらいにはお風呂に興味がない。
しかも、お風呂に入るたびにお風呂の掃除をしないといけないのが解せない。
お風呂を掃除しなくていい仕組みなら、もしかしたらもっと気分よく入れるかもしれないと思うほど。
だからなのか、銭湯はなぜかちょっと好きだ。
多分、「お風呂を洗わなくていい」という圧倒的気楽さと、「露天風呂」などの家では体感できない心地よさで、心から気持ち良くなれる。
とはいえ、実は銭湯も「露天風呂」しか快適に使ったことはない。
銭湯内の蒸気に湯当たりするので、そもそも「湯船にじっくり浸かる」のが苦手な私は、なかなかゆっくり楽しめない。
何か方法があるのかもだけど、お風呂だけだと飽きてしまうし、露天風呂の開放感がギリギリ気持ちよくさせてくれるという感じ。

全文ではありませんが、オゼキカナコさんの投稿を引用させていただきました。

オゼキさんには残念なことですが、「入らずに」入浴と「効果が同様に得られる」方法はありません。すでに当連載で何度か指摘した「シャワーだけでは入浴の効果は得られない」と同様に。

「マイナビニュース」という総合ニュースサイトが会員400人にアンケート調査をした結果(2016年)、「入浴の際、湯船にはつかりますか」という質問に対しては、「浸かる」が64.5%、「浸からない」は35.5%と、およそ3人に1人が「湯船には浸からない」と回答したそうです。浸からない理由としては、「水道代やガス代がもったいない」「時間がない」「シャワーで十分」などが大半を占めたほか、「風呂掃除が面倒」とする回答もいくつか見られたそうです。
https://news.livedoor.com/article/detail/11360761/

湯船に浸かるのが苦手な人の中には、湯に浸かっていると胸苦しくなる、湯船で温まると疲れてグッタリする、という人もいるようです。湯船に浸かって体が温められ、血行がさかんになると動脈血流が抹消へたくさん流れ込みますが、手足にむくみがあると静脈の流れが滞って心肺へ還流しにくくなるため、動悸がして胸苦しくなり、長時間浸かっていられなくなるのです。

また、巻き肩(肩の上腕骨頭が体より前に出て、肩が内側に巻いている状態のことで、背中が丸まって、あごが前に出た状態)の人や乳房の大きさが左右で異なる人は、湯船に浸かって水圧で胸郭が圧迫されると、呼吸がしにくくなり苦しくなるため、長時間湯船に浸かっていられない傾向があります。偏った体の使い方で胸郭がゆがむと、柔軟性がなくなるので水圧に弱くなると考えられています。

むくみや胸郭のゆがみはそれ自体、正していかなければなりませんが、ここではそういう人でも湯船に浸かる効果が楽に得られる方法について考えてみましょう。それは「反復浴」あるいは「分割浴」という方法です。

全身浴の目安は一般に、38~40℃のお湯に10~15分といわれています。それ以上の熱い湯に長時間浸かると、体への負担が増加します。湯船が苦手な人は、38~40℃のお湯に浸かり続けることも負担になるわけですから、1回の入浴時間を短くして浴槽外での休息をはさみながら何回も浸かる、というのが反復浴の考え方です。

入浴の専門家は反復浴の方法についていろいろな提言をしています。たとえば、41~42℃のお湯に3分浸かり、湯船から出て3分間体を冷ますというのを3回繰り返す「3-3-3入浴法」を提唱している専門家もいますし、42℃の湯に3分浸かって5分休憩を3回繰り返す、と指導している人もいます。浸かる時間、休憩の時間はそれぞれ何分がベストか、についてあまり厳格に考える必要はないでしょうが、実際に行われた医学実験では、39~40℃のぬる湯にまず5分間浸かり、浴槽を出て3分休み、再び8分浸かると、13分間連続して入るよりは体が内側から非常によく温まり、皮膚血流量がアップすることがわかりました。これは、1993年の「第58回日本温泉気候物理学医学会総会一般演題抄録」(白倉卓夫他)に掲載されています。

また、翌年の「第59回日本温泉気候物理学医学会総会一般演題抄録」には、39℃で5分入浴、3分休憩、8分入浴、3分休憩、8分入浴の全身反復浴を行った結果「末梢血液循環改善に効果があり、特に3回目の入浴時間を個々人に合わせて調整することで、より高い末梢血液循環改善効果を得られることが示唆された」(阿岸祐幸他)という論文が掲載されています。『銭湯検定公式テキスト②』(早坂信哉監修)には反復浴についてこう述べています。

「人間の体は熱くなると、体温を一定に保つために体内の熱を逃がして体温を下げようとします。高温浴で体表面だけが温まっても体はすぐに体温を下げようと反応し、あっという間に体は冷えてしまいます。それに対し、体の芯まで温めておけば、体表面に熱を伝えるまでに時間がかかります。ですから、例えば10分入浴するなら一度にまとめて入るよりも、3、3、4分に分けるほうが保温効果、つまり皮膚血流量増加状態は持続するのです。理想的なパターンとしては、湯船に1回入る時間を5分とし、これを3、4回繰り返すとよいでしょう」

一般家庭の風呂では洗い場の床が冷たかったり、天井付近と床の温度差が激しかったりということもあり、うっかり湯冷めをすると逆にカゼをひきかねません。その点、銭湯の洗い場は天井が高く、おまけに蒸気が立ち込め、タイルも温められていますから、頭の上から足先までいつも温かくなっています。さらに家庭風呂と違って、銭湯は脱衣場も十分に暖かいので、服を脱ぐときや風呂上がりの急激な温度変化が少なく、体に負担がかかりません。銭湯は反復浴に適したスペースというわけです。反復浴でぜひ苦手な「湯船で全身浴」を克服してください。


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